第81話 反逆者
「―――という事があったんですが…私達に出来ることはありませんか?咲島さん」
私は電話で咲島さんに連絡を入れ、こっちであった事を報告した。
『そうね。とりあえず、自分の身を守りなさい。『紅天狗』との交渉や《財団》上層とのこれからはこっちでなんとかするわ。だから、『花冠』を付けられない』
「分かりました。あの早川のような強さを持つものが現れなければ、私達は大丈夫ですよ」
あれは例外だ。
あんな感じの例外に襲われない限り、私達は基本大丈夫。
……でも、今のままだと少し心細いね。
しかし、例外か…
「…早川は、何者なんですか?」
『そうね……一言で言えば“反逆者”かしら?』
私の問いに対する答えは、私が予想だにしないものだった。
「反逆者?それはどういう…」
『そのままの意味よ。“外患誘致罪”って知ってる?』
「知ってます!他国と共謀して国家の転覆を狙う、犯したら問答無用で死刑の日本で最も重い罪です!!」
横からかずちゃんが割り込んできて、外患誘致罪の説明を簡単にしてくれた。
そんな罪があるのか…
問答無用で死刑って…怖いなぁ。
いや…でも、やってることは他国を巻き込んでの国家転覆だ。
そりゃあ、死刑になるよね。
『ありがとう一葉ちゃん。言うなれば国家転覆罪に当たる外患誘致罪。早川は、それの常習犯と言っても過言ではない。そんな、とんでもない人間よ』
「外患誘致罪の常習犯…?」
『ええ。ヤツが《財団》の幹部の孫でなければ、すぐにでも指名手配される最悪の犯罪者なんだけど…圧力や指名手配をしたことによる報復の可能性も考え、指名手配どころかその名が報じられることもない。厄介極まりない極悪人ね』
確かに、レベルが100あり、ドラゴンすら従えるような存在を指名手配して、報復されたらいったいどれほどの被害が出るか。
しかも厄介なことに、ヤツは傀儡化の能力を持っている。
下手に指名手配して、正義感の強い人が暴走し、その人が傀儡化されたら、とてつもなく厄介なことになるだろう。
「国はやつに対して何か対策をしてるんですか?」
『何もしてないわけじゃないけれど……後手後手に回ってるせいで、今のところ成果は挙げられていないわ。税金の無駄遣いね』
「そうですか…」
『まあ、ある程度の抑止力にはなってるし、全くの無駄では無いけれど……正直、逮捕は期待するだけ無駄よ。自分でなんとかしたほうが良いわ』
行政で出来ることでは、ヤツは止められないと…
抑止力にはなるけれど、逮捕まではいかない。
これも財団と妨害があるからなんだろうか?
『しかしまぁ…今回の件で《紅天狗》がヤツを嫌っている事が分かったわ。これはとても大きな一歩よ』
「そうなんですか?」
『ええ。これまでヤツには何度も苦渋を飲まされてきたからね。私もなんとかしようとしたけれど、下手に『花冠』を送っても手駒にされるだけだし、ヤツ自身がそれなりに強いから、対応できる戦力も限られる。結局、嫌がらせをして追い払うことくらいしか出来ずにいたけれど……『紅天狗』と穏健派の財団幹部と協力してヤツを追い詰めれば…』
電話越しに伝わってくる怒りに萎縮しているうちに、いつの間にか話が進んでいた。
「じゃあ、やっぱりヤツのステータスは送った方が良いですか?」
『……なんですって?』
「かずちゃんが鑑定結果をずっと握ってて…さっき写真を取ったので、送った方が良いですか?」
『……その話は、『紅天狗』にしてないでしょうね?』
「え?」
早川のステータスを送った方が良いかと聞くと、咲島さんは声のトーンを落として、『紅天狗』にステータスを渡していないか聞いてくる。
『紅天狗』にステータスを渡すのは、何か不味いことなんだろうか?
「渡してないはずですけど…渡したら不味かったですか?」
『いえ。話をこっちに有利に進めるうえで、正確なヤツのステータスを把握しているかは、とても重要よ。相手は穏健派であれどうあれ企業だもの。そういうところは徹底したほうが良いわ』
「なるほど…」
貴重な情報はそれだけ価値がある。
取引の場では、やっぱりそういう貴重な情報が多いほうが有利だ。
咲島さんは、そんな貴重な情報を独占するためにも、私に『紅天狗』にステータスを渡していないか声を低くして脅すように聞いてきたんだろう。
…だとしても怖すぎたけど。
『ヤツは一度取り逃がした獲物は、余程気に入っていない限り二度も三度も追ったりしない。だから、ヤツには気に入られるようなことをしていなければ、大丈夫だろう』
「ヤツの傀儡化を防ぐのは、気に入られる条件に入りますか?」
『……コレクションに加えたいという意味では狙われるかもね』
珍しいスキルを持つ人間だから、コレクションにしたいという形で、狙われることもあると…
……なんか、心配になってきた。
「大丈夫ですよ。それまでに強くなっていればいいだけの話ですから」
「それが出来たら苦労しないよ。…とりあえず、また何かあったら連絡します」
『そうね。近畿支部が機能しなくなったから、私の方でしてあげられる事は少ないけれど、何かあったらすぐに頼って。最悪、家族を連れて仙台へ来ることも視野に入れなさいよ』
「分かりました」
そう言って、咲島さんは電話を切った。
近畿支部が壊された、か…
これまで『花冠』によって守られていた女性は後ろ盾を失う事になる。
何か、私に出来ることはないだろうか?
「……一度家に戻って、おじいちゃんに相談するか」
「何をですか?」
「新しい近畿支部よ。実家周辺なら私達神林家の庭みたいなモノだし、あそこなら好きに使って良いはずだからね」
「なるほど。じゃあ、早く帰らないとですね!」
「そうね。ただ……帰れるかどうか」
そう言って、パトカーのサイレンの音に耳を傾ける。
その音にかずちゃんは露骨に嫌な顔をし、溜息をついた。
その後、やってきた警察官に詳しい事情を根掘り葉掘り聞かれ、大阪で一泊することになった。
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