33.本当にクソだな




 会場から離れた場所には、休憩できる場所がある。

 ノーブル様と話した時の同じようなお庭がその一つだ。

 大体どこのお庭も綺麗にされている。

 そして大抵二、三人座れる椅子がある。

 私は一人腰掛けると、魔法を発動させた。


―――【転移】


 特にやることもないし暇なので、私は【転移】の応用で本を取り出す。


―――愛しの読書ターイム! ……は、少し置いといて。


 今すぐにでも読書したいが、私にはやらなければならないことがある。

 本を開いて、魔法を展開する。

 

―――【顕現】【解析】


 本に隠されたメッセージを【顕現】させ【解析】する。

 この本はレティシア様からもらったもので、クソ王子対策の情報を仕込んでいるとのこと。

 紙でやりとりする案もあったのだが、それでは見つかった際に言い訳ができない。

 それに本ならたくさんあるので調べる際に時間がかかるから証拠を隠滅しやすい。

 という感じで、私とレティシア様は本に細工をして情報の送受を行っていた。


―――……なーるほど。


 【解析】を終えた私は一人納得する。

 そしてクソ王子がクソ王子であることを再認識した。

 レティシア様からの情報によると、ブライト王子がエリアーナに婚約したのは、私への当てつけらしい。

 まず、私を取り込むのは不可能と判断したブライト王子は自分に好意を寄せているエリアーナを利用して婚約した。

 当然ブライト王子を毛嫌いしている私がいい気持ちになるはずがない。

 リンドール家は無派閥なので、婚約は容易だったとのこと。

 あ、ちなみにこの国の派閥は大きく分けて二つある。

 一つがブライト王子派。

 もう一つがノーブル王子派だ。

 別名、伝統派と改革派。

 基本的に王位は王位継承権の高い王族が継ぐが、病気や性別によって時々それは変わる。

 特別な理由がない限り変えない方がいいというのが伝統派である。

 一方改革派は実力で王位を決めるべきという派閥で、今年の王族にはブライト王子とノーブル様の双子の王子が生まれた。

 この場合、ブライト王子もノーブル様も生まれたタイミングが少し違うだけで性別も年齢も同じなので王位継承権はブライト王子もノーブル様も同じ王位継承権第一位となる。

 これを機に、勢力の弱かった改革派は大きく乗り出した。

 伝統派を崩すために改革派はノーブル様の後ろ盾に、もちろん伝統派はブライト王子の後ろ盾となった。

 実質、伝統派対改革派である。

 つまり、だ。

 ブライト様はそんな伝統派と改革派の対立を招くために無派閥で高貴な家柄の令嬢で且つ私の嫌がらせとなるぴったりの女性……エリアーナと婚約したのだ。


―――本当にクソだな。自分の目的のために関係のないエリアーナを巻き込みやがって。ふざけるのも大概にしろ。


 しかし王族との、しかも第一王子との婚約を破棄することは難しい。

 相当な理由がない限り、実現は不可能だ。

 それに仮に実現したとしても、婚約破棄された令嬢としてエリアーナは一生“傷モノ”扱いだ。

 それは私の望むことではない。

 どうすればいいのだろうか。

 すると―――


「こんなところで見るのはどうかと思いますよ。ユリアーナ様」

「っ、レティシア様……」

―――びっくりしたぁ。


 情報源のレティシア様が、私の背後から声をかけた。



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