第189話 ダンジョンの戦い

交代で30分30分。

計1時間の休憩を取った私達は、穴を抜け出して転移陣を探す。

1時間の休憩の間にとんでもない量のモンスターが湧いていたけれど、どれも私達の敵じゃない。

確実に一体づつ処理すると、すぐに数が半減した。


「…なんか復活しなくなったね?」

「リポップが一切ない…これ多分、ヒキイルカミがモンスターを送り込んできてるんだと思います」

「となると、送り込む余裕がなくなったか、在庫切れかな?だとしたらかなり楽ができるね」


残りのモンスターを掃討してしまえば後は安全に転移陣を探せる。

転移陣さえ見つかればこっちの物だ。

地上に戻って『菊』と合流するだけ。


もしモンスターの復活が止まった理由が『菊』との戦闘の影響なら、すぐにでも援護に入りたい。

一人でカミを抑えるなんて無茶も良いところ。

早く合流しないと。


残りのモンスターも、向かってくるたびに瞬殺すると、探索を再開する。

すると、意外なことにすぐに出口が見つかった。

…それと同時に、大きな問題も。


「あの気配…相当強いですね」

「ええ。さしずめ最後の切り札。ゲートキーパーってところね」


出口の前に佇む只者ではない気配を放つモンスター。

近付いてみると、それはおよそ人型で、筋肉質な肉体を持つ、頭から2本の角、背中からコウモリのような翼を生やした化け物。

まさに、『悪魔』と言うべき化け物が鎮座していた。


「鑑定して大丈夫だと思います?」

「まあ、多分鑑定したら襲いかかってくるよ」

「ですよね…構えてください、相手情報を見ないことには戦えないので」

「そうね。そう言うと思って、こっちの準備は万端よ」

「頼もしいですね」


私の準備が出来ていることを確認したかずちゃんは、鑑定を使い、即座に情報を共有してくれる。


――――――――――――――――――――


種族 悪魔

レベル200

スキル

  《悪魔》

  《金剛体》

  《飛翔》

  《格闘術Lv9》

  《物理攻撃耐性Lv6》

  《魔法攻撃無効》


――――――――――――――――――――


アイツ…マジで悪魔だったのか。

しかも、スキル《悪魔》って何?

どういうスキルなのそれ。


「……襲ってきませんね?」

「そうね。鑑定されただけじゃ動かないのか、敵じゃないのか……まあ、それはないか」


アレは間違いなく敵。

だけど、すぐには襲ってこないみたいだ。

なら、しっかりと対策を考えてから挑むとしよう。


「アイツと戦うなら、まず魔法は使えない。まあ別に私達は魔法アタッカーじゃないから気にならないけど」


魔法攻撃無効のスキルがあるから、アイツに魔法攻撃は効かない。

とは言っても、私たちの間で魔法が使えるのはかずちゃんだけだし、かずちゃんの主な攻撃手段は剣術。

何ら問題にはならないね。


「次に物理耐性。半端な物理攻撃は大したダメージにすらならないかも…」

「加えて《金剛体》と言うスキル。あれ、神林さんの《鋼の体》の劣化版みたいなスキルです。魔法、物理共に高い耐性を持っていますよ」


なるほどね…

全力の攻撃でもないと効かないって考えたほうがいいか…


「倒せるかな…?」

「まあ、私達なら倒せますよ。作戦はどうしますか?」

「私がヘイトを引きつつ、魔力武装でダメージを与える。そして、かずちゃんは狙われないようにしながら確実に首を狙って」


いくらレベルが高くて耐性もカチカチだろうと、首を切られれば死ぬ。

それは間違いない。

だから、私が狙わられるようにしながら、かずちゃんに後ろからズバッ!とね?


