サラダチキンのジャーキーともやしを温めたもの

筆開紙閉

宿の冷蔵庫が強すぎる

 三月の北海道はまだ雪が散らつき……普通に積もる。夜の闇の中に白いものが天から落ちてくる。

蛍誓けいせい殿、一杯どうだ?」

 キンキンに冷えた日本酒の一升瓶とつまみを持って蛍誓けいせい殿の部屋に入る。アルコール入れていないと気が落ちて仕方がない。今回のつまみはサラダチキンをレンジで温めたものともやしを温めて鶏がらスープの素とラー油かけたものだ。あまり洗い物多くしても俺の仕事が増えるだけだしこれくらい簡単でいいだろ。

「いいですねえ」

 蛍誓けいせい殿は糸目で笑顔の素敵な成人男性風のお客様だ。同じ水属性繋がりで度々一緒に飲んでいる。

 俺が温泉宿『麗瀬石うららせせき』の客になってからしばらく経った。オーナーから温泉宿の仕事を貰い、なんとか宿に泊まらせて貰っている。俺にはこの身体カラダ以外何も残っていなかった。半分従業員みたいになっているな。ここに骨を埋めてもいいか。別にどうでも。

 とにかく俺達は窓際のスペースに行く。つまみや一升瓶、グラスを置く。

「……仕事の方は上手くいっているか?」

 俺から誘ったので俺が酒を注ぐ。

「どうもどうも。ボチボチですね」

 蛍誓けいせい殿は水と仲が良いらしく、触れた水をある程度操ることができるらしい。その関係で水辺から回収したものを売ったり、依頼を受けて水辺から失せものを探し出したりよくわからない業態の仕事をしている。話を聞く限り黒と白の間で仕事をしているっぽいのでお互い価値観が通じるところが多い。気がする。

「遺品回収とかもやっているんだっけ?」

 蛍誓けいせい殿に話を聞きながら、サラダチキンのジャーキーにマヨネーズを塗る。マヨネーズの味がする。程よい嚙み応えがある。

「遺品回収はやりがいのある仕事ですよ。依頼人の方も喜んでくれますし、あとやっぱり遺骨とかあると色々有り難いらしいですし」

 蛍誓けいせい殿はサラダチキンともやしを一緒くたに混ぜている。そういう食べ方もあるのか。俺もサラダチキンともやしを和えても良かったか。

「沈めたりもするのか?言いにくいならいいんだが」

 水に沈んだものを拾うことの逆、水に沈んでいて欲しいものを沈めることもやるのだろうか?

「……ははっ、どうでしょうねえ。ぼくばかり喋ってちゃあつまんないでしょ。八一やいちさんの話も聞きたいな」

 糸目で普段からにこやかな顔なんで、俺には蛍誓けいせい殿がどういうことを考えているかわからない。わからないが、俺はシンパシーのようなものを感じる。

 勝手に俺がそう思っているだけかもしれないが。

「好きな惣菜の話とか?俺は唐揚げかな」

NO。好きなニンゲンのタイプとか喋ってくださいよ」

 酔いが回ってきたのかグイグイ来る。冷蔵庫から追加でウイスキー出してきたな。キンキンに冷えている。

「あー。足が早い奴かな」

「ぼくみたいなのは?」

 うーん。もっと益荒男のような身体の方が良いな。

「俺より足が早いか?あとそもそも君はニンゲンじゃあないだろ」

俺も人間じゃあないが。

「行きますか?外」

 蛍誓けいせい殿が立ち上がる。

「実際に走ってみて君と俺のどちらが早いか決めようってか?」

「はい」

 雪が降っていてクソ寒い屋外に俺達は走り出して行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サラダチキンのジャーキーともやしを温めたもの 筆開紙閉 @zx3dxxx

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