9.兄弟喧嘩が始まってしまった……





「ノーブル……」


 コツコツと足音か響く。

 周りはざわめき、双子の王子に視線を寄せる。

 もちろん、その原因の人物である私もだ。


「嫌がっているのがわからないのか? ブライト。王族の言うことは命令に等しい。そのことをお前は理解していない」

「だがノーブル。優秀な子を取り入れることはこの国の発展につながる。この子なら筆頭魔術師になることだって……」

「魔力暴走による大規模な魔法の発動はあまりない。だが、常に使えるわけでもない。なのに筆頭魔術師になれる? 他者に可能性の低い夢を見せるのはお前の悪い癖だ、ブライト。そろそろやめろ」

―――兄弟喧嘩が始まってしまった……。


 だがノーブル王子が来てくれて助かった。

 これで私は解放される。

 今後、ブライト王子からの王宮への勧誘は減るだろう。

 私は少し安堵した。

 すると―――


「ユリィ……っ」

「! 姉さん……!」


 エリアーナが私に抱きつく。

 いつもと違って少し震えている。

 王族の反感を買えば処刑もありえる。

 当然の反応とも言えるだろう。


「ごめんねユリィ、ごめんね……っ」


 涙目になるエリアーナを見ていると、私のしていた行動がよくわかる。

 普通は政略的にも都合の良い案件だ。

 王宮に行く=将来が保証されたも同然のことだからだ。

 また第一王子直々の誘いということで、行きやすくなる。

 王宮に来た理由を問われれば「第一王子に誘われたから」で済むからだ。

 だが私は快適な読書時間を満喫すること……つまりは私欲、私情で第一王子の誘いを断った。

 いくら主要人物メインキャラクターとの関わりを防ぐためとは言え、これは即処刑ルートに行きかねなかった。


―――それに、私はエリアーナに心配させた。


 これが一番ダメなことである。


「私がユリィの側を離れたから……っ」

「それは違います、姉さん」


 おそらくエリアーナは私とブライト様の会話に入る勇気がなかったのだろう。

 エリアーナもまだ10歳。

 王族の会話を遮って前に出るなど、不敬の中の不敬。

 むしろ、今回は黙って静観している方が正解である。

 エリアーナの選択は正しかった。

 私は小さくエリアーナに謝る。


「私こそ、ブライト王子を独り占めして申し訳ございませんでした。姉さんがブライト王子に好意を寄せていることは知っていたのに……」

「! でもユリィから話しかけたわけではないのでしょう? なら仕方のないことよ。それよりも、こんな時にまで私の心配をしてくれるなんて……やっぱりユリィは天使だわ!」

「姉さんわかった。わかったから離して」


 二度目のハグはいつも通り苦しかった。

 妹大好きなエリアーナに戻ったようで何よりである。


「ユリアーナ嬢」


 双子王子の兄弟喧嘩も終わったようである。


「君の意を蔑ろにし、幾度にも及ぶ勧誘をしたこと、ここに謝罪する」

「! 頭を上げてください、ブライト様」

「すまなかった」

「いえ、そんな……」

―――注目を浴びたくないからやめて!


 そんな声が届くはずもないのだが。


「ですが、君に王宮へ来てほしいこの気持ちは変わりません。気が変わったら教えてください」

「……わかりました」

―――気が変わることはないと思うけどね。


 こうして、ブライト王子との会話は幕を閉じた。



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