第212話 竜の巣

『さあ、生き残ってさらなる高みへ、頂へと手を伸ばすんだ。ここはきっといい成長の場になる』


蝶の神のそんな声が聞こえ、私は目を覚ます。

まだ眠い目をこすりながら体を起こすと、ボロボロの小屋の中に居た。

天井の一部に穴が空き、壁はわかりやすく劣化している。

そして床も…植物の芽が見えるくらいにはボロボロだ。


…でも、不思議とホコリ1つ無い。

空気も澄んでいて、とてもただの小屋とは思えない清潔さを感じる。

ボロ屋とは矛盾した清潔。


「う〜ん…だっこ…」

「何寝ぼけてるの?もう起きてるんでしょ?」

「うっ…バレてた」


私の横で寝たフリをしていたかずちゃんを起こすと、ボロボロのドアを豪快に蹴破る。

…ボロボロ過ぎて、ドアが吹き飛ぶ前に穴が空いて、脚がハマった。


「…何やってるんですか?」

「いや…敵が居たらって…」

「間抜けですね〜…」

「……帰ったら知り合い全員にあの情けない寝顔を晒すね?」

「すいません。私が悪かったです…」


少し前に撮ったかずちゃんのとんでもない寝顔。

私は可愛いから好きだけど、本人は顔から火が出るほど真っ赤になって恥ずかしがってる。


ふっ…勝ったね。


「とりあえず、外に出ないことには始まらな――」


大きな気配。

私達でも苦戦するレベルの強力なモンスターの気配を感じ、私達は自分の気配を殺す。

波風立てず、じっとしていると気配は私達の探知範囲外に出ていった。


「………」

「………行ったかしら?」

「多分…大丈夫だと思いますよ」


カミに匹敵するほど強い気配を感じた。

その上、気配を放つやつ自体もかなり大きい。

デカいは強い。

単純な理屈だけど、これは本当に厄介。


「なんだろう…」

「この異空間特有のカミですかね?」

「カミを倒すための試練がカミ、ね…面白いじゃない」

「私達が倒せるくらいのカミだって願っていますよ……さて、じゃあ先に近くにいるモンスターを始末しますか」


この小屋の近くにいる複数のモンスター。

そこそこ…と言うか、まあまあ強そうに見えるから、先に倒しておきたい。


飛び出すように小屋から出ると、あのモンスターが戻ってくる前に始末すべく気配の元へ走る。

…しかし、現場について私達は脚を止めた。


「まじか…ドラゴンは聞いてないなぁ…」

「レベルは120…まあまあどころじゃない強敵ですよ?」

「…勝てないの?」

「まあ…カップラーメンが作れるくらいの時間はかかりますよ」

「なら大丈夫だね。コース料理だと思って楽しみましょう」


ドラゴン。

それはカミを除けばダンジョンで最強のモンスター。

その強さはまさに一騎当千、万夫不当。

私達が最初に出会ったドラゴンは仙台の地竜。

咲島さんにワンパンされてた奴だ。

次は早川のペット。

かずちゃんを傷だらけにした許せんやつだけど…こちらもワンパンされてた。


…つまり、めっちゃ強いモンスターではあるけれど、咲島さんクラスの最上位上澄みになると別に敵じゃない。

と言うことは、私達の敵じゃないってこと。


「魔石や経験値が手に入るといいんだけどねぇ…」

「竜の魔石なんて、売ったら相当高値で売れますよ。なんだったら咲島さんに頼んで『花園』で買い取ってもらいます?」

「別にギルドで良いでしょ?気にする程でもないよ。そんなにお金欲しい?」

「まあ、要らないですね」


既に合計で40億くらいのお金を持ってる私達。

…いや、50億超えだったかな?

桁が桁だからもう覚えてない。

よっぽど変な買い物しない限り、私達は使い切れない程のお金があるんだ。

いちいち覚えてないね。


「じゃあ私は頭を押さえる。かずちゃんはその隙に…まあ、なんかして」

「はいはい。なんかしますよ」


同時に飛び出すと、私達は別々の方向に走る。

私は顔に、かずちゃんは尻尾に。

…尻尾に攻撃しても意味なくない?


