続 ドリームチーム 中編

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第2話  侵略者          遠之 えみ

フブキ達が再びパンジーのラボに集められたのは 前回フブキが拾った

「金属片」を巡っての議論から一ヶ月後の事だった。挨拶もそこそこにパンジーがぶっきらぼうに話し出した。

「結論から言います。この金属片には地球以外の物質が混合されていたわ、

私が目を通した文献、資料のどこにも載っていない」

「それは一体何なのだ?」 スフレの質問に 「知らなくても問題はないけど」と、言い渋るパンジーに 「知っていた方が…」と、ツクシが被せ気味に言った。

フブキはハレルヤと共に居並ぶ面々の最後尾に立ち このやり取りを見守っていた。

ハレルヤからパンジーに対する疑念を打ち明けられたのは つい昨日のことだ。

正直フブキは面食らったが、ハレルヤが抱く疑念に対する適当な答えが見つからずじまいである。パンジーがロジック通りにしか動けないというハレルヤの指摘はフブキ自身も感じていた事だからだ。

子供の頃のパンジーは 当然子供なら誰しもそうである様に色々な物事に興味を示し、驚嘆し社会性を育んでいったのだが、ドラゴンとの決戦後は自分の興味を引くものだけに極端に走り出した。それだからこそ16年と云う短期間でデリヌス星を劇的に発展させたのだが……

パンジーがコミュニケーションを取る相手はBrainAIがほとんどである。

BrainAIのモデルはパンジーだから、パンジーはパンジーの思考を持ったAIと鏡越しに自分自身と対話しているに過ぎない。ハレルヤはパンジーが独自の世界に突っ走る事を恐れているのだ。

しかし、とフブキは思う。 パンジーはアウトクラウトが送り込んできた「救世主」の一人である。例えパンジー自身がBrainAI化したとしても敵になるなどあり得ない。あり得ないと信じたい。だが、頭の隅には「注視は怠らず」の文字が見え隠れしているのも事実である。


「皆さんも知っての通り、地球人たちは 月や火星、木星にポッドを飛ばして資源を集めているわ。この金属片に混入しているのはそれらの惑星から採取した物と見て間違いないでしょう」で、採取されたそれらの物質が300年以後の開発にどれ程の役割を担ったかは 残念ながら正確なデータはない。多分開発環境には大した寄与はしていないでしょう。せいぜいポッドの表面を強化するとか、軽量化に役立てるとか 「そんなとこね」 パンジーは殊更 不自然なくらいアノニマスを強調してくる。しかし、こんな詭弁が通るはずもなく やはり科学者であるマーキュリーから厳しい質問が出た。「軽量化は燃料電池の消費に直結する。ポッドの表面が強化されているとなれば今の武器では太刀打ちできない可能性も出てくる。一旦侵入されたが最後 我々が見た事もない進化した武器に制覇されかねない」

パンジーは少々鼻白んだ表情で億劫そうに応えた。

「混合物の正体が解ったと云う事はこちらもそれに近い物質を利用すればいいと云うメリットがある。現在のハイブリッド型を更に強化する事で問題はないと断言します。燃料に関しては、幸いデリヌス星は今のところ地球の260倍保有しているとのデータがあります。これは100%確かなデータです。だからこそ地球人は資源の宝庫であるデリヌス星に焦点を当ててきたのでしょう? 心配はいりません!私たちに任せて下さい!」 

パンジーはここで一息入れて再び雄弁に話し出した。

「ポッドと偵察型ドローンは最優先で対処します。ただ、懸念の武器に関しては皆さんに一任します、製造用ロボットを増産しますので活用して下さい。燃料電池の増産も急ぎます」

この後も延々自信たっぷりに語るパンジーに気圧される形で解散となったが 其々の頭の中は複雑な計算式に支配されていた。ポッドやドローン製作に関してはパンジー以外語れる者がいないからだ。ただ一つ、デリヌス星は資源が豊かで地球の260倍と云う部分は大いに納得できたくらいである。 だが、武器の改良となれば話は別だ。武器の改良はフブキたち現場に立つ大将たちの領域になるからだ。

