第2話 ライトノベルって何?
二人が席についたのを確認すると、フォグ博士がホワイトボードの前にデンと立ちます。
「よし、それでは始めよう」
「おねがいします!」
「おなしゃす」
二人の情熱に多少の差はありますが、プロフェッショナルなフォグ博士は気にしません。冷めた情熱なら、自分が火をつければいいだけです。
「まずは、じゃ。ライトノベルとは何か、分かるか? 勇太くん」
「え? ライトノベルですか? ……うーん。エルフ?」
「エルフが出てくるライトノベルは多いが、エルフはライトノベルじゃないな。さつきちゃんはどうだい?」
「えっと。大衆文学、ですか?」
「お。そうじゃのう。確かに大衆文学ではあるな。しかし文学、とは違うと思うとる」
「もっとカジュアルな?」
「そうじゃ」
「膝栗毛みたいな物ですか?」
「ひ、ひざくりげ?」
さつきちゃんは、思ったよりマニアックな子供の様です。
膝栗毛とは、栗毛は馬の事を指し、自分の膝を馬になぞらえ、徒歩で旅をするそんな意味なのです。東海道中膝栗毛のパロディ本として、江戸時代とか明治くらいに一般大衆向けに大量に書かれた娯楽本です。
ジュール・ヴェルヌの「月世界旅行」が日本に上陸すると、影響を受けて弥次喜多二人が月に旅行したりする話まで書かれたらしいっすよ。
ま、そんな事は置いておいて。
博士は自分の蔵書棚から数冊の本を取り出し、二人に渡しました。
「たとえばこれが代表的なライトノベルの中の本じゃ、こういったのをライトノベルという」
「え? これってアニメじゃなかったんだ」
「そうじゃ、元々小説で、それがメディアミックスされて、アニメになったんじゃな」
「メディアミックス?」
勇太くんは初めて聞く言葉に怪訝な顔をしました。
すると、さつきちゃんがふふんと自慢げに話し始めます。
「勇太くん、メディアミックスって言うのは1つの作品を複数のコンテンツにする、そういうやつよ」
「な、何を言ってるの?」
「うーん。角川映画って知ってる?」
「角川映画?」
「犬神家の一族という映画は?」
「人が逆さまになってるやつ?」
「そう! それよ! 私の大好きな映画なの! そこらへんがメディアミックスの走りかしら」
さつきちゃんが何かを熱く語り始めた。
横で聞いていたフォグ博士は何か危険なにおいを感じソワソワし始める。
「角川書店の横溝正史先生の小説を、そのまま映画にもしたの、これで本も売れれば映画も売れる、一石二鳥だったのよ。これが角川春――」
「ソコマデダ!」
口早に話続けるさつきちゃんの横に、一匹の鳥が羽ばたいていた。
どうやら、今の声はその鳥がしゃべったようだ。
「な、なに? このトリは」
「ボクハ リバース・フェニックス ハカセノ トリ」
「博士の? しゃべったわ、この子」
「ふぉっふぉっふぉ。そうとも、こ奴はワシのペットでもあり、助手でもあるんじゃ。リバース・フェニックスという。可愛いじゃろ?」
「え、ええ……。まあ……」
トリはバサバサと羽ばたくと、博士の頭に止まった。博士は何も気にしていないように話を続けます。
「ま、ということで。ライトノベル小説を原作にコミカライズ。つまり漫画が作られ、漫画を元に、アニメが作られる。そして、そのメディア同士が相乗効果でバズって行くというのがメディアミックスの基本なのじゃ」
「なるほど、じゃあ、メディアミックスをすれば良いんですね」
「うむ、だが、話はそんな簡単じゃない。勇太くんはまずその前に小説を書かないといけないじゃろ?」
「てへっ。先走っちゃった」
「ふぉっふぉっふぉ。勇太くんはまだ若いんじゃ。ゆっくりやればいいさ」
「早くお金欲しいよ!」
「急がば回れ、じゃな」
まだまだ勇太くんの野望には先が無いようです。
でもライトノベルって何かは、よくわかりませんでした。
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