リストラされた元社畜OLは、美少女とダンジョンへ行く 〜仕方なくなった冒険者は天職でした〜

カイン・フォーター

第一章

第1話 リストラ

『悪いけど、こういう事だから』


上司が心にもなく『悪いけど』なんて言いながら、私に1枚の紙を手渡してくる。


その紙に書かれた内容―――というか題名は、『解雇通知書』


解雇理由は―――まあ、典型的なリストラだ。


元々そこまで業績の良い会社ではない。


いつか来るだろうとは思っていたけれど、やっぱり私にもこの瞬間が訪れた。


そして、晴れて私はニートになった。










           ◇◇◇








午前4時


私はスマホのアラームと共に目覚めた。


久し振りによく寝られた気がする。


「ふあぁ…………さっさと着替えて会社に……そうだ、リストラされたんだった」


机の上に目立つように置かれた解雇通知書を見て、私はリストラされたことを思い出した。


よく眠れたのは、久し振りに早くに寝たからだろう。


睡眠時間が普段と違い過ぎる。


「どうしよっかな〜」


なんだかんだ悪くない大学を出て4年。


大事な大事な『新卒』をブラック企業で無駄にし、労働に見合わない給料で働いて金を無駄にした。


労働に見合わない給料なんて、散財と何も変わらない。


……今思うとあんな会社で働き続けた自分が馬鹿らしい。


「やりがい搾取、かなぁ…」


別に、仕事にそこまで熱意があったわけじゃないんだけど……まあ、どんな理由があれ、ブラック企業で良いように使われていた事に違いはない。

どうしてあんな会社で働き続けたのか、本当に謎だわ。


「ん〜…失業保険があるからしばらくは―――いや、そうやって先延ばしにして、良いことは無いんだよなぁ…」


楽したい気持ちはあるけれど、すぐに再就職しないと自分も困るし、親にも迷惑を掛ける。

せっかく小中高大と教育を受けさせてもらえたんだ。

せめてその分の恩を返さないと。 


「求人サイトで探すかぁ?…でも、今時どの企業も似たようなものか」


どうせなら給料がいい場所で働きたい。

同じブラックでも、少しは濃度の低いブラック。


そういう所で―――って、ブラック企業前提の職場探しは良くない!

同じ轍を踏むだけじゃん!!


『新発売!竜田揚げバーガー!パティを竜田揚げにすると言う新たな発想!!』


「……それ美味しいかな?」


気分で付けたテレビのcmにツッコミを入れる。

なんだよパティの竜田揚げって。

普通に白身魚か鶏肉で良いじゃん。


企業努力が詰まった味ってのは分かるけど……それ美味しい?


パティの竜田揚げがどんな味か想像していると、急に頭が冷えて現実に戻ってくる。


そして、自然とため息が出た。


「……久し振りだね。こんな生活」


スマホをいじりながら、別に見てるわけでもないテレビをつけてソファーに寝転がる。

こんなの、ブラック企業の社畜だった私には出来なかった。

するくらいなら一分でも多く寝たい。


「次の職場は、こんな生活が出来る余裕がある職場がいいなぁ…」


せめてこれをするくらいの余裕はあって欲しい。

そう、切実に願い、求人サイトを眺める。


『ダンジョン庁からのお知らせです。堺市のモンスター警戒アラートが解除されました。それに伴い、交通規制や立入禁止区域の――――』


「……ん?また何かあったの?」


cmが急に切り替わり、ダンジョン庁のお知らせになった。

どうやら堺市でまた何かあったらしい。

仕事にいっぱいいっぱいで、知らなかったなぁ。

おおかた、またダンジョンの外にモンスターが出てきたかな?


40年前、後に『ダンジョン』と呼ばれる異空間への入口が日本に出現した。

ダンジョンというのは、ラノベによくあるアレで、中にはモンスターも居るしお宝もある。


また、様々な資源の宝庫で、鉄やアルミ、石炭等の身近な鉱産資源はもちろん、ダンジョンでしか取れない特殊な資源も山ほどある。

今や日本はダンジョン無しには成り立たないと言われるほど、莫大な富をもたらした。


入口が出現した場所は、那覇市、福岡市、高松市、神戸市、堺市、名古屋市、横浜市、渋谷区、仙台市、札幌市の11箇所。


全国にバランス良く(?)存在している。


なので、日本全国何処に住んでいても身近な(?)ダンジョンに行けば良い。


私はこれでも東京在住だから、渋谷区のダンジョンが一番近い。


……まあ、ダンジョンに行くならまずは『覚醒』しないといけないけど。


「私は覚醒者だから、一応ダンジョンに行く資格はあるんだよね…」


『覚醒者』

ダンジョンの出現と同時に現れた、『ステータス』というモノを付与された人達。


覚醒者はステータスの恩恵によって常人離れした力を持っていて、全く鍛えていない人でも、一般人が息を荒くしながら持ち上げ、運ぶようなモノを平気で持てる。


というか、それくらい強くないと、ダンジョンの中にいるモンスターには勝てない。


「最近見てなかったけど、なんか変わってるかなぁ…?」


私は自分のステータスを開き、何か変化が無いか確認する。


――――――――――――――――――――


名前 神林紫

レベル1

スキル 

  《鋼の体》

  《鋼の心》

  《不眠耐性Lv3》


――――――――――――――――――――


……うん、特に変化ナシ!

いつの間にか《不眠耐性》のレベルが上がってるけど…見なかった事にしよう。


「……素質はあると思うんだよね〜。一応、『ギフター』だし」


『ギフター』

生まれつきの覚醒者のこと。

大抵の『ギフター』は才能があり、ダンジョンで活動するのに向いていると言われている。


私は《鋼の体》と《鋼の心》というスキルを生まれつき持っているギフターで、人の何倍も体が頑丈で、人の何倍もストレスに強い……はず。


親を安心させる為に、普通の職を選んだけれど、周りからはよく『ダンジョンに行ったほうが稼げるって』と言われた。

だから、多分素質はあるはずなんだ。

この機に、ダンジョンに行ってみるのも良いかもしれない。


「……まあ、それは再就職先が見つからなかったらでいいか」


何のためにブラック企業で働き続けたんだ。

普通の職に就いたって、親を安心させる為でしょうが。

今更、『脱サラしてダンジョンに行く』とか言い出したら、お母さん倒れるって。 


私は、ダンジョンへ行くのは最終手段にして、普通の仕事を探すことにした。

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