第2話⑤「報酬と卒倒と」
僕が助けた女の子はエーコちゃん。お父さんはベンノさんという名前だった。
ベンノさん一家が住んでいるのは林業と狩猟採集で生計を立てるサイハーテ村。
人口百人ちょっとの貧しい村だけど、僕らのために心づくしの宴席を設けてくれた。
宴席の場は村の中心にある広場。
家々から集めたテーブルを並べると、様々な料理や飲み物を提供してくれた。
果物や木の実を使ったポットパイは皮がパリパリとして食感が良く、ジビエの焼肉はガッツリ濃厚だった。
クリームシチューは温かく、冷えた体を芯から温めてくれた。
お酒の代わりに(未成年なので!)飲ませてくれたコケモモジュースは甘酸っぱくて、口の中をさっぱりさせてくれた。
素朴だけれど全ての料理に手間がかかっていて、汁の一滴までもが美味しかった。
「いやー偉い! あんたらは偉い!」
「さすが冒険者様だな! 若いのにたいした度胸だ!」
宴席が温まってくると、お酒を呑んで酔っ払った大人たちが盛んに僕の背中を叩き、褒め称えてくれるようになった。
事件の際の僕らの武勇伝(?)を聞きたがった。
「……ヒロ、ヒロ。なんだかすごいことになっちゃったわね」
「うん……正直かなりビビってる」
僕もアイリスも、人生でここまで人に注目を浴びた経験がないので正直かなりドキドキだ。
僕は汗をかかないよう必死で心を落ち着け、アイリスも噛まないようになるべくゆっくり受け答えしている。
「なに、手配書があるだあ? そんなん暖炉にくべて燃やしちまえっ」
「どうせクソ国王の差し金だろ? 知ったことか!」
この村にも僕の手配書は回っていたらしいんだけど、村のみんなは気持ちいいほどに無視してくれた。
むしろ王様の政治に不満を述べる声が次々に沸き上がった。
曰く、税金が高すぎる。
曰く、魔物の活動を抑えられていない。
曰く、昔は良い
「昔は良い為政者だった……か」
美女を
現在の姿とはあまりにかけ離れてるけど……。
「ふふ……にしてもさ、ねえヒロ?」
みんなの興味が新たに運ばれてきた料理に向いた隙に、アイリスが話しかけてきた。
「その格好、けっこう似合ってるじゃない」
僕はボロボロになった制服と革靴の代わりに、ベンノさんから貰った装備を身に着けている。
皮鎧、背中に背負った丸盾、武器は小剣。
いずれも軽く硬く使いやすい逸品だ。
「へへ、ありがとう。
「まご……ってあんたの世界のことわざ? その辺はわかんないけど、いかにも冒険者って感じでいいと思う」
さすがは友達。
「にひひ」と自分のことのように喜んでくれるアイリスだ。
「ホント? 嬉しいなあ」
若い頃は冒険者をしていたというベンノさんがマメに手入れをしてくれていたおかげで、どれもこれも現役バリバリの使い心地。
さらにすごいのは小剣だ。
刃の根元に宝玉の
「これにアイリスの炎魔法とか込めたら、威力すごそうだよね?」
「うんうん、いいわね、今から楽しみねえーっ」
僕自身は『粘液』で戦うのが基本で、剣はとどめを刺す時ぐらいにしか使わない。
でも、その時に剣自体の威力が凄ければ迅速にとどめを刺せるわけだから、強いに越したことはない。
「えへへへへ……」
相当キモいかもだけど、僕は小剣を眺めながらずっとニヤニヤしてた。
だって、つい先日までは不遇だぼっちだと嘆いてたのに、今や友達がいるんだもの。
エーコちゃんを救ったことが認められ、こんなに立派な褒賞までもらったんだもの。
ホントに嬉しいことの連続で、緩んだ頬が戻らなくなってしまったんだ。
と、そこへ――
「誰か、助けてください……」
すぐ近くでか細い囁きが聞こえたと思ったら、一人の女の子が今まさに倒れたところだった。
僕やアイリスと同い年ぐらいだろうか、金髪の、たいそう可愛らしい女の子だ。
神官服を着ている所を見るに、女神官なのだろうけど……。
ここへ来るまでに何があったのか、神官服はボロボロ。
ところどころ擦り切れ、肌が露出している。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てた僕が助け起こそうとすると……。
「ああ、どなたか存じませんがありがとうございます。わたしは……ぴいぃいぃっ?」
僕と目が合った女神官さんは、みるみるうちに顔を青ざめさせると……。
「お、おと、こ……っ?」
カクンと糸が切れたように意識を失い、気絶した。
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