第225話 大阪の戦い

『花冠』近畿支部会議室


主君の命を受け私『菊』は、すでに揃っていた同僚の待つ会議室へ入った。


「お疲れ様。姐様とのお別れはできた?」

「そんなこれから死にに行くみたいな言い方しないで欲しいね。姉さん」

「そうよ。私達は勝ちに行くんだから」

「勝ちに行く、ね……ふっ」

「…なに?」

「なんでも?」

「はいはい。2人とも喧嘩は後でして。姉さんも止めてよ」


2人の喧嘩を止めると、私も椅子に座る。


「主君から受けた命は…簡単に言えば、やばくなったら撤退。居なかったら撤退。それだけよ」

「随分端折ったわね…2人とも分かった?」

「様はイレギュラーが無ければ倒せってことでしょ?問題ない」

「右に同じく」

「大丈夫そうね。じゃあ、行きましょう」


そう言って、『紫陽花』姉さんが立ち上がる。

『青薔薇』と『牡丹』も立ち上がると、会議室を出ようとした。


「まあまあ。とりあえず作戦会議ぐらいしましょう。ちょっと時期尚早じゃない?」

「そう?なら、2人から相手の詳しい話でも聞こうかしらね」


姉さんは座ってくれた。

そんな姉さんを見て、2人も席に戻ってくれる。

私は安心して話を始める。


「敵はコワスカミとホロボスカミの2体。コワスカミの能力は破壊に特化していて、《停止》が無効化されるほど。つまり、この時点で『虚構』は使えない」

「あなたが破壊の力を受けても対応できるなら、話は別だけどね」

「無茶言わないでよ。『虚構』は精密な術なんだから」


『青薔薇』が軽口を叩くがこっちはそんなに簡単に言えない。

『虚構』は強いけど精密な制御が必要だし、めちゃくちゃされると簡単に壊れる。

と言うか、強い魔力を放っているだけで対策できちゃうほど、対策を知られてると弱い。


なんだったら、おそらく『虚構』の情報はヒキイルカミ経由で相手に漏れてる。

対策されていることを前提として、そもそも使わない方向で話を進めたほうがいい。


「能力の相性的にも『菊』と私はコワスカミの相手は出来ない。ホロボスカミ相手なら完勝できる」

「確か、ホロボスカミは劣化版マガツカミみたいな奴だったわね。魔王の太刀を持つ『菊』とは相性が良いでしょうし、相性次第では格上相手でも完封勝利出来る『牡丹』を配置するのが賢いわね」

「じゃあ、私と『牡丹』がホロボスカミ。姉さんと『青薔薇』がコワスカミの担当で良いかな?」


姉さんと『牡丹』の2人の会話を聞いて、私は誰がどっちを担当するかを決めた。

3人とも私の意見に異議はないらしく、首を縦に振ってくれた。

あとは相手の弱点の把握とどんな攻撃をしてくるかの情報の共有だね。


「『青薔薇』。コワスカミの攻撃の特徴って分かる?」

「基本は物理攻撃ね。パワータイプのくせにそこそこスピードも出せるから厄介。……ああ、スピードは私の方が速いくらいの速さね?」

「かなり速いね…破壊の能力は?」

「ほとんどの攻撃に使われてる。まともに食らったら即死くらいの気持ちで行ったほうがいい。…まあ、それはホロボスカミも同じだけど」


まともに喰らえば即死。

中々厄介な能力だね。

やっぱり、単純なバカ火力は強いんだよ。

主君がその良い例。


「『牡丹』。ホロボスカミの特徴は何?」

「そうね……まあ、空を飛ばれるのが厄介な事かしら…即死攻撃は正直そんなに脅威じゃない。私は魔法の類は効かないし、そもそも今回に関しては『菊』が居るし」


『牡丹』は《停止》のスキルで魔法をほとんど無効化できる。

ほぼ全ての魔法が『牡丹』に届く前に止められてしまうからだ。

…ただ、それでもやっぱり空に飛ばれると厄介。

『牡丹』だけなら面倒だったかもね。


「魔法で飛んでるなら私が撃ち落とせる。相手はマガツカミの劣化。飛べると分かってるなら何も怖くない」

「魔王の太刀。中々イカれてるわよね」

「《偽装》と《隠蔽》とか言う強スキル持ってるのに、どうして4位止まりなんだか…」

「本気を出せばもう少しやれるでしょう?どうして上を目指さないの?」

「買い被りすぎだよ。私から太刀とスキルを取ったら姉さんにすら勝てないよ」


私は確かに強い。

でも、素の戦闘力はそこまで高くない。

……今のままでも十分やれるからこそ、これ以上強くなる必要がない。

私は…武器とスキルの活用でこの地位に居るんだから。


「……尊敬する人を超えるってのは、悪くない事だと思うけどね」


…姉さんは無責任にそう言った。

私が4位に留まるのは、これ以上強くなったら主君を超えてしまいそうで恐ろしいから。

それの意味を、みんな分かってない。


「……とりあえず、私と『紫陽花』姉さんでコワスカミの対策を考えてくるから。後で合流しましょう」

「私もホロボスカミとの戦闘に備えてちょっと魔力の調整をしてくる。落ち着いたら呼んで」


空気を読んだ2人が姉さんを連れて部屋を出ていく。

1人だけになった部屋で、私は天井を見上げて溜息をついた。


「…組織に必要なのは、幹部含めた構成員の手綱を確実に握れる力を持ったリーダー。もし私が主君を…咲島さんを上回ればその絶対的地位が揺らぐ。……私は、神林さんや一葉ちゃんとは立場が違うからね」


あの2人は良いよね。

何にも縛られないって言うのは本当に強い。

縛られない強さ……まあ、主君は私を手放さないだろうし、私が手に入れることにできない強さだね。


『花冠』は構成員の多くが女性を守る為に、危害を加えそうな男を消す事を本気で是としている過激な反社集団。

…私もその1人だ。

男なんて…滅びてしまえばいいと思っている。

そんな、過激な集団だからこそ…そんな人間を纏め上げる圧倒的な力を持った支配者が必要。

それが、咲島さん。


「過激な思想をと確かな力を持った犯罪者共を無秩序に世に放たない為に…私はこの地位にいるってのに…」


私の懸念なんて知りもしないであの人は…

…まあ良い。

姉さんは悪気なく言ったんだ。

それ別に…悪い事じゃない。


「……行こう。善は急げだ」


私はその言葉を胸に会議室を出る。

出てすぐの壁にもたれかかって私を待っていた『牡丹』を回収し、別室で世間話に花を咲かせていた『紫陽花』と『青薔薇』拾ってダンジョンへ向かった。


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