第4話②「僕はもう」
ガイウスさん以下新生第三騎士団プラスお馬さんのおかげで、僕らは考えられるかぎりの最短最速で王都にたどり着くことが出来た。
王都正門も難なく通過。
けど問題は、国王の鎮座する王宮の入り口だ。
ここはさすがに警備が厳重で、ガイウスさんや第三騎士団の後押しがあったとしても簡単には通れない。
『騎士団長=悪魔貴族の成り済まし事件』を見抜いたという功績で登城するアイリスやシャルさんはともかく、僕みたいに最初から指名手配犯な人間は当然シャットアウトだ。
見つかった瞬間即逮捕、即打ち首が確定している。
そこで僕は、変装することにした。
騎士団の人から鎧を借りて、兜を借りて。モフモフなつけヒゲをしたりして。
ガイウスさんの側近のフリをして潜入することにしたんだ。
もちろん騎士としての教育を受けたことなんてあるわけないので、動き自体はかな~りぎこちないものだった。
挨拶の作法を間違えて門番の兵士さんに不審そうな顔をされたりしたけども、「先の戦闘で傷を負ってな。本来なら歩くことも大変なほどなのだ」というガイウスさんのナイスフォローのおかげで切り抜けることが出来た。
ひとたび内部に入ってしまうと、後はすんなりいった。
至る所に立哨している兵士の警戒は内部ではなく外部に向けられているし、そもそも内部には日本の高校生一クラス分という異分子が入り込んでいる。動きのぎこちない騎士なんか気にもされないだろう。
「……あ」
みんなが廊下を歩む中、僕はふと中庭に目をやった。
バスケのコートぐらいある空間に、かつてのクラスメイトたちがいた。
こっちの世界の鎧やローブを着込んではいるけど、紛れもない日本人が、日本人らしいのんびりした会話をしている。
剣の扱い方には慣れたかとか、魔法の威力はどうだとか、魔物は怖くないかとか、傷を負ったことはあるかとか。
暮らしに馴染むための情報交換や不安を紛らわすための談笑などがそこここで繰り返されていた。
グループは幾つかに分かれているが、基本的には引率者である(とてもそうは見えないが)コマちゃん先生を中心として結束しているようだった。
「……みんな、元気かな」
理由はどうあれ、追放され指名手配までされた僕だ。
今さらあの輪の中には戻れない。
今回の事件が解決しようと、ずっとぼっちのまま。
それが悲しくないと言えば嘘になる。
「……ふうん、あれがヒロを追い出した連中ね」
僕の視線と思いに気づいたのだろうアイリスが、つと立ち止まった。
目線を厳しくしたかと思うと、いきなり杖を構え……。
「ようーっし、あたしが一発喰らわしてやるわ!」
「ちょ……やめてやめてやめてっ?」
僕は慌てた。
短気なアイリスなら、本気でやりかねない。
「でもあいつら、クラスメイトのくせにヒロのことを助けもせずにさ……」
「いいからっ、いいからっ」
「わ、わたしも及ばずながら加勢して……」
「シャルさんもいいからっ。もおーっ、ふたりとも落ち着いてーっ」
僕の敵――というほどおおげさなものでもないけど――を前に戦闘態勢に入ったふたりを止めると、僕は急いでその場を後にした。
後にしながら、ふと気づいた。
いつの間にか自分の口元が緩んでいることに。
胸がじんわり暖かくなっていることに。
「……ああ、そっか。僕はもう……」
ようやく気づいた。
僕はもう、ぼっちじゃないんだ。
僕のために怒ってくれる仲間がいるんだ。
「ふふ……くくく……っ」
人生で初めて味わう感慨を噛みしめながら、僕は歩き続けた。
どう聞いても気持ち悪い笑い声と共に、王宮最深部へ。
王様の鎮座まします『王の間』へと、進み続けた。
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