「わかりました。とりあえず作戦は決まりましたし、攻撃を仕掛けましょうか」

「ええ。私から攻撃するから、かずちゃんはまず潜伏して。あわよくば後ろから…ね?」

「わかりました。…とは言っても、私には隠密のスキルが無いので、気付かれないはずがないんですけど…」


そんなツッコミを入れながら、息を殺して私から距離を取るかずちゃん。

私は私で、魔力を放って注意を引けるようにしながら悪魔に近付くと…めっちゃ悪魔に睨まれた。

ちょっと怖いね…


「そんなに睨まないでよ。笑顔でやりましょう。笑顔で」


私の間合いに入ると、まずは友好的に笑顔で話しかける。

しかし、悪魔には効かない。

私が脚を振り上げて蹴りを放とうとしたと全く同時、悪魔も脚を振り上げて私の蹴りを同じく蹴りで防いだ。


その威力は、《鋼の体》を発動した私の足が痛むくらいの超火力。


「強いなぁ…私じゃなかったら足が曲がっちゃいけない方向に曲がってるんじゃない?」

「………」

「だんまりか…まあ、いいけどね?」


半歩下がって体を回し、その勢いで回し蹴りを放つ。

それも、ただの回し蹴りじゃない。


「高速回転魔力のブースト付き。当たればひとたまりもないけど…まあ、避けるよね」


本気の蹴り。

当たれば相当なダメージを期待できるけど、残念ながらよけられてしまう。

まあ、そりゃ当然。

見るからに火力がヤバそうだし、しっかり魔力武装を仕込んでるから当たったら体内で魔力が爆発する。

大ダメージ確定の技だったんだけど…避けられちゃったかぁ…っ!?


「くっ!?」


呑気に考え事をしていると、悪魔が拳を振り上げて距離を詰めてきた。

そして、魔力を纏っていないのにとんでもない速度で腕を振り下ろすと…私の《鋼の体》をほとんど破壊する程の強攻撃。

ダメージを受けるほどじゃないけど、それなりに効いたよ。

悪くない攻撃だ。


「いいね。なんだか体が火照ってきた。本気出さないと勝てない相手だってわかってるけど…本気と全力は別なんだよね。出しちゃおうかな?全力」


私は悪魔の髪を掴むと、引っ張りながら頭を突き出す。

そうして悪魔の顔面に頭突きをする。


確かな感触と、ズキズキと痛む頭。

これはいい一撃が入ったんじゃないのっ!?


「がはっ!?」

「神林さん!!」


悪魔に肩を掴まれたかと思えば次の瞬間には膝蹴りが飛んできており、まだ修復されていない《鋼の体》を貫通。

砲撃でも受けたかのような膝蹴りが私のお腹を直撃した。


…こんなの当たれば普通はぶっ飛びそうなものだけど、悪魔にガッチリ体を抑えられてるので、飛ぶことはない。

なにより…


「がっ!?ぐっ…!」


鎧を失った私に、悪魔は何度も膝蹴りを食らわせてくる。

そのたびに私の体の中で何かが爆発したしような衝撃が走る。


それを見てかずちゃんが加勢しようとするが…邪魔はさせない。


「痛いじゃない…のッ!!!」

「グッ!?」


至近距離にいる事をいい事に、しっかり魔力をためて発勁を放つ。

その一撃で悪魔は吹き飛び、目立った外傷こそないけれど、確実なダメージを受けている。

このまま一気に攻め立てたいところだけれど…


「流石にお腹が痛い…」

「今治療します。動かないで」

「ありがとう」


私自身、アイツから洒落にならないダメージを受けてる。

悪魔同様それほど外傷は見えないけれど…確かなダメージを受けているんだ。

それを治してからじゃないと、不安が残る。


それに何より…分かりきってる事だけど、アイツは私よりも強い。

だってアイツはまだ私にパンチと膝蹴り以外まともな攻撃をしてないのにこのダメージ。

《鋼の体》を易易と突破するそのパワー。

正直、かずちゃんを戦闘に参加させたくないくらいだ。


「かずちゃん。ダメージを受けたら終わり。そう考えてね」

「そんなにですか…」

「私の守りが突破されてる時点でお察しじゃない?アイツ、冗談抜きで強い」


本気を出されたら私達だけだと厳しいかもね…

まあ、それでも諦めるつもりは微塵もないし、負けるつもりも同じくない。

勝つんだよ、私達はね。


「さて、怪我も治ったことだし…第2ラウンドといこうか?」


私が前に出ると、悪魔も動き出す。

悪魔なんて仰々しい種族のくせに、随分と律儀なこと。

もしかして、コイツもタケルカミと同じく武人タイプで、空気を読んでくれたとか?


…まあ、その可能性はあるし、次別の悪魔に出会ったらその時は、コイツをあんまり参考にしないようにしないとね。


「さてと…どうやって勝つかなぁ」


発勁や寸勁でダメージを与えるのは良いとして…かずちゃんをどう使うかが問題。

さっきの戦闘で後ろから攻撃しないあたり、アイツ多分隙がない。

と言うか、私がこの程度で済んでるのはかずちゃんを警戒してるからだと思う。

私に全力を注がれてたら、さっきみたいな《鋼の体》のゴリ押しノーガード戦法は使えない。


…避けることも意識して戦わないといけないと。

いいね。ワクワクしてきた。


纏う魔力の量を増やし、勢いだけで戦ってみる。

それで駄目ならかずちゃんと協力して、確実に勝ちにいかないとね。

そんなことを考えつつ、かずちゃんにはさっきと同じ指示を出して悪魔に向かって駆け出した。

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