「まあいいや。とりあえず殴られろ」


飛び上がってドラゴンの頭上に来ると、拳を振り下ろす。

バゴンッ!と言う音が鳴り、ドラゴンの首がガクンと下へ向く。

いきなりとんでもない威力で殴れればそれくらいにはなるだろうけど…硬いな、コイツ。


「…硬い。何も考えずに切ろうとすると切れ味が落ちそうです」

「そっか…こっちもただパワーで押すだけじゃ駄目だね。コイツ硬い」


頑丈な鱗だ…ドラゴンってのはこんなにも強いモンスターだったのか……っ!?


「かずちゃん!!」

「っ!?」


猛烈に嫌な気配を感じ、私はかずちゃんに警告する。

私の声を聞いて、かずちゃんが即座にドラゴンから距離を取ると―――


「がはっ!?」


突然、《鋼の体》が突破されるほどの大ダメージを受け、私は吹き飛ばされた。


…何が起こった?

魔力爆発?

でも、ただの魔力爆発如きで私がダメージを受けるなんて…


「『鳴草薙』ッ!!!」


かずちゃんの魔力を大きく感じた直後にそんな言葉が聞こえた。

そして、わずかな間を置いて誰かが私の体を抱き上げ、小屋へ駆け込む。


「大丈夫ですか!?神林さん!」

「かず、ちゃん…」

「あの魔力爆発…ただの攻撃じゃないです。なにか…魔力とは別のエネルギーを感じました」


どうやら私のことをここまで連れてきたのはかずちゃんらしい。

状況から考えるに、私がやられてすぐに技を使ってドラゴンを倒し、ここまで逃げてきたって感じか…

私の為に切り札であるあの技を使ってくれるなんて…嬉しいね。


「あの魔力爆発は危険です。それをいち早く気付いてたのになんで…!」

「…いけるかなって」

「悪い癖が出てますよ。神林さんは《鋼の体》のお陰で守られていますけど、今みたいに突破された時、大ダメージを受けるんですから。もっと回避をしてくださいって、いつも言ってますよね!?」


珍しく私に本気で怒るかずちゃん。

くだらない理由では無く、真っ当で至極その通りな怒り。

…最近、ちょっと調子に乗ってたかもね。

ここに来て、《鋼の体》を突破するモンスターが現れたか…

ドラゴン…正直舐めてたけど、やっぱり最強のモンスターは伊達じゃないかぁ…


「…回復が終わったら、魔石を回収して他のモンスターを倒すよ。気配的に、多分ドラゴンでしょ?」

「次は油断しないで下さいね」

「分かってるよ。もう同じミスはしない」


お金は要らないとは言え、ドラゴンの魔石は価値の塊。

持って帰らないなんて選択肢は無いね。

一体いくら売れる事やら…


回復が終わったあと、宣言通り魔石を回収すると私達は次のドラゴンを倒しに行く。

流石にもう油断はしない。

最初から私の出せる最大火力で攻撃し、一撃で怯ませる。

そこにかずちゃんの攻撃が炸裂し、首を真っ二つにした。


「…こう見ると、アレは過剰火力だったんじゃない?」

「ちゃんと火力は3分の1まで抑えてますよ。…それでも今の攻撃の倍近い威力がありますけど」


やっぱり過剰火力だね。

イカれてるよなぁ…あの技。

別に《神威纏》を使ったわけでも最上級アーティファクトを使った訳でもないのに、咲島さんクラスの広範囲殲滅攻撃が出来るんだもん。

…そう考えるとかずちゃんって化け物だね?


「…なんか良くないこと考えました?」

「いや全然」

「ならいいんですけど…」


かずちゃんに気付かれかけたけど大丈夫。

話を戻してと…かずちゃんが居るなら火力面は問題無し。

回復も出来るしほんとに優秀。

後は私にヘイト集めが出来る能力があれば良いんだけどなぁ。

…でも、そんなスキル聞いたこと無いんだよね。


「かずちゃん。ヘイトを集めるスキルって無いの?」

「なんですか?藪から棒に…そんなスキル聞いたこと無いですね。そもそもヘイトなんか集めてどうするんですか?」

「いやぁ…そうしたら私がもう少し壁役として活躍できるかなぁって」


どうやらかずちゃんも知らないっぽい。

…それに、なんかちょっと怒ってる?


