二人のSP
大和 真(やまと しん)
第1話
「二人のSP」
大和 真
二0二X年四月最初の水曜日
高山基樹厚生労働大臣は彼の地元である香川県某市に訪れていた。地元固定票で毎回選挙では世話になっている、森本製薬の会長森本との会食の為だが、表向きは地元保育園、福祉施設の視察となっていた。天候は予報通りの快晴。新緑も柔らかな日差しも心地の良い日だ。
日本の現職大臣の職務に必ず同行する警視庁警備部警護課セキュリティポリス通称SPと呼ばれる一般人は名前と何となく要人を護る事が仕事だと認知されている仕事を選んだことに誇りを持った二人の熱い物語である。
SPとは柔剣道。合気道三段以上、上級の拳銃射撃術を持ち、英会話に長け、173cm以上の身長を有する警察官であり、警察施設で三ヶ月間の特殊な訓練を受け厳しい競争を勝ち抜いた優秀な者からさらに厳選に厳選を重ね選ばれた者だけが任命されるまさに要人警護のスペシャリティー集団である。
要人警護が職務の為、SPは端正な身なりでスーツにネクタイ、どんな日でもスーツの前は開けたまま腰や脇に携行してる備品を素早く取り出し警護をする為である。“SPの文字通称(SPバッジ)を上着の衿に付け防具として折り畳み式の防弾盾が仕込まれている薄い手さげカバンを常に携行している。
「高山大臣、無事保育園に入る」
本部に連絡を入れたSP歴六年の北川伸一と同期の久米勝は目を光らせていた。保育園、福祉施設の訪問を無事に済ませ、夜には森本製薬森本会長と料亭での会食をし、この日の役目を果たした。
明日には東京へ戻るのでこの日は高山大臣は生家に泊まり、警護班は住宅近隣で警護を重ねていた。北川と久米の任務は大臣の会食まで。引継ぎを済ませ二人は、シティーホテルのダブルルームで寛いでいた。
一旦は警護を離れたがいつ何時、何事が起きるかも想定するので飲酒は厳禁、食事も取り過ぎると動きが鈍くなり、思考も働きが悪くなるので満腹まで食べることはない。それでも要警護者の引継ぎを済ませれば彼らは張り詰めた緊張からやっと解放されるのだった。
「久米の今の奥さんは元警察関係者なんだろ」
北川は同期で同い年の久米とは話のウマが合うのかSP警察学校時代から行動を共にすることが多かった。
一回目の久米の結婚は大学時代の同級生で北川も面識はあり、結婚式にも招待されていた。離婚したと1年後に聞き、性格の不一致とだけ説明された。そんなバツ経験もあるので二度目の結婚は籍を入れるだけで仲のいい人しか知らなかった。
「警察と言っても事務関係で現場は知らないんだ。一回目の結婚よりは上手く行ってると思うよ」
「そうか。それなな何よりだ」
「それより北川こそどうなんだよ。学生時代から付き合ってた恋人が居たじゃないか」
「ああ、梓とはこの任務が決まる前に別れたんだ。別れたって言えば聞こえはまだ良いが、俺が振られたって事だよ。勤務してる証券会社の親会社のアメリカのファンドマネージャーって言うんだっけ、そいつとアメリカに行くってよ」
「聞かない方が良かったな」
「良いんだよ久米、俺もこんな仕事だから一生独身でも良いかなって最近思えてきてさ。ま、また縁があればだな。それより明日も五時半起床だぜ。早く寝ないと」
こうして二人は明日の大臣の東京までの警護の手順を踏まえながら眠りについた。
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