今 量産されているAI兵士のモデルチェンジを急がなければならない。

そして戦争が始まる前にデリヌス星人を避難させるデリケートな問題がある。

北の国の住人は魔女の洞窟、西国サバンナの住人はサバンナの地下に張り巡らされた地下道へとそれぞれ避難誘導するのだが、惑星全体の避難勧告はスフレに託されている。タイミングを見誤ると多数の死者が出るのは火を見るよりも明らかだ。

デリヌス星はほぼ惑星中に地下道が張り巡らさているが、ハレルヤの設計により極端なくらい複雑に絡み合っているが故 ナビAIのフォローなしでの通り抜けは不可能に近い。今 スフレが仕切る東国ではナビAIの小型ポッドを製作中だが2倍速3倍速で取り掛かる必要性が出てきた。


フブキたち四つ仔は今、人間で云えば70歳以上の老人だが与えられた寿命から換算すれば22~23歳の若者である。20歳を越えたあたりから寿命と云う時間がゆっくり流れるためだ。四つ仔に与えられた寿命の時間は一律ではない。20歳を迎えた時、其々に暗示が示される。守秘義務があった訳ではないが誰一人口にする者はいなかった。四つ仔の両親はノンキャリアだった為 本来の寿命を全うして父親は13年前に母親は12年前に亡くなっている。ペガサスの贈り物で、両親共に人間の姿に変身できるようになった事をとても喜んでいたが、亡くなる時は素の姿のままを希望して亡くなった。

孫の顔が見たかったかどうか判らぬがツクシ以外の3人はパートナー候補の影さえない状態だ。 唯一、ムーンと結ばれたツクシには子供がいない。異種と云う問題と、かけ離れた寿命の違いが原因らしいが二人はとても幸せそうだから それでいいじゃないかとフブキは思っている。


異変が起きたのは4ヶ月後の深夜だった。

フブキがサクラと交代して基地内の個室へ戻る直前 10基の監視モニターの非常ランプが一斉に点滅し出した。サクラは速攻各支部に共有信号を送った。

すぐに各支部から返信がくる。フブキとサクラが護る南国、四天王の西国、スフレの東国、そしてハレルヤの北国。今 離れていても同じ画面を観ている。

非常ランプは点滅し続け、やがてモニターに映像が送り込まれてきた。

画面一杯に映し出されたのは、全員が地球の文献で目にしてきた合成ロボットである。むき出しのアースコードで四肢を繋ぎ合わせて人間の形をとっているが、首だけはまるで本物の様な醜いものだ。  「まるで落武者ね!」 言ったのはいつの間にか来ていたのかパンジーである。 「趣味が悪いわ!こんなもので脅しをかけて来るなんて敵も案外……」 パンジーが鼻をふん、と鳴らしたところで突然合成ロボットが電子音で話し出した。キー高めの電子音で見た目とは全く相容れない。

「通告する通告するこの惑星は我々が支配する支配する従えば良し従えば良し歯向かえば全滅歯向かえば全滅通告した通告した」 一切抑揚なしの電子音の宣戦布告ときた。

「だれだお前!いや!後ろで操ってるやつ!出てこい‼」 フブキがパンジーを押しのけて目の前のモニターに怒鳴ったが 「質問には答えない質問には答えない通告した通告した」 ここでモニターも非常ランプもぷっつり切れた。

「今のは典型的なARじゃない!通告と云う事は次は警告だわきっと!」

ARだとしてもバックに操作している者がいるんだから……と言うフブキを無視して

パンジーは右腕に巻き付けているプログラムボタンを押して、停止しているBrainAI

を全て起動させた。

ここでパンジーと言い争っている場合ではない。次は警告と言ったパンジーの見解に

間違いはないだろうと考えたフブキはサクラと共に急いで抜け道に下りた。

大人の三人も入れば満杯の井戸の遥か地下には最新型のAI兵士が10万体待機している。AI兵士を操作するのはBrainAIと各支部長だ。地下の基地だけは各地区の地下道に繋がっていない。アクシデントが起きた場合に備えてアニマル人を護る為の政策で ここだけは独立した状態である。

AI兵士10万体と二人乗りの小型ポッドが100台常備されている。AI兵士には背中部分に飛行装置が付属しているので ポッドはAI兵士以外の者が利用するのだが、このポッドが出動となればアニマル人の生死をかけると云う意味にもなる。

この基地は外界へのゲートでありながら主戦場でもある。だから何が何でも、侵入はここで封じ込めなければならない!

