怪物の水槽

加加阿 葵

第1話 願い

 何も変わらない日々。

 寝て起きて仕事の繰り返し。

 ねえお願い。神様がいるのなら、


 この退屈で平凡な日常を――してください。



 めんどくさいなと高嶺蕾は不満を揺らしながら電車を降りる。

 今日は12月21日の金曜日。

 まだクリスマスには早いしイルミネーションも無いのになんでこんなに人がたくさんいるんだろうと気が滅入った。


 午後7時。

 空は雲に覆われ月明りもなく、真っ黒に染まり、訳もなく寂しい感じがひしひしと襲ってくる。

 あそこのカップルも、へらへら笑ってる男性のグループもみんな幸せそうに輝き、夜の街を照らしている。場違いな気がして居心地が悪い。

 つぼみは溜息を吐く、吐き出された息は白煙のように空に昇っていく。そのまま周りに見向きもせずスマホを取り出し地図アプリを見ながら歩きだす。


 会社の忘年会とはなぜこんなにもめんどくさいのか。


 人見知りで引っ込み思案なつぼみは対人能力が皆無で、仲のいい友人もほとんどいない。というか仲ががいいと思ってるのは私の方だけとすら思っている。

 だからこの忘年会が頼りなのだ。気心が知れたメンバーがいるわけではないが、顔を出さないと忘れられてしまうのではないか。それが怖いのだ。


 始まってみれば楽しいかもしれない。


 そう思っても目的地が近づくにつれ体調が悪くなってくる気さえした。このまま体調不良で休んでしまおうか。

 少し早歩きになる。余計な考えを置き去りにするため。

 会社の人と親睦を深めるチャンスなのだ。逃す手はないのだがめんどくさい。会費もそこそこ取られるし。


「蕾ちゃーんこっち―」


 余計なことを考えていたら集合場所の近くまで来ていたらしい。集合場所の外で待っていた幹事の女性につぼみは笑顔の仮面を張り付け頭を下げる。




「みんな普段とキャラ変わりすぎ」


 つぼみは、ついさっきまでいた飲み会を思い出す。

 人間お酒だけであそこまで変わるものなのかと、会社の人の本性がさらけ出された会だった


 つぼみにはそれが怪物に見えた。


 つぼみは、20歳の誕生日に一口飲んで以来お酒をおいしいと思えず、今日の飲み会もお酒は飲まなかったのだが、周りが酔っ払ってダルがらみしてくる状況に軽くパニックになってしまって、途中で用事ができたと帰ってきてしまった。

 

 要は、逃げてきたのだ。


「仲良くなるには時間がかかりそう」


 家の最寄り駅で降り、つぼみは地面を見て歩く。

 雨で濡れた地面は街灯に照らされ星空のようにも見える。


 水たまりを避けた時、ああ、私はまた面倒なところから逃げて楽な道を歩いていると自嘲気味に笑う。


 自分のことが心底嫌になる。


 いや、立派な自己防衛だ。と誰に何を言われたでもないが一人で勝手に言い訳をしてる。


 土日は休みだが、飲み会を途中で帰ってしまった手前会社に行きずらいなと思ったとき、自分の内に沈殿したドス黒い感情が声に出てしまった。




 ああ、会社に隕石が落ちればいいのに。



―――


作者が小説を書き始めて3か月くらいしか経ってない時に書いた初々しい小説。


文章終わってても悪しからず

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