第227話 大阪の戦い3

力を解放したホロボスカミ。

そのオーラに圧倒されないように気を強く持ち、全力で小太刀を投げる。


「よし、厄介な飛行能力は無力化した。2人で攻めるよ!」

「任せなさい!」


空を飛ぶホロボスカミを撃ち落とし、地上に降りてきたところで《停止》を使って身動きを止めて倒そうとする。

しかし…


「っ!?不味い!!」


急いでホロボスカミの認識を歪めて防御を張ると、ブレーキをかけて後ろに飛ぶ。

その刹那、私達が進んでいたであろう場所にホロボスカミの強烈な雷の魔法が落ちる。

ただ落雷があっただけなのに、まるで砲撃でも受けたかのようにえぐれる地面。


もう少し接近していたらどうなっていた事か…


「おっそろしい火力ね…魔王の太刀でどうにかならないの?」

「私が何かするより、雷撃が落ちてくるほうが速い。防ぐのは至難の業だよ」

「なるほどね…っと!次の攻撃が来る!!」


今度は巨大な炎の塊。

いつぞや私が破壊したマガツカミの火炎弾に匹敵する大きさだ。

そんな攻撃をこちらへ向けてきている。


…でも、それなら好都合。


「行くよ!」


そう言って同時に走り出すとその炎の塊が迫ってくるが、冷静に炎の塊を破壊する。

突然自分の術が破壊されてさぞかし驚いたのか、ホロボスカミに致命的な隙が生まれた。

私はそこへ大太刀振り上げて斬りかかろうとした瞬間……体が固められたかのように動かなくなった。


「……こいつ、頭いいね」

「…ああ、そういうこと」


探知を強めると、私があと一歩で踏んでいた場所に、設置型の魔法があった。

踏めば少なくとも足が吹っ飛んでいた。中々恐ろしい魔法を使うものだよ。


《停止》を解除してもらい、数歩下がる。

空には飛ばす、こちらを見つめるホロボスカミと睨み合う。

私の太刀を脅威だと見て、力で攻めるのではなく確実に私を潰すことを選んだ。

厄介な敵だ。


「……でも、どうしてかな?何やら怯えているようにも見えるけど?」

「………」

「だんまりか…なら、私はお前を全力で潰すだけだ」


そう言って、まずは設置型の魔法を全て壊す。

コイツが魔法で攻撃してくる限り、私は相性がいい。

その相性の良さを活かして、ホロボスカミの全ての攻撃を無効化しながら前へ出る。


「止まれ!」


後ろからそんな声が聞こえた直後、ほんの一瞬。

1秒にも満たない時間、ホロボスカミの動きが止まった。

本当にわずかな時間だけど、私達にとっては十分すぎる時間。

大太刀の長い刀身を活かし、逃げようとするホロボスカミの体を袈裟斬りにした。


しかし、大ダメージには至っていないみたい。

ホロボスカミはその勢いを利用して、後ろに飛んだ。


「……手応えなし。霊体化してダメージを抑えたか」


霊体化…厄介な力を使うものだよ。

そんな事を考えていると、『牡丹』が私の隣まで来る。


「『菊』。コイツ多分…」

「言われなくても分かってるよ。わざわざ私の攻撃を霊体化してダメージを抑えようとするあたり…もう復活出来ない」


突然のホロボスカミの覚醒。

それ正体は、即復活を失う代わりに力を得ると言うもの。

…もしくは、本来の力を大きく失う代わりに即復活していた、かな?