「もっと自分の身を大事にしてください。現実でヘイト集めのスキルなんかあったら最悪ですよ」

「なんで?」

「よく考えてみてください?ヘイトを集めるスキルと言うことは、モンスターから狙われ続けるって事ですよ?」

「それの何がいけないの?」


それこそタンクの仕事。

敵の注意を引いて、他の仲間に攻撃して貰う。

立派に役目を全う出来るじゃん。


「モンスターに狙われ続ける…どっちかが死ぬまでその状況は解除されないんですよ」

「…逃げられないって言いたいの?」

「そうじゃ無いですよ。簡単に言うと、一人にダメージが集中し過ぎて逆にタンクを全う出来ないんです」

「え?」


ダメージが集中し過ぎて逆にタンクを全う出来ない?

そんな事ある?


「良いですか?この世界には確かにステータスと言う概念はありますけど、耐久力…よく言うHPの概念はありません。攻撃を受ければアザが出来ますし、肉が削れるかもしれません。骨だって折れます。そんな状態で更にダメージを受ければどうなるか…」

「人間は打たれ弱いって事?」

「人間に限らず、モンスターを含めた全てがそうです。神林さんだって、《鋼の体》が突破された瞬間大ダメージを受けてましたし、ドラゴンだって私がちょっと強い攻撃をしただけで首を切り落とされて死にました。この世界、攻撃力の高さの割に耐久力は無いんですよ。当然ですけどね」


…確かにそうかも。

いくら覚醒者として強くなっても、防御はそこまで強くならない。

人は手榴弾が目の前で爆発したら死ぬ。

それを私達に当てはめるなら、私の本気パンチを受けたら死ぬ、みたいな感じかな?