フブキは、ハレルヤが今だパンジーに対して懐疑的なのが気掛かりだった。

放っておいていい問題ではない。一致団結で臨まなければならないのだ。少しの綻びも許されない。数時間後、各地区から集まった大将たちの前で作戦の再確認をした後、フブキは一段高い所に立つと話し出した。

「たった今から皆の生活はこの基地内に集約される。デリヌス星を護る為に多少の不便は堪えて欲しい。何が何でも侵入を許してはならない!そして……」

フブキはハレルヤに顔を向けた。 「多少の不満はあるだろうが……パンジーはれっきとしたアニマル人であり救世主の一人だ。パンジーを信じて欲しい!」

この瞬間ここに集まった者全員がハレルヤの真の心を知ったのである。

誰もがパンジーの不在に胸をなでおろした。いや、だからこそフブキは言ったのだろう。蒼白い顔で俯くハレルヤにスフレが情愛の眼差しをもって肩に手を置いた。


それから3ヶ月後の深夜、再び監視モニターにアクセスがあった。

前回と同様見た目とボイスが不釣り合いの醜いARである。

フブキは何時でも出動できる様BrainAIをonにした。

「警告警告今から480時間後に攻撃を開始する警告警告今から480時間後に攻撃を……」 「出来損ない!スプラッターに用はない!ボスを出せ‼」「開始する質問には答えない質問には答えな……」 「バカかオマエ!質問じゃない!ボスを出せと言っている!」「い………」「どうした?オマエのボスもオマエと同じ出来損ないか?

あ、今のは質問か…もとい‼ボス同士で話をつけたい!ボスを出せ、俺はこの惑星の防衛隊長フブキだ!」  「………最高権力者か?」質問には答えないのに質問はしてくる。フブキは一瞬迷ったが「そうだ‼」と答えていた。応えた途端一斉にモニターが切れた。ひょっとして一瞬の間が空いた事でウソだとばれたか……とフブキは思った。

デリヌス星に最高権力者は存在しない。勿論ボスと云う存在も。

アニマル人はメシアの教えを厳格に守り規律に従い淡々と生活を営んでいる。

極稀に、突然変異による規律の乱れは起きるが その時は先輩アニマル人の手に依って時間はかかるが矯正していくのである。

便宜上 北の国はハレルヤと6人の弟子が、西国はツクシと四天王が、東国はスフレ、抜け道の地下基地がある南国はフブキがトップである。

「戦闘準備に入ろう」 フブキの一言で皆一斉に動き出した。480時間と云う事は20日間。真に受けてはならない。明日にでも攻撃を仕掛けてくるかもしれないと

フブキは考えた。其々の大将たちも忙しく動き出した。各支部に指示を飛ばしアニマル人の避難を促す。フブキはパンジーにBrainAIの追加派遣とAI兵士の増産を頼んだ。やれる事は何でもやる。だが、解らないのが地球人の武器だ。パンジーは「イマドキ手動の武器?」と鼻で笑っていたがフブキは笑えない。そして、もう一つの懸念。

ハレルヤの魔法は感情のない機械相手にどこまで有効か?6人の弟子たちはこの星の為に最後まで命をかけて闘ってくれるだろうか? 魔女は姿を消せる。戦争が終わるまで何処かに隠れていたとしても誰も気付かない。

いや、とフブキは首を横に振った。信じるのだ。ただ―――信じるのだ―――と、

フブキは強く自分に言い聞かせた。


それから10日後。監視モニターに映し出されたのは醜いARではなく、これが現在地球を支配している人物か?と怪しむ程の端正な顔立ちをした青年だった。しかし、これもARじゃないとは言い切れないが……

