あなたの名前にバッテンをつけた理由

黒猫虎

短編


 私は自分が担任を務める学級クラスの出席簿を開く。

 上から4番目の生徒の名前。


「    」


 君の名前だ。

 赤ペンでバッテンをつける。


 赤のバッテンは「この生徒は死にました」という意味になる。


 君は死んだということか?

 もちろん違う。

 まだ生きている。


 これはこのクラスのルールで、仕方なくだ。

 去年も一昨年もその前も、同じ処理をしたと前任の担任教師から聞いている。


 ルールなんだ。

 バッテンをつけられた生徒は本当は生きている。

 でも私たち教師は彼らを死んだ扱いにする。

 説明はしない。

 してはいけないルールである。

 ルールを破ると、バッテンの生徒だけでなく周りの生徒、人間が死ぬ場合がある。


 もちろん本人がイジメと感じて自殺するケースもある。

 しかし、これが最善なルールなのだ。

 最悪な唯一の。


 本人にとっては、他の学校に転校するのがイチバン良いかもしれない。

 ただ、教師が転校を勧めるのはルールに違反している。

 もしそれをしても、新たな出席番号4番の生徒が生まれるだけだ。


 何かの不吉な力が働いている。

 私は、ただその力に従うだけだ。

 それが最善の選択だと信じている。


 ……


 4番目の生徒の親――君の親だ――からクレームが来てしまった。

 出席簿にバツしたのを君に見られてしまった時から覚悟はしていたのだが……


 全てを諦めた私は君の名前からバッテンを消す。



 その瞬間に私の机の上にある鉛筆、ペン、定規、

 それら全てが、突然に、一斉に、

 誰も手を触れてないのに、

 真っ二つに折れた。



 その破片が床に散らばり、職員室の教師たちが全員驚いたように私を見ている。


 私の心臓が高鳴り、悪寒が走る。


 何が起きたのだろうか。


 あまりにも奇妙で恐ろしい出来事だ。



「あの……先生、大丈夫ですか?」



 隣の女性教師が心配そうにしている。


 私は落ち着きを取り戻し、微笑みながら首を振った。



「ええ、大丈夫です。ちょっとした事故です。気にしないでください」



 しかし、私の心は落ち着かなかった。

 不吉な予感がする。



 次の日、学校に来ると、校長室から呼び出しが来た。

 部屋に入ると校長と教頭が揃っている。

 嫌な予感しかしない。

 予想通り、君が死んだと知らされた。


 ああ、きっと、あのときだろう。


 死因は不明らしい。


 だが、死に方は何となく想像してしまった。

 おそらく正解に違いない。


 どうあがいても逃げられない。


 私は次の生徒の名前にバッテンをつけた。



 〜fin〜



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