第13話吸血鬼と人間


龍 王連side



「コレ、拾った」



早速、風太郎の家に着けば駐車場でソワソワと落ち着きのない動きで待っていた男が1人。


何をしてる?と声をかければ、海?と知らぬ名前を呼ぶ。


初めて聞いた名前に首を傾げたが、なんとなく後ろで寝てるやつの事だろうと適当に頷く


慌てて、後部座席のドアを開けて中を確認する風太郎を横目に、ゆっくりと運転席から降りる



風太郎は、そっと海と呼ばれる少女を抱えると不安気に俺に視線を向けた


一応、来る時に拾ったと言えば、風太郎はそっかと一言だけ残し、さっさと家の中へ入って行った。



やけに、あいつの必死な姿に、もしかして風太郎の女か?なんて、意味のわからない事を考えてしまうのはしょうがない



でも、


「まぁ、いいや」


ポツンとひとり駐車場に残され、立ち尽くしていたが、考えるのが面倒になり風太郎の後を追うように家の中へと入った






いつもの見慣れた廊下を歩き、リビングのソファに腰掛けると、とりあえずテレビをつけた


別に何か観たいわけではないが、適当に深夜に流れるショッピング番組を眺める



外出用に掛けていた紫外線防止のサングラスを外してテーブルの上に置けば、明々とした室内の電気が眼球を刺激し、自然と目を細めた



暫く、何も考えずテレビを見ていれば深刻そうな顔をして風太郎がリビングへとやってきた



「なに、死んだの?」


「死んでないよ、今士郎が来たから交代してきたとこ」



ふむ、てっきり深刻そうな顔をしていたから間に合わなかったかと思ったが、そうではないらしい


先程、バタンと玄関のドアが聞こえたと思えば猿が来たのか。




「あいつ、俺に挨拶もなしか」


「まぁまぁ…今回は命が優先でしょ」


「命ねぇ…てか、何あれ、猿の彼女?それともお前の?」


「どっちも違う、白蛇とやりやってる時、士郎があの子巻き込んで、殺しかけたみたいで血の誓いをしちゃったって」



「…は?」



あいつ、とうとうやらかしたのか。


それに加えて、どう見ても未成年の子供をこの世界に巻き込んで、あいつはいったい何を考えてんだ



あぁ、何も考えてないからやらかしたのだろう


 


「…もうあいつ、クビでいいよ」




めんどくさくなり、ため息を吐いてそう言うと風太郎はいつものように穏やかな表情で笑っている



「はは、でもさ…今回は許してあげてよ。死ぬか生きるかの瀬戸際だったみたいだし」



「へぇ…自分のミスでしょ?」




血の誓いをする程のミスを犯したあいつが悪いじゃん、ちゃんとしてればそんなミスは起きないはずだ。


ましてや、まだ若い人間をあんな状態にするなど…




「血の誓いが嫌いなのは分かるけど、あの子を助けるにはそれしか方法が無かったんだから仕方ないよ俺に免じて、今回は多めに見てやってくれない?」



やけに、猿の肩を持つ風太郎に余計苛立つが、確かに言っていることはよく分かる


別に、助けるなと言ったわけではない。



そうじゃなく、そうならない様常に気を引き締めろと言う意味だ



苛立ちを抑える様にスーツの裏ポケットに入れてある煙草を取り出すと、ライターでカチカチと音を立て火をつける。


ジィーと先端が焼けて白い煙が上がると、気分を落ち着かせる為それを咥え、一口吸った



もう一度、息を吐き出せば今度はため息と共に煙も吐き出た、周りにもくもくと白い煙が漂い独特な香りが広がると、ほんの少しだけ気分が落ち着く





「…次問題起こしたらお前もクビ」


「…俺も??」



先程まで穏やかに笑っていた表情は、嘘の様にがらりと変わり、少し焦っている風太郎の表情。


いつもの落ち着いた顔が崩れるのが面白く、段々己の口角が上がっていくのが分かる



「嫌なら…猿に言い聞かせて、しっかりしろって」



「…分かったよ」



いつも余裕そうな男の顔を崩すのは面白い


実際、クビにする訳ないのだが面倒事が増える前に釘を刺しておくのも大事だ


風太郎の返事を聞けば、テーブルにある灰皿の上に、今にも落ちそうな灰を落とした。




「あのさ、変なこと聞いていい?」


「なに?」


「あの子と会ったのは初めて?」


「当たり前じゃん」


「まぁ、そうだよね」



猿の話が一旦終わったと思えば、あの少女と会ったことがあるかと訳のわからない事を言う


今、初めて見たと言うのに一体何が言いたいのか



「人間に血をあげたりしてないよね」


「しない。そもそも人間と関わらない」


「うん、分かってる」



ごめん、変なこと聞いた


気にしないで、と言う風太郎は俺があの少女に血をあげたと思っているのだろう



あり得ない話だ、俺はここへ連れて来ただけ



そもそも、別に普段から人間とは関わる気もない


接する機会が少ないのもあるが、人間とは寿命が短い。


自分達の長い寿命とは違いすぐに命が尽きる


そんな人間とは関わるだけ時間の無駄だ



昔は仲のいい人間も何人かいたが、気がつけば歳を取り、息をする様に命が尽きていく



呆気ない命に付き合わされて、無駄に悲しむのはもうやめた


死ぬのはいいが、残される側の気持ちも考えて欲しいものだ


あんな悲しみを生むならば、元から人間とは関わらないほうがいい





「王蓮は、寂しがりやだからね」



長年の付き合いがある風太郎もてっきり同じ気持ちだと思っていたが、俺とは違い今でも人間と親しい。


風太郎は未だに、あの別れを何度も繰り返しながらも、人との付き合いを辞めようとしない




「うるせぇ…お前は、馬鹿じゃん」




何度も同じ事を繰り返すお前は、ただの馬鹿だ



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