青年は笑みを湛え美しい声で話し出した。

「これが最後の警告となるが、、、ひとつ提案を出そう」 「………」 「何も言わないのか?ボスを出せと言ってきたのは君だ」 と云う事はこの青年がボスらしい。

フブキは腕組みをして仁王立ちしたまま口を噤んでいた。

「歴史伝聞ではアニマルの惑星と聞いていたが、見たとこモニターに写っているのは我々と同じ人間だ。と云う事は魔女は存在する、そう理解して間違いなさそうだ」

魔女と云うワードにハレルヤがいきり立った。モニター越しの支配者を睨みつけながら唸る様に言った。  「早く要件を言いな!スネーク坊や‼」

「だれ?」青年の顔から作り笑いが消えた。笑みの消えた真顔は紛れもない悪相である。この期に及んでスネークとは驚いたが  ―――これにはナニかアル―――と、フブキは直感で捉えていたが平静さを失わず「提案を聞こう」と言った。青年はハレルヤから視線を外し再び笑みをつくり話し出した。

「知っていると思うが、今 地球はエネルギーの危機に瀕している。そこで、こちらの要求に応えてくれれば無駄な戦闘は回避できると云ういい話だ。ズバリ資源が欲しい。そして、地球人を受け入れてもらいたい。我々も戦闘は避けたいと思っている。平和的な提案だと思うが」  ずる賢いスネークドラゴンとそっくりだ、と、フブキは思った。

提案と言ってるが恐らく強制だ。資源にしても、要するに根こそぎ寄越せと言っているに等しい。人間を入植させたらアニマル人は捕らえられ解体されて人間の口に入るかペットだろうと思われる。

「どちらの要求も受け入れられないと言ったら?」

青年の顔から再び笑みが消えた。  「仕方がない、時間は残り240時間だが我々

師団の中には規律を守らない隊もある。私は平和主義で親切だから少し説明しておこう。いや、既に判っているかな?警告したのは確かにARだが生身の人間の脳は存在する。多くは内戦で死んだテロリストの脳だ。我々はこの集団と200年以上戦ってきたが、今回 目的が一致した事で共同作戦を取る事になった。だが、我々とテロ集団の違いは明白だ。我々は平和的な解決を望むが彼等は極めて好戦的だ」「テロリストの脳を何に使うか知らないが、それだけでも平和的とは言えない」 「それには諸事情と云うものがある。披露は出来かねる。さあ、タイムリミットだ。最後に言っておく。当方がエネルギー不足だからといって甘くみない事だ。戦闘が長引けば君らの方が圧倒的に不利だ。もう一度尋ねる、提案を受け入れるか否か?」

青年の顔がモニターに近づきアップされた時点でフブキは通信を切った。そして、

即座にBrainAIに指令を出す。BrainAIの指示で臨戦態勢のAI兵士が一斉に動き出した。AI兵士が先頭をきってゲートに向かうと、その後を短期間で戦闘型に改良されたロボットが続々と続く。

実際、ロボットの操作はBrainAIの仕事であるから フブキたちは基地内に設置された巨大なオペレーション室に陣取り あらゆる角度から映像が取れる20台のモニターを見ながら随時作戦を変えていくのだ。 戦闘型に特化されたロボットは大将たちのアイディアと要望に応え、パンジーが改良に改良を重ねた結果 完全な武装ロボットに進化していた。ヒト型のロボットであるが武器の塊りだ。

狙われ易い頭の部分だけは敢えて空っぽにしてある。遠隔操作を司る精密部分は左上腕部と右足膝下二か所に分けてある。攻撃でどちらかを失っても片方の通信が生きていれば操作が可能だからだが、どちらも失った場合はBrainAIの操作で自爆装置が作動し敵めがけ突っ込み使命を果たすのだ。血は流れないが仮に撃沈されるのを見てもフブキたちはこの時点では手も足も出せない。フブキたちの出番があるとしたら かなりの劣勢を強いられた時か侵入を許してしまった後の事だろうと云うのが全員の一致した見解である。

「侵入は許さない!」 ラボに籠り切りのパンジーとハレルヤの弟子6人を除いた9人が輪になり手を重ね合わせ誓った。

          「デリヌス星を護る‼」






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