兎狸会えず

@kuramori002

兎狸会えず

「とりあえずできましたよ!」


#######


 《兎》には三分以内にやらなければならないことがあった。


 すなわち、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを消滅させることである。


 因幡に発生したワニはサメということにして、形を変化させるだけで片付けたが、この強化型巨大メカニカルバッファローの群れを牛とすることが出来るかどうかは怪しいところだ。

 この時代の日本に居ていい存在ではない。


 集落の誰かに発見され、この時間軸が本格的に狂う前に―――三分以内に決着をつけなくてはならない。


 と、と、と、と、と!


 リズムを刻んで兎はバッファローたちの上を跳ねる。

 脚から放出された電磁パルスがバッファローの動きを止め、同時に展開されたナノマシンがメカを分解していく。


 最後の一体を倒し、兎は地面に降り立つ。


 鼻のセンサーをひくつかせ、次元の歪みを探査―――検知。


 《狸》の通った跡だ。


 痕跡が消えぬ前に兎は慌てて穴へ飛び込む。


 ――――

 ――

 ―


「いや〜、お値打ちですよぉ、この家は。今決めないと、明日にはもうないかも……」


 また日本だ。


 時代はかなり進んでいる。第二次世界大戦以降だろう。


 兎は狸の痕跡を探す。玄関先の置物の振りをしながら、である。


 スーツの男(おそらく不動産屋?)が不審な目を向けるが、客たちの手前、何も言わずに横を通り過ぎる。


 兎のセンサーが、ある一点に不審を見出す。


 いや―――それは、特殊なセンサーなどなくともいささか不自然であった。玄関に急に現れた兎の置物と同程度には。


 それは、庭の隅に置かれた木箱である。


 売出し中の新築一戸建てには似つかわしくない。


 兎に追いつかれた狸が仕方なくカモフラージュした可能性がある。


 兎はすぐさまナノマシンを散布、木箱の解体に着手する。


 しかし、兎の高機能AIは何かを―――その言語機能が文学性を発揮することを許されるなら、「かすかなささくれにも似た」とでも表現するであろう程度の違和感を―――察知し、作業を一時中断する。


 にも関わらず、木箱を模したそれは溶けるように崩れていく。


 ―――罠。


 ナノマシンを駆動させつつ、兎は箱のもとへ走り出す。置物の振りをしている場合ではなくなった。


 解析完全完了。


 結果:次元破裂爆弾TN4型


 破裂まであと16秒。


 解体所要時間は少なく見積もって21秒。

 

 間に合わないという判断を下し、兎は自らの身体を次元平面上に展開、爆弾を包み込む。


 同時に三次元空間に残されたナノマシンが連携してバリアを作り出す。


 兎は緊急事態を知らせる通信を発する。


「《兎20246号》より全体へコール。本機のメモリーを圧縮送信した。《狸》がここにいたのは間違いない。願わくばこの尾をはなさないでいて欲しい。本機はここまでだが、いつかヤツにまみえ……―――」


 通信は途絶えた。


 《兎20246号》は三次元空間を守り、消滅した。


 平和は守られた――トリあえず、今のところは。




######



「出遅れたんでとりあえず全部のせしときました! どうですかね、先輩?」


「いや、それで巻き返せるわけじゃないからね!? ルールよく読んで! てか、どうせなら800文字にしなさいよ!」


「それは流石に無理ぃ……!」




 

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