【KAC20246】トリあえず、恋のラーメンセットいかがですか?

尾岡れき@猫部

舞台はラーメン熊五郎、登場人物は店主、高校生バイト、お客の中学生男女が織りなす日常風景に新商品を添えて


「なぁ? とりあえずを『たちまち』って言うじゃんか?」

「言うね、こっちの方言。翼は知っている?」


「そうなんだ。じゃ、たちまち空君!」

「なんで、俺?」


「目の前でイチャイチャしないでくれる? 店長、泣いちゃうよ?」


「空君、美味しいね」

「無視?! スルー?」


「うん。店主はウザいけど、味は一級品なんだよなぁ」

「おい! ウザいって、なんだよ?!」


「店長、半チャンセット、二人前オーダー、入りましたー!」

「オッケー。それでな、空?」


「この話、まだ終わってないの?」

「お前ねぇ、この店の未来がかかってるんだぞ?」


「知らないよ」

「イチャイチャしていて良いから、ちょっと相談に乗ってくれよ」


「「イチャイチャしてないっ(してません)」」


「息ぴったりじゃん。だからそれが、イチャイチャしているんだって」

「店長、汗かいてますよ。拭きますね」


「瑞穂、サンキュー」

「それ、イチャイチャって言うんじゃ――」


「それで、な。空、俺は思ったんだ」

「ずるずるずるずる」


「食ってないで聞けよ!」

「ずるもぐもぐぐぐ?(客に食うなってどういうこと?)」


「汚ねぇ。食いながら喋んしな。そんなんじゃ翼ちゃんに嫌われるぞ?」

「気取らない空君も魅力的なんですけどね」


「はいはい、ごちそうさま」

「俺、まだ食ってるけど?!」


「それでな。『たちまち』に戻るんだけどさ」

「はぁ……?」


「今度、新商品を出すわけよ」

「それが鶏ソバなんですね。あっさりしていて、でもコクもあって。本当に美味しかったです!」

「翼ちゃん……君は本当に良い子だなぁ。大事にしろよ、空!」


「空君、ヤダっ。お似合いだって。えへへ」

「ぐほっぐはっ」


「空、ちゃんと噛めよ。ラーメンは逃げないから」

「……ムセた。死ぬかと思った……で、それで?」


「うちの店で『トリあえず』をキャッチコピーに、新商品を売り出そうと思ってな。鶏なだけに、トリあえず。迷ったら、まずこれ食べてみて、ってノリでさ」

「センスを疑うけど?」


「それで、キャンペーン日にはマスコットキャラクターの『トリあえズ』がお出迎え。これ、どうよ? 良くない?」

「ただただ、ダサい」


「おしどり夫婦をイメージしてるの」

「おしどり夫婦って、実際には夫婦なか続かないぞ?」


「空、瑞穂の案にケチつけるのかよ?」

「なに、その圧?」


「これ絶対に可愛いから。ほら、瑞穂のデザインは最高だろ?」

「だから、なんなの? その圧?」


「空と翼ちゃん、この着ぐるみ着て、バイトしない?」

「え。普通にイヤだけど――」

「はい、私達がやります!」


「俺の意見は?!」

「……だって予約しとかないと、結局、空君は引き受けそうだし。気付いたら他の子と一緒とか、バイトでも絶対にイヤだもん」


「着ぐるみを着るお仕事ですけど?」

「着ぐるみで汗だくの2人だよ? 汗をかいて乱れる髪。透けるTシャツ。想像しただけで、絶対にイヤ」

「いや……それ、どんなシチュエーション――」


「分かる、翼ちゃん。二人っきりのバイトとかフラグだもんね」

「ですよね、瑞穂さん!」

「……脱水になりかけて、そんな余裕ないと思うけど?」


「瑞穂、半チャンお待たせ!」

「はーい! お待たせしました!」


「瑞穂ちゃん、こっちは、たちまちビール!」

「ダメですよ? 今日から『トリあえず』でお願いしますね?」


「えっと……とりあえず?」

「店長! オーダーです! ビールと【トリあえず】入りました!」

「鶏ソバ注文、ありがとうっ!」


「半強制オーダーはダメじゃない?」

「ダメですか?」


「……み、瑞穂ちゃんが可愛いから許すけど!」

「許すなよ、おっちゃん!」

「いや、だって空――」


「空君は許すの?」

「翼、なぜ俺を睨む?」


「ま、瑞穂は可愛いからな」

「やだ。店長は誰よりも格好良いですからね!」

「なんか、今日のラーメンは甘く感じるのどうして?」


「空君は、瑞穂さんばっかり見過ぎ。ハバネロ足してあげるね?」

「ラーメン屋のトッピングに普通ないよね?!」


「おい、空?! 瑞穂を口説くなよ?」

「空君になら口説かれちゃおうかな?」

「空!」

「空君?!」


「……お、俺にどうしろと――」





■■■









 ここは、場末のラーメン【熊五郎】

 町内の人々に愛される、知る人ぞ知る名店。

 店長とバイトリーダーの子が、いつ付き合うのか。

 二人が賭けの対象になっていることを、まだ当事者達は知らない。





……

………




 中学生の二人も、町内会の人々からそう見られていることを。

 当事者の二人はまだ知らない。






■■■














空君が翼ちゃんに告る  倍率 7倍

翼ちゃんが空君に告る  倍率 2倍

瑞穂ちゃんが店長に告る 倍率 3.2倍









店長から瑞穂ちゃんに告る 倍率 65倍








「新商品はそれほどでもないんだけど。あいつらが、どうなるか。そっちが気になるんだよな」

「言えてる」

「同感。新商品より、普通のラーメンを頼むけど」

「マジ、それ」

「正直、ラーメンより酒の肴になるのあいつら」

「それ!!」


「だからさ、さ」


















「「「「「とっとと、付き合えよ!!」」」」」」

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