2.さっき起きたばっかなんだけどなぁ……




 大抵の異世界転生系物語にはお決まりの事柄、つまりはテンプレ展開というものがある。

 前世ではいつの間にか強くなっている系or最初から強い系の二種類の異世界転生系最強系が多かった。

 なら私は……と思い、転生して約3ヶ月の間、この世界のことや私について調べていた。

 その結果について簡単にまとめてみたところ、こうなった。


①私は白髪碧眼なので主要人物メインキャラクター

②この世界では魔法が使える

③前世の記憶と10年間でつちかった知識があるだけで、最強ではない


 ざっとこんな感じである。

 ①はお決まりの事柄が理由だ。

 ②は侍女たちの言動から察した。

 ちなみにここは前世でいう異世界で、体の周りを漂うモヤモヤとした白いものは魔力だそうだ。

 成長していくとともに魔力も増えるとのことである。


―――けど、魔法ねぇ……。


 正直、そこまで興味は湧かないのが現状だ。

 理由は簡単。

 上手く喋れないからだ。

 魔法は詠唱しなくては発動しない。

 つまり、私が魔法を使えるようになるには、まずは喋れるようにならないと始まらないのだ。

 ということで私は最強ではない。

 だが、これはあくまで現時点での話だ。

 話せるようになれば、魔法を使うことができるようになる。

 そうなった時に、私がどのくらいの力を使えるのかで、改めて最強かどうかが決まるのだ。


―――でも、最強系は面倒なんだよね。


 周りからチヤホヤされることが嬉しい人もいるかもしれないが、私からしたら読書の時間が減るだけの邪魔でしかない。

 それに、戦闘の可能性が非常に高まる。

 怪我をするのは痛いから嫌だし、そんな暇があれば読書をしていたい。

 私の願望的に、最強系はあまりよろしくないのだ。


―――それにしても……詠唱したら魔法が使えるって、どゆこと?


 前世では物語の中では何でもありなのが普通だったため、二次元の仕組みはそこまで考えないようにしていた。

 ご都合主義が多かったことも一つの理由だ。

 だが、こうして異世界に転生したとなると、どういう仕組みで成り立っているのかが気になってしょうがない。

 他人事ひとごとのように思っていたことが、急に自分の事となったのだ。


―――誰だってそうなるよね。うん。


 だが話すこともできない私ができることなど、片手で挙げるほどしかない。

 今は成長するのをゆっくりと待つだけだ。


「失礼します、ユリアーナ様」

「あうあっ!」

―――サーシャ……!


 黒髪黒目のザ、メイドさん。

 それがサーシャだ。

 サーシャは私の筆頭側仕えで、素晴らしい仕事をしてくれる優秀な人である。


「今日は天気も良い素晴らしい日ですよ。1歳になれば外出の許可も降りますので、それまで辛抱してくださいね」

―――うーん、少なくとも9ヶ月は先かぁ……。


 だが、時が過ぎるのは案外早いものだ。

 サーシャは私を抱きかかえると、膝に乗せた。

 そして一冊の絵本を取り出す。


「本日も絵本の読み聞かせとなってしまいますが、よろしいでしょうか?」

―――毎日読み聞かせで大丈夫です!


 本は私の唯一の娯楽だ。

 それは前世でも今でも変わらないことだ。

 それが参考書でも、絵本でも、私は喜んで受け取る。

 本は新しい知識や初めての感情を与えてくれるからだ。


「では始めますね。……むかしむかしあるところに…………」


 サーシャは読むのが上手く、とても聞きやすい。

 そうそう、これもお決まりの事柄の一つなのだが、何を言っているのかは理解できても使っている文字は前世と全く違うのだ。

 一から覚えなくてはならないが、覚えることができれば、たくさんの本を読むことができる。

 古代文字を読めるようになれば、もっと古い本も読むことができる。

 この状況に、私は少しわくわくしていた。


「……たとさ、おしまい。いかがでしたかユリアーナ様。面白かったでしょうか?」

「あいっ!」


 もちろん!と言ったつもりなのだが、サーシャには伝わっただろうか。


―――てか、「あうあっ!」とか「あいっ!」とか、赤ちゃんって母音しか言えないんだね。一応前世で10年まで生きた身としてはかなり恥ずかしい……。


 すると、視界がぼやけ、感覚がだんだんと消えていくのを感じた。

 サーシャが優しく揺らしたからだろうか。

 うとうととまどろんでいくのがわかる。


―――さっき起きたばっかなんだけどなぁ……。


 赤ちゃんだからか、すぐに眠気が襲ってくる。


――― 15時間ぐらいだったかな、前に数えた時の睡眠時間。


 どんだけ寝るんだよ、と悪態をついていた気がする。


「おやすみなさいませ、ユリアーナ様」


 サーシャの温かい体に包まれて、私はスヤスヤと夢の中へ落ちていった。



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