第214話 本気の戦い
背後から嫌な気配を感じた私は、《鋼の体》を壁のように展開する。
でも、これはあくまで気休め。
簡単に突破されることを前提としているから、正直あんまり意味はない。
私はジャンプで木の上に逃げると、その直後凄まじい魔力を放つかずちゃんが現れ…
「『鳴草薙』」
私のいた場所にかなり高出力の『鳴草薙』を放った。
…殺す気で来てとは言ったけど、マジで死にかねない技を撃ってくるのか…恐ろしい。
「やっぱり、《鋼の体》は使うだけ無駄だね。大事な時に役に立たないや」
木の上から降りると、まるで薄氷のように容易く叩き割られた《鋼の体》のバリアを見て話す。
かずちゃんに言ったつもりだったけど、集中しているからか無視されてしまう。
そして、私に斬りかかろうとして…私が拳に纏わせている魔力を見て後ろに下がった。
「当たれば大ダメージ…下手に近付くと手痛い反撃を喰らいますね」
「それを言ったら私もそうだよ。自分の間合いまでどうやって入るのが本当に大変なんだよね」
今私達は距離を置いて睨み合っている。
この状況で不利なのは私だ。
私がかずちゃんに勝つためには、かずちゃんが刀を使えない超至近距離のインファイトを仕掛けないと行けないんだけど…かずちゃんの懐に潜り込むまでが大変。
何故なら絶対にかずちゃんの間合いを通らないといけないからだ。
(お互い警戒してるから、簡単には近付けない。どっちが動くかによって勝敗が決まると言っても過言じゃないんだよね…)
かずちゃんの方から動いてほしいところではある。
私は攻めより守りのほうが得意だからね。
慣れない攻めをして隙を晒したくはない。
そんな事を考えていると、かずちゃんが刀を強く握り何も言わず突っ込んできた。
私もすぐに守りの構えを取る。
「二ノ太刀『双竜』」
「っ!?」
そんな言葉が聞こえ、私は警戒度を跳ね上げる。
魔力の流れをよく見ると、かずちゃんの魔力が濃くなっている場所が2箇所ある。
1つは今かずちゃんが刀を振ろうとしている左側。
高速で思考している為にゆっくり見える世界の中で、まずは左からの攻撃に備える。
この魔力が濃くなっている場所は、かずちゃんが攻撃しようとしている場所だ。
そしてあの技の名前…それから推測するに…
左からの攻撃を後ろに飛んで躱すと、かずちゃんは刀を切り返した。
(この攻撃は…高速の2連撃!)
回避行動を取った後の隙だらけの私に、かずちゃんは2連撃目を叩き込む。
雷のような素早い斬撃。
躱せない。
無傷で済むのは不可能か…なら、多少の怪我は許容しないと。
私は強引に体を捻ると、少しでも刀が当たる面積が減るように動く。
なんとか直撃は避けたものの、少なく見積もって2、3センチは腹を切られた。
でも、この程度なら許容の範囲内。
魔力操作とフェニクスの再生でどうにでもなる。
それよりも大事なのは…
(無理に避けたせいで体勢が……まあ、流石にもっと攻めてくるよね!)
技を躱そうとした事で、体勢が悪くなってしまったのだ。
そのせいであらゆる行動が取りにくくなる。
そこへかずちゃんが追撃してきたんだ。
追撃…避けられるとは思えないし、どうせ当たるなら…
「相打ち上等!これでもまだ前に出る!?」
「………いいえ」
ダメージ覚悟で前に出て拳を振りかぶると、危険と感じたかずちゃんが退いてくれた。
よし!これで体勢を立て直せっ!?
「ダメージを受けるのはあなただけですよ。神林さん」
「くっ!!」
退いたように見えて、かずちゃんは少し後ろに下がっただけだった。
この間合いは…かずちゃんの得意な間合い!
私にとって最も危険な場所!
とっさに瞬間的に使える全ても魔力を使って《鋼の体》を発動する。
そのおかげでなんとか攻撃を受け止められた。
渾身の攻撃が失敗に終わった事で、かずちゃんは大きな隙を晒した。攻めるなら今!!
「―――なんて、考えてるんじゃないですか?」
「えっ?」
かずちゃんの顔の目の前に魔法陣が現れる。
攻撃魔法…後隙を攻撃魔法で埋めるつもりか!