その力を取り戻したのが、今のホロボスカミとコワスカミの状態。


「2人にも共有する?」

「しなくてもあの2人なら分かってるよ。私達は目の前の敵に集中する」


袈裟斬りにされて出来た傷を癒したホロボスカミ。

仙台で戦ったマガツカミもこんな感じだったね。

…でも、マガツカミほど恐ろしくは感じない。


「アイツの弱点は頭じゃない。そして、心臓でもない」

「…それが何?」

「アイツの弱点は四肢。四肢を破壊されると、その部位の修復に大量の魔力が必要になる」


『牡丹』に霊体の弱点を伝えると、鋭い目でヤツを見つめる。

その圧はホロボスカミの警戒心を刺激し、まだ何もしていないのに強力な魔法をいくつも生成する。


「…霊体の弱点は魔力の消耗って訳だね。なら…壊しちゃって」

「はいはい…」


指でサインを送ってくる『牡丹』そのサインの意味を理解した私は、こちらへ飛んでくる魔法の数々の相手をする。

『牡丹』と一旦別れて私は正面から攻撃を仕掛けると、やはり大量の魔法が次々と襲い掛かってくる。


「物量攻撃ね…確かに悪くない。こうなると私は出来ることが限られる」


一発の威力はマガツカミの方が高い。

でも、単純な手数ならホロボスカミのほうが上か。

面倒だね。


威力は高くないものの、手数だけは多い攻撃を捌き続ける。

…威力は高くないと言ったけど、魔法の全てにご丁寧に即死攻撃が付与されてるから、当たったらマガツカミよりヤバイ。

対個人への殺傷力はマガツカミより上かもね。


「まあ…それでも問題はないけどね」


私がそう呟いた直後、ホロボスカミの5体が切り刻まれる。

霊体化しているホロボスカミにはその攻撃はそれほど脅威じゃないのかもしれない。

けど、確かなダメージだ。


「純粋な戦闘力だと敵わないね。…と言うか、武器の相性が悪い」

「小太刀と大太刀に分けるんじゃなくて、普通に刀にして戦えばいいじゃない……それはともかく、かなり効いたんじゃないの?」


私のところに戻ってきた『牡丹』。

ホロボスカミをズタズタに切り裂いたのは、言うまでもなく『牡丹』だ。

私の認識阻害を付与した『牡丹』の奇襲。

この攻撃は、主君でも防げない。

こんな魔法と即死しか取り柄なのないデカブツにどうこうできる訳が無いんだよね。


「改めて『菊』ってイカれてるわよね…どうしてこの力が許されて、『天秤』が許されなかったのか…」

「私と『天秤』のコンボを想像してご覧?」

「…どっちかは消しておくべきね」


《天秤》でありとあらゆる優劣が覆された上で、私の認識阻害によるハメ殺し。

この2体とヒキイルカミを同時に相手しても勝てるくらいには強い。

と言うか、どっちかは消さないとマジで話にならないんだよね…


数百レベルの差を埋められて、戦場にいる全員に恩恵を付与する《天秤》。

格上相手でもとんでもなく刺さり、対策を知っていても、いくらでも応用を効かせて対策を無かった事にできる《隠蔽》と《偽装》の組み合わせ。


仮に『天秤』の代わりに私が死んでいてもこの勝負は勝てただろうし、私が生き残っててもこの状況。

確実に一体ずつ始末できる私を残すか、場にいる全員に影響を与え、決着を早める『天秤』を残すか。

その答えは私が生き残るというものだった。


……どの道ここでこの2体が倒されるのは想定内。

それを踏まえてのシナリオという可能性もあるのか。

だとしたらこの場合の蝶の神にとっての想定外とはなんだ?

私達が負ける?

いや、それは想定内だろう。

例えば、コワスカミが私の妨害をしてくるとか、戦力を甘く見た結果、私がこの場にいなかったとか。

そういう可能性を考慮しての想定外……駄目だ、思いつかない。


そもそも、今の今まで蝶の神の想定通りに動いているのに、いきなり想定外が発生するなんて早々無い。

…そんな話をすれば、世界の法則すら捻じ曲げるような神に『想定外』なんて概念があるのか?


「『菊』。いつまで考え事をしてるの?さっさと構えて」

「あぁ…そうだね。まずは目の前のことを、ね?」


自分に言い聞かせるようにそう呟き、私は体がほとんど再生したホロボスカミに斬り掛かった。

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