12.律儀だな……




「読書……」

「はい。読書です」


 何も嘘はついていない。

 本当のことである。


―――やっぱ、ひかれたかな。


 別にひかれようがひかれまいがどうでもいいのだが、この回答をして共感してくれた者、肯定してくれた者はいまだにいない。

 結果は知っている。

 ノーブル王子もそうだろうと思っていた。


「……なんか、」

「はい」

「かっこいいな、お前」

「……………………え?」


 けれど、ノーブル王子は違った。


―――かっこいい?


 幻聴だろうか。

 今、かっこいいとノーブル王子がおっしゃった気がした。私がパーティが嫌いな個人的な理由が読書できないと言ったことに。

 ……なんで?


―――……これ、夢? いや現実、だよね?


「すごいな、お前」

―――お褒めいただき光栄なのですが、私には全くなにがかっこいいのか、すごいのかが理解できません。

「あ、あの……」

「なんだ」

―――かっこいい、すごいとおっしゃった理由を聞かなければ。


 そんな反応が来るとは思ってもいなかったのだから。


「何故、かっこいいと思うのですか?」

「だって、それぐらい本とか読書が好きなんだろ? それってすごいことだと思う。好きなことに一途でまっすぐな、どんな時でもその気持ちを貫く心とか」

―――なに、それ……。


 過去の言葉ナイフが脳内に響く。


『本なんて、面白くないよ』

『わかってるよ? 病人あんたには読書それくらいしかできないこと。でも、ねぇ……』

『どうせ一生、病室ここで過ごすのに本なんて読んじゃって……ガリ勉なのに馬鹿なんだね。ダッサ』


 そんなことばかり言われてきた。

 意味のないことだって、無駄なことだって。

 だけど、だけど―――


『かっこいいな、お前』


 そうではないと、認められた気がした。

 それに、とノーブル王子は続ける。


「全員が呆れるような内容でも、お前にとっては重要なことなんだろ? 少なくとも俺は否定しない。俺はすごいことだと思う」

―――あぁ、なんだろう、これは。


 否定されることに慣れていた。

 私がおかしいのだから当然だと思ってた。

 周りから“普通ではない人”と思われることはいつものことだったし、本が読めるならそれでいいと思ってた。


―――なのに、どうしてかなぁ……。


 主要人物メインキャラクターと関わるとろくなことがない。

 最強ルートに自爆ルート、他にも諸々たくさんのルートのフラグが浮上する。

 だけど、それと同じ数だけいいこともあると信じてもいいのだろうか。


「……すか」

「? なんだ?」

「かっこいいと、本当に思いますか?」

「あぁ。かっこいいと思う」

―――あ、笑った。


 だけど少なくとも、ノーブル王子との出会いは良いものだと思った。


「そうだ!」


 ノーブル王子が突然立ち上がる。


「どうしたのですか?」

「ブライトの礼、ずっと何にするか考えてたんだよ」

―――律儀だな……。


 というか、そんなことを考えていたのか。

 そんなのいらないし、なんならなくてもいいと思っていたのだが、ノーブル王子の次の一言で私の気持ちは逆転する。


「“王宮図書館”に興味はあるか?」



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