こういう時に使う魔法は2つ。
1つは……
「『雷撃』」
雷属性の魔法にして、貫通効果を持つかずちゃんの速射魔法。
当たれば体が痺れて面倒な事になるだろうし…防御しないわけにはいかない。
《鋼の体》を全身に纏い、『雷撃』から身を守ると…かずちゃんは既に体制を立て直し次の魔法を放とうとしていた。
「『風撃』」
放たれるのは風の塊。
当たっても大したダメージは無い。
けれど、人が簡単に吹き飛ぶほどの突風が脅威だ。
吹き飛ばされたら致命的な隙を晒すことになる。
当たったらおしまいと考えたほうがいい技だ。
(コレの対処法は…)
私はその場で強く地面を踏み締めると、全力で拳を振り下ろす。
風の塊を大量の魔力を纏った拳で粉砕し、発生した突風も魔力の勢いで掻き消す。
こうする事で、風の魔法は対策できた。
……まあ、攻撃したことで大きな隙を晒しちゃったんだけどね?
「っぶな!」
「チッ…」
「今舌打ちしたよね!?酷くない?」
「神林さん。今は本気の戦いをしてるんですよ?私のことを恋人だと思って手加減してるなら…その間違いを正します」
「――っ!!」
なんとか刀を避けたけど、舌打ちされた。
その事を「酷い!」って抗議したら、かずちゃんに睨まれた。
その目には、優しさや愛なんて微塵も感じられない。
本気の殺意が籠もっていた。
「その殺気…本気なんだね」
「間違って殺しちゃうかも知れないくらいの勢いで私はやってるんです。ふざけた事言わないでください」
そう言って、容赦なく刀を張り上げるかずちゃん。
私はそれを回避すると、自分の間合いに入ってかずちゃんを殴ろうとしたが…
「………」
「やっぱり、勘の良さは本物ですね。もう少し前に出ていたら手を切り落とせたのに…」
「まあ、ね?」
直感的にやばいと感じて、私は自分の間合いから離れてかずちゃんから距離を取る。
あのまま前に出ていたら斬られてた。
それも、今回ばかりは軽症では済まない深さで。
「さて…いい加減お遊びはおしまいにしましょう。私はそこまで我慢強くないので」
「無駄に急いで失敗しても知らないよ」
「その心配はしなくて結構ですよ。私は失敗を恐れてはいないので」
そう言って、纏う魔力の量が目に見えて増えたかずちゃん。
本気モードか…この時のかずちゃんの強みはスピード。
純粋に動きが良くなって、攻撃の手数が増えるのがほんとに厄介。
なら、私はどうやって対抗するのか?
「すぅ〜……はぁ〜……」
深呼吸をして魔力の流れを整える。
攻撃を受ける時の基本は常に冷静でいること。
焦れば焦るほど動きが雑になり、それが結局隙へと変わる。
精神と魔力を波立たせず、冷静に相手を見る。
「来なよ。いつもの様に、受け止めてあげる」
「寛大な神林さんは大好きですよ。愛も殺意も…私の全部を受け止めてくれる。だからこそ…手加減は無しです」
声のトーンが下がり、笑顔が消えた。
真剣な表情に刃物のように突き刺さる殺気。
緊張が私達の間を流れ、お互い微動だにせず相手を見続ける。
呼吸も、瞬きも、鼓動も。
相手の隙になり得る全てを注意深く観察し、時間だけが過ぎていく。
(気は抜けない。集中力を切らしたほうが負けだ)
1分、2分、3分と時間が流れるが、お互い構えたまま一切動かない。
…動きたくても動けない。
(私はそもそも攻めが苦手だから動けないし、かずちゃんは出だしを私に見抜かれたら簡単に抑えられて反撃を食らうから、滅多な動けない。…誘ってみるか)
息の詰まる思いをしていたし、ちょっとした息抜きは必要。
ギリギリかずちゃんに気付かれるくらい、多めに息を吐くと…
(来た!!)
雷のような踏み込みを見せたかずちゃんが私のすぐ目の前にいる。
刀は私の首を確実に捉え、このまま行けば私は胴と首が離れる。
…でも、避けない。
かずちゃんの目を見つめ、微動だにしない私を見てかずちゃんの意識に一瞬迷いが芽生えた。
ここだ。
この隙を絶対に逃しちゃいけない。
《鋼の体》の防御を全て首に一点集中し、前に出る。
刃の根元でかずちゃんの刀を受けると、そのまま強引に掴みかかった。
この距離なら負けない。
ぞう確信した瞬間、予想外のことが起こる。
「私が…格闘を全く出来ないと思いました?」
「――っ!?」
先に攻撃を当てたのは私ではなくかずちゃん。
かずちゃんの膝が私の腹にめり込み、内臓が圧迫される。
…でも、これくらいなら!
