第208話 これからすべき事

『ヒキイルカミがアレで終わると思ってる?』


…どういうこと?


ヒキイルカミがアレで終わる……まだなにか策を残していたり、秘めた力があるってこと?

だとしたら、『強欲』が使えないか今、面倒なことこの上ないんだけど?


『アレの性格上、絶対まだ何かあると思うんだよねぇ〜。この世界って言わばマルチエンディング型RPGみたいなもの。プレイヤーの選択次第でエンディングが違えど、シナリオ自体は決まってる。そう考えると、これから新キャラが出てきてソイツがラスボスになると思えないし…十中八九ヒキイルカミの強化イベントが来て、最終決戦になると思うよ』


……確かに。

そういえば、ジェネシスってことあるごとに役者が揃ったとか、勢力があーだこーだ気にしてたね。

今思えば登場キャラが出尽くして、あとは最終決戦へ向うルートが決まった状態。

それを今更壊されたくないから、『強欲』を封印したのかな?

だとしたら納得…


『なに納得してるわけ?アレのシナリオ通り進んだら被害は確実だよ?』


被害って?


『メインキャラの被害。はっきり言うと、咲島恭子、神林紫、“私”の誰かの死。もしくは『花冠』大幹部の全滅とか?』


待って?なんでそんな――


『なんで?じゃあヤツの神の世界での最高の褒め言葉にして最悪の侮辱の言葉を教えてあげよう。『神界史上最悪の愉快犯』だよ』


史上最悪の愉快犯…?

何そのやばすぎる呼び方…


『アレは面白半分で世界を壊し、歪め、その世界に住む全ての生物及びその世界を支配する神をおもちゃにするイカれた神だ。邪神も邪神。散々言ってなかった?おもちゃだの箱庭だのって。分かったらさっさと対策してアレのシナリオ通りにならないようにしない―――』


……『強欲』?

どうしたの?

なにかあった?


………


反応無し。

検閲されたか……

でも、去り際に重要なことは言ってくれた。


「ねえ聞いて!」

「うわっ!?びっくりした…」

「……なにやってるの?」

「それはこっちのセリフなんだけどなぁ…」


私が現実世界に意識を戻した頃には、会議という空気は完全になくなり、神林さんは私の髪を三つ編みにして遊んでいた。


そして、会議室は私が急に声を上げたことで私に注目が集まっている。

丁度いいや。


「ちょっと聞いてほしいんだけど―――」


私は、今あった事を全て話し、全員に必要な情報とこれからの方針について共有した。


「なるほど…前々から邪神だとは思ってたけど……まさかそこまでとはね」

「数居る邪神の中でも最悪の邪神ってことでしょ?とんでもない世界に生まれちゃったね…かずちゃん」

「私はそんな世界でも、あなたが好きですよ。神林さん」

「はいはい。今は惚気てる場合じゃないよ」


咲島さんが会議室に緊張感を取り戻す。

こういう時のリーダーシップは凄いよね。


「ジェネシスのシナリオには乗らない。その為には、このままじゃ駄目って事だけは分かった。なら、どうするべきだと思う?」


咲島さんは全員に問いかける。

誰も声を上げることが出来ずにいると、咲島さんはなにか意図がありそうな表情で話す。


「これまで散々私達のことを振り回してきた傲慢なる神に、人間の底力を見せてやろうじゃない。ヒキイルカミをラスボスに?そんな構想ぶち壊してやるのよ」

「…こっちが先手を打って、ヒキイルカミを倒すってこと?」

「ええ。言わばやられた分の報復――反撃と言うべきね」


反撃…人類の反撃か…

……でも、それをここで話しちゃっていいの?


「これをジェネシスに聞かれてたら終わりなんじゃ…」

「そうかしら?ジェネシスはいつだって私達を見ている。だからこそ、『ジェネシス』なんて邪神には大層な呼ばれ方をしてるんじゃないの?」

「…そうかも」

「なら、コソコソするだけ無駄よ。蟻の無謀な抵抗。お前ならどうする?踏み潰すか?放置するか?言っておくけど、踏み潰したらこれまで積み上げてきた面白い話が全部水の泡になるけど?」


挑発的にそう天井に話しかける咲島さん。

すると、確かに天井から声が響いた。


『本当、生意気に育ったモノね。だからこそ、人間は面白い』

「ジェネシス…」


誰かが呟いた。

それに対して、ジェネシスが反応を見せる。


『蝶の神と呼んだら?私みたいなのを“創造主”なんて風に言うのは嫌じゃない?』


確かに…仮にも邪神相手にその言い方は嫌かも。


「本来の呼び方…ならそっちで呼ぶとしましょう。…ちなみになんだけど、由来を聞いても?」


咲島さんがそう言うと、突然会議室に眩い光が走り、その光の中から一人の女性が現れた。


「……ああ、コレは納得だわ」

「まさにって感じ…」

「ちょっと安直すぎるくらいだね」


現れた女性。

その背中には美しく輝く虹色の蝶の4枚羽が生えている。

半透明な肉体と、どこか白く見える金色の髪。

顔は…半透明の布で隠されてよく見えない。

…不思議なことに、布で隠されていない方向からみても顔を認識できないんだ。

神の不思議アイテムなのかな?


