34.傷つくくらいなら
「本であることに間違いはありませんが、調べられてしまえば、露呈してしまうのは目に見えているでしょう。それとも、単純に読書していたのですか? リンドール公爵家の者とは思えない行動ですよ、ユリアーナ様」
―――おぉ〜……。
家族とサーシャ以外からお小言を言われたのはレティシア様が初めてだ。
レティシア様は将来いいお嫁さんになるだろう。
うんうんと心の中で頷く。
「で、どちらをなさっていたのです?」
ギクリ。
「ユ・リ・ア・ー・ナ・さ・ま?」
「……………………解析、して、ました」
「ま、そうですよね」
―――知ってたかのような物言いだな……。
口に出せるはずもないので心の中で呟く。
しかしレティシア様を舐めてはいけない。
「なにか失礼なこと思いました?」
「!? ま、まさかぁ……そんなわけないじゃないですか」
―――心の声まで読めるの!? 怖い!!
ブライト王子並に怖い。
敵にする気もないが、レティシア様を敵に回すのはやめたほうが良さそうだ。
私は本をしまうと、レティシア様が座れるように横にずれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
レティシア様は座ると、非常に痛いところを突いた。
「パーティに戻らなくてよろしいのですか? ユリアーナ様」
「あぅっ……」
見事なクリティカルショット。
さすがレティシア様。
攻めるところが的確だ。
「リンドール公爵家の令嬢としてどうなのですか?」
「うっ……」
「社交は避けては通れませんよ」
「し、知ってます、け、けど……」
「それと、そろそろ読書離れしたほうがよろしいのでは?」
「それは無理!」
「…………」
「あっ、無理です!」
「…………」
―――私、やらかした?
レティシア様から「そういうことじゃない」っていう視線が向けられる。
ううっ、ごめんなさい……。
レティシア様は大きなため息を吐くと、諭すように言った。
「わたくしも含め、ユリアーナ様には期待しているのですよ」
「しなくていいですよ、期待とか」
「では協力関係はなかったことに……」
「えっ!? それは困ります! 期待してください!」
「変わり身、早すぎません?」
―――早いほうがいいこともあるよ。うん。
そういうことにしてもらう。
「パーティが嫌いなのは社交が苦手だからですか?」
「んー……それもあります」
本が読みたいから、の方が強い。
だがそれ以上に居心地が悪いのだ。
「なんて言うんでしょう。多分、うん、そうですね。私は……」
古傷に触れるようで、
「私は、“愛”が怖いんです」
ずっと、拒絶し続けている。
「愛、ですか……?」
「はい。愛、です」
「けれど、ユリアーナ様は愛を拒絶しているようには見えませんよ? エリアーナ様に深く愛されていますし」
―――あぁ、まあ、そう見えるよね。
実際合っているのかもしれない。
だが、それは半分合っていて、半分大きな間違いだ。
―――エリアーナが愛しているのは、
『どうしてお姉ちゃんは生きるの?』
『……どういう意味?』
『そのままの意味だよ。どうしてお姉ちゃんは生きるのかなぁって思ったから聞いてみただけ』
『どうして?』
『? うーん……だってお姉ちゃん、必要?』
あの時の絶望に似た感情は忘れられない。
苦しくて、悲しくて、辛い。
愛されていると信じて疑わなかったこともあり、ショックは大きかった。
そして私は愛されることが、怖くなって、拒絶するようになり、これ以上傷つきたくないがゆえに独りきりになるようになった。
―――傷つくくらいなら、愛なんていらない。
「……すみませんレティシア様。変なことを言いましたね。矛盾していました」
私は立ち上がると、にっこりと笑った。
笑えばきっと、忘れられる。
それはその時だけであって、永遠ではないけれど。
「……ユリアーナ様」
「はい」
レティシア様はいつもよりも神妙な顔つきで許可を求めた。
「一つ、聞きたいことがあるのですが」
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