「ちょっと出来たところで、ここは私の間合いなのよっ!!」
「ぐっ!」
本気のパンチをかずちゃんの鳩尾に叩き込む。
私のパンチをまともに受けて無事で済むはずもなく、かずちゃんは涙目になって苦しんでいる。
可哀想だけど、そう言う戦い。
手加減なんかせず追撃をしようとした次の瞬間、胸倉を掴まれ鳩尾に良い一撃を食らった。
「普段誰と喧嘩してると思ってるんですか…これは、いつもの延長ですよっ!」
「うぐっ!!」
胸倉掴まれた状態で2回。
2回殴られた。
この私が…かずちゃんに格闘で遅れを取った。
「うっ――!?」
「その挑発、乗ってあげるよ。どっちが先に伸びるかなっ!!」
「がはっ!?…もちろん、神林さんですよっ!!」
「くっ!?」
私もかずちゃんも、手加減無しの本気のパンチを相手の鳩尾に叩き込む。
…まあ、私は魔力武装を使ってない。
かずちゃんは格闘で魔力武装を使えないからね。
同じ条件じゃないと、フェアじゃないでしょ?
…でも、魔力武装が無い状態での殴り合い。
それは大してダメージを食らわないのにただただ苦しいから、これは茶番だ。
いつかはやめないといけないけど…かずちゃんがやめないなら私もやめない。
だって、その方が私にとって得だから。
…とは言っても痛くて苦しい事に変わりはなく…
お互い苦悶の表情で一心不乱に相手の鳩尾を殴り続けた。
そして、
「「うっ――!?はぁ……はぁ……」」
同時に耐えきれない強い一撃が入り、思わず吐きそうになる。
いつもの様に抱きしめ合って、呼吸と魔力を整える。
その最中に、私は話しかけた。
「このまま茶番を辞めたら私が勝っちゃうけど?」
ここは私の間合いだ。
茶番を辞めて戦いに戻ったら私が圧勝する。
そう言うと、かずちゃんは上目遣いで私の目を見ると、自信に満ち溢れた目で返事をする。
「大丈夫ですよ。勝算はあるので」
そう言うと、右手を離して左手だけで私に抱き着いてくる。
もちろん、右手には刀が握られている。
放すと同時に斬り掛かってくるとかかな?
もしくはフェイントを掛けて私を混乱させ、隙をついて…的な。
どんな方法で私と戦うつもりなのか…ふふっ、楽しみだね。
かずちゃんがどんな攻撃をしてくるのか楽しみにしていると、左手が離れた。
ゆっくり、スッと離れたものだから戦闘開始なのかそうじゃないのか分からずにいると、いきなり腹蹴られ、風の魔法で吹き飛ばされる。
「チッ!なんて卑怯な!」
「卑怯でも勝てればそれでいいんですよ!」
体勢を立て直してすぐの私にかずちゃんの刀が振り下ろされる。
あの威力は…受けられない!
即座にそう判断して避けると反撃の蹴りを放つが避けられた。
そして…
「四ノ太刀『雷角』」
強い魔力を纏い雷を帯びた刀が迫って来る。
私はすぐに回避の体勢を取るが…突然刀の軌道が変わる。
そして、最初振られていた方向とは反対方向から刀が飛んできて、私の体を捉えた。
「うぐっ…!」
「まだまだ終わりませんよ。二ノ太刀『双竜』」
「くっ…!」
続けざまに2連撃。
どちらも躱せず、《鋼の体》の防御でいくらか威力を落として受けた。
ただ、かなり深くまで切られてしまい、危ない状態。
このままだと不味い。
私はダメージ覚悟で前に出ると、思いっきりかずちゃんを膝で蹴り、そのまま吹き飛ばす。
「かっ――!?」
「肋骨が折れたかな…どうする?攻めてくる?」
いい一撃が入った。
吹き飛ばされ
木に叩きつけられたかずちゃんを見て挑発的にそう言うと、かずちゃんはふらふらと立ち上がって、刀を構えたまま動かない。
…回復待ちか。
かずちゃんは回復魔法も使えるから、長期戦で不利なのは私。
こっちから攻めないと不味いか…
不慣れな攻撃を仕方なくすることになり、嫌々距離を詰めて殴りかかろうとした瞬間、また私の勘が警鐘を鳴らし、急いで距離を取る。
気が付くと、頬と腕と太ももを軽く斬られていて、血が流れ出す。
「六ノ太刀『剣域』。よく見破りましたね。あのまま前に出てくれたら私の勝ちだったのに…」
「受けの剣術か…面倒な技持ってるね」
自分からは動かない代わりに、間合いに入った相手に高速の斬撃を何度も浴びせる。
恐ろしい技だ…警戒しないとね。
…でも、あれどうやって攻略しようか?
下手に近づいたら八つ裂きだし…近付かないと回復されて私が不利。
…どうしようもないね。
なんとかして少しでも気を引ければ良いんだけど……ん?
私はとある方法が頭をよぎったこの方法なら突破できるかもしれない。
受けの姿勢を取ったってことは結構効いてるはず。
なら、このまま押し切ればいい。
その方法を実行すべく、私は近くにあった木を掴むのだった。
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