とある短編の置き場所
とろり。
KAC20242 目的
女性からの電話があったのは、1週間前。一軒家を借りたい、という。都市部ではなく少し田舎の自然豊かな住宅街が良い、と。
さらに詳しく聞くと、住所まで指定してきた。事前に調べている様子でこちらが持つ情報と違いはない。
「その住宅は10年以上借り手はいません。管理はしていますが、土地などの関係上家賃は少々高めです。よろしいですか?」
「かまいません」
「内見の方は――」
「1週間後の月曜日でお願いします」
「わ、分かりました」
電話を切って一息。不思議なその女性が、私は気になって仕方なかった。
春の暖かな陽気のなか、女性はタクシーに乗って現地に現れた。
女性にしては長身で、顔はマスクをかけていたためよく分からなかった。
香水の甘い香りが届く。
「小泉と申します」
「私は○○不動産の木村です。それでは早速中をご案内いたします」
「はい」
平屋のその住宅、中を一通り見渡す。時折女性は「うんうん」と頷く。何を納得しているのだろうか、と不思議に思う私だが、そこは触れずに過ごした。
「すぐに借りられますか?」
「小泉様の審査があります。1週間以内には結果が出ますのでお待ちください」
封筒を取り出し、私に差し出した。中を確認すると――
「我が社の井上の方で審査無しの許可をいただいているのですね」
「ええ」
「分かりました。小泉様がご希望でしたら契約書を作成後にすぐにご入居いただけます」
「この住宅でお願いいたします」
「それでは早速手続きを進めさせていただきます」
◇ ◇ ◇
「ここに父の遺産が残されているのですね」
地図のような紙切れを見てそう呟いた。そして、にやりと笑みを浮かべた。
「お姉様たちには残念ですが、私がいただきます」
庭の片隅に枯れ木が立っていて、それを目印に南に50歩。その場所から母屋を見て30歩。納屋に向かって10歩。
土を掘り返すと地下に続く階段を見つけ、女性は月明かりの中、地下に潜った。
そして
月が青白く輝く夜。小泉という女性は――消えた。
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