でも、手榴弾より強い爆弾なんていくらでもあるように、私のパンチより遥かに高火力な技は沢山ある。

どれもこれも当たれば即死級の技ばっかりだ。

…そんな技使わなくたって、首を刎ねたり心臓を刺せば相手を殺せるのに。

火力のインフレは凄いけど、ここはあくまで現実。

アニメや漫画のような謎耐久は無く、生物みな呆気なく死ぬ。


ただ、死なないためにあの手この手で防御の手段を使ってるだけで、本来直撃すれば簡単に死ぬほど弱いんだ。

そう考えると、ヘイトを集めるスキルって使えないね。

ただの自殺行為じゃん。


「意味を理解してもらえたようで何よりです。だから、わざわざヘイトを集める必要はないんですよ。その前に圧倒的火力で叩き潰せば良いんですから」

「攻撃こそ最大の防御だったか…」

「その通りです」


そう考えると、私が伸ばすべきは《鋼の体》じゃなくて魔力武装の方だね。

攻撃を避けて高火力で叩き潰す。

それが答えだった。


次のドラゴンを不意打ちでワンパンしながらそんな事を考えていると、さっきの強大な気配がこっちに向かってくるのが感じられた。

慌てて小屋に戻り、隠れると小屋の近くまでその気配の主がやって来る。


「デカイ…」

「アレを倒すんですか…中々に無茶ですね」


現れたのは、山一つ分くらいはありそうな巨体を持つ竜。

その脚が、今小屋の目の前にある。


「…この小屋、もしかして隠密効果があったりする?」

「なるほど…あり得ますね」

「他にドラゴンの気配は無いし、体力と魔力が回復するまでここで待機もありじゃない?」

「そうしましょう。実は結構魔力を使ってて…」


かずちゃんの攻撃は大量の魔力を使う。

でも、その割にかずちゃんはそんなに魔力を持ってない。

…もちろん、一般的に見ればバケモノみたいな量を持ってるけど、私達と比較すると少ない部類に入る。


そんなかずちゃんの魔力回復の為にも、一旦小屋で休憩をする。

暇になったのでかずちゃんが小屋を鑑定した結果、隠密効果がある事が分かった。

ボロ屋でドアに“何故か”穴が空いているけど、防音効果もあるみたい。

つまり、騒いで良いわけだ。


…なら、やることは1つ。


「あ、あ…やぁ……あ、ああっ!」

「ふぅ…はっはっ…ああっ!」


前は私が白けちゃったから途中で終わったけど…今日は違う。

…暴れたら小屋が壊れそうだからね。

近くでカミに匹敵するドラゴンがウロチョロしてる中、私達は衣服を全て脱ぎ捨て、お互いの秘部に指を挿れる。

乱暴に搔き回し、お互いの一番弱くて大好きな場所を刺激して、グチュグチュにして抱き合う。


「この…変態……神林さんんっ!!」

「変態は…はあっ!?…か、かずちゃんのほうだからぁっ!!」


場違いなのは分かってる。

でも、防音効果と言う文字列を見て、お互いスイッチが入ったから仕方ない。

この前の不足を補うように激しく求め合い、愛を確かめる。


私の3本の指が狭い穴の中に無理矢理入って、中のかずちゃんが大好きな部分をゴリゴリと擦る。


「っ!?はあぁっ!!やめっ…!あ、ああ!」

「この…変態娘…3本の指を咥えて離さないんだもん。本当、可愛くて淫らな子。大好きだよ」


ビクビクと体を痙攣させるかずちゃんの耳にそう囁く。

熱を帯びた吐息が私の顔にかかり、トロンとした色っぽい表情で私を見つめる。

しかし、ある程度快楽が収まって冷静になると、今度は怒りを露わにする。

そして、


「ああっ!?」

「変態はそっち…大人のくせに私みたいな子供に手を出して…その子供の指でこんなに感じちゃってる…」

「あっあっ…ち、ちがっ!んあああっ!?」

「何が違うんですか…?…えっちで汚い大人ですよ。大好きです」


かずちゃんの囁きが、快楽で染め上げられた私の脳を揺らす。

とっても気持ち良くて、気分が良い。

頭がおかしくなりそうだ。


……でも、少し時間が経って冷静さが戻ってくると、今度は怒りが込み上げてくる。

かずちゃんに良いようにされたことに対する怒りが。


だから、3本の指を奥までねじ込んで、奥の方にあるかずちゃんの好きな部分を指先で、手前にある好きな部分を第2関節で刺激する。


それとほぼ同時に、かずちゃんも同じ事をしてきた。


「「あぁっ!?あっ!んあぁ…あ、あっ!」」


私とかずちゃんの声が重なる。

かずちゃんの体を抱き寄せている私の腕と、私の体を抱き寄せているかずちゃんの腕が力強く互いの体を押し付ける。

息が苦しい。

でも、この腕の力を弱めるつもりはない。

密着した体が汗ばんでベトベトになり、凄く興奮する。


「この…変態…!」

「生意気な…子ね…!」


目から光が消え、快楽に染まった濁った愛が映る。

罵り合っているけれど、その表情は愛に満ちていて最高に満たされている。


…でも、ただその愛に甘んじるだけが私達の関係じゃない。


「さっさと…潰れて私のものになって…!」

「何もできないくせに…私に甘えてればいいものを…!」


私達の夜の行為は、ただ愛を育むだけじゃない。

欲望と意地のぶつかり合い。

暴力的な性の勝負。


相手を下して自分の物にしたいと言う想いのぶつかり合いだ。

負ければ相手が満足するまで一方的に愛を押し付けられる。

別にそれが嫌でぶつかり合ってるわけじゃない。

本気で愛し合っていて、他の誰にも渡せない重く大きな愛を抱き合ってるから。

それを相手に受け取ってほしいから。

私達はぶつかってる。


やがて気が付いたら夜になったていた。

時間の流れが同じなら、私達は半日愛し合ってた事になる。

布団の代わりにした私達の服が汗と愛でベトベト。

それに夜にドラゴンと戦うなんて正気じゃない。


…つまり、第2ラウンドだ。

軽く休憩を挟んだ私達は、夜が明けるまで愛し合うのだった。





――――――――――――――――――――


某邪神

「完全にラブホになってるね…」

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