出会ってしまったのが運の尽き?

和辻義一

とりあえず、とりあえず

 捨てられた子猫を見つけてしまった。


 雨でぐっしょりと濡れたダンボールの中で、小さな声でニーニー鳴いている。ダンボールの大きさから考えると、他にも兄弟がいたように見受けられるが、おそらく一番最後まで残ってしまったのだろう。ちょっと薄汚れた感じの毛色で、オスだかメスだかも分からない。


このまま放っておくのも後味が悪いので、とりあえず一度連れて帰ることにする。


 家に連れ帰って、とりあえずぬるめのお湯で洗ってみる。どうやらメスのようだった。


 だんだんと鳴き声が弱々しくなってきている気がして、さすがに不安になったので、とりあえず何か食べ物をあげようと思った――のだが、あいにく我が家に子猫用のエサの買い置きなどはない。


 仕方が無いので、とりあえず牛乳を人肌より少しぬるめぐらいに温めて、小皿に入れて子猫の前に置いてみた。すると子猫はよほど腹を空かせていたのか、みるみるうちにミルクを飲み干してしまった。


 とりあえずお腹がいっぱいになったであろう子猫は、ソファの上でそのまま丸くなり眠ってしまった。勢いで家に連れ帰り、そのまま世話のまねごとのようなことをしてしまったが、はてさてどうしたものか。


 でも、こちらも仕事帰りで疲れていたので、続きはとりあえず明日考えることにした。


 次の日は土曜日で、仕事は休みだった。


 拾ってきた子猫は、今のところはまだ生きている。またお腹が空いてきたのか、ニーニー鳴きだしたので、とりあえず昨日と同じようにミルクを与えてみた。


 今までに猫――それも子猫など飼ったことがないので、どうしていいのやら分からない。仕方が無いので、とりあえず子猫を動物病院に連れて行ってみた。


 診察の結果、少し栄養失調気味だったが、その他には大きな異常は見られなかった。


 「この子を飼ってくださるんですよね」と獣医師に聞かれ、気が弱い僕は「えっと、はあ」としか答えられなかった。その様子がよほど不安そうに見えたのか、獣医師は子猫の飼い方について事細かくレクチャーをしてくれた。


 ここまで色々と関わってしまったら、さすがにもう「後のことは知りません」と言えなくなってしまった。幸いに、というべきか、猫を飼うことにそれほどの支障はなかったので、なし崩し的にこの子猫を飼うことにした。


 とりあえず、必要なものを揃えるためにペットショップへ向かうことにしたが、その道中でふと、この子猫の名前をどうするかと思った。


「とりあえず……って訳にはいかないよな、さすがに」


 名前ぐらいは「とりあえず」ではなく、しっかりと考えてやろう。うん。

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