『言っておくけど、これはあくまでも仮の姿。わざわざ本体でこんな場所に来るわけないでしょう?』

「へえ?本体はどんな姿なの?」

『見た目はコレと同じと言っておくわ。サイズは桁違いだけど』

「具体的には?」


サイズが桁違い。

めっちゃ大きいってこと?

どのくらいデカいんだろう……某超大型な巨人くらい?


『残念。そんなに小さくは無いわ。そうね……この羽1枚の面積が太陽1個分入るくらい?』

「………デカっ!?」

「あえぇ!?」

「太陽1個分……ってどのくらい?かずちゃん」


た、太陽1個分?

つまり羽だけで太陽が4つ並んでる……それってつまり、身長が太陽の直径の倍くらいあるんじゃ?


昆虫図鑑で見られる羽を広げた蝶の写真。

あの広げられた羽1枚に、太陽を被せられるくらいデカい。

…化け物では?


『化け物?違うよ。神界史上最悪の邪神さ』

「ああ、そうだった。性格が終わり散らかして、『大罪』なんて激ヤバ能力からも『アイツはイカれてる』って言われるくらいの邪神だった…」

『わかりやすい紹介ありがとう。お礼に祝福をあげようか?』

「邪神の祝福とか呪いの類じゃん…」


私には既に大罪とか言う特級の闇側能力があるのに、最悪の邪神の祝福を受けるとか…それどこの大魔王?


『いらないならいいよ。十分面白そうな話しは聞けたし満足度3くらいだから』

「それは低いの?高いの?」

『5段階評価だよ』

「どっちでもないじゃん…」

『史上最悪の邪神の5段階評価で3だよ?人類史に残り滅亡するその日まで全世界で語り継がれるレベルの偉業さ!』

「咲島さん。徹底的な情報統制で絶対に広まらないようにしてください」

「言われなくてもそうする」

『酷いなぁ』


口ではそう言いつつも、楽しそうでご機嫌な蝶の神。

私達なんて取るに足らない存在だから、せいぜい虫が鳴いてる程度にしか感じないんだろうね。

……私たちが虫の声を聞いて癒されてるみたいな感じか。

格の違いを見せつけられるなぁ…


『まあ、せいぜい死なないように頑張りな。そして、私を楽しませるんだ。つい今、私がこの世界を滅ぼすか滅ぼさないかはそれに掛かってるんだからね』

「邪神め…」

『邪神だからね。じゃあ、頑張ることだね〜』


そう言って、また眩い光が部屋を包みその光の中に蝶の神は姿を消した。

…なんか、邪神が現れたにしてはあんまりにも空気が軽かったね。

ノリが軽くて何もかもを楽しんで生きてそうな邪神だし、深刻な雰囲気にならないのかも…


「…で?どうするの?」

「どうする?決まってるでしょ?あんな話し方をするあたり、ヒキイルカミは私達が手を伸ばせば届く距離にいる」

「問題はその手を伸ばす先がどんな地獄かってところか…絶対なんか仕込んでる」


地獄と言ったけど、それすら生ぬるいかもしれない。

相手は最悪の邪神だ。

何もしてこないかもしれないし、何かしてくるかもしれない。

面白半分で私達の誰かが殺されるかもしれない。

でも、このままヤツのシナリオ通りに進んだって、ハッピーエンドが待っているかもわからない。

なら、何もせず止まっているわけにはいかない。


「まずはカミがどこに居るかの把握ね。とりあえず、目先の問題を解決したら全力でダンジョンの深層に潜るわよ」

「それで見つかるかな?」

「可能性が無きゃあんな言い方しないよ」

「嘘をついているかもしれないよ?」

「それはないと思うよ、かずちゃん」


私と咲島さんの2人で話していると、神林さんが間に入ってきた。

そして、嘘をついている可能性はないと言いはった。


「相手が最悪の邪神なら、そんな1度しか捻れてないような捻くれ方はして無い。もっとこう…えげつない捻くれ方をしてる」

「例えば?」

「『あと一歩でヒキイルカミを倒してなんとか最悪を回避できる』ってところで…とか。『やっとの思いでヒキイルカミを倒して勝利に浸っていたら』…とか?」

「うわぁ…やりそう」


捻くれてるなぁ…でも、全然想像できるからなぁ。

それくらいの事は平気でやってきそう。

…それ以上のことも平気でやってきそう。


「なら、ヒキイルカミは見つけられますね。…問題は見つけたあとですけど」

「その時はその時よ。ね?咲島さん」

「そうね。最悪、ヒキイルカミだけでも倒せれば良い。そのくらいの気持ちで行きましょう」

「反撃と言うにはあまりにも弱いなぁ…」


そんな私の呟きは他所に、私以外で盛り上がるどうやって反撃するか会議。

私はとりあえずなんとかして『強欲』を使えるようになる事だけを考えようと、何か出来ないことがあるか探す。

すると、何やら封印の外に『強欲』の力があるのが分かった。


…その力に希望を見出した私は、そっちに意識を向ける。

気が付くといつの間にか眠っていたらしく、夜のベッドで神林さんと一緒に寝ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る