第3話


「……遅いね」

「そうですね」


 言われてみれば確かにただお花を摘みに行った割には随分と遅い。


「……」


 そんな時に頭を過るのはフィーユの言葉……。


 ――あの時は「まさか」くらいにしか思っていなかったし、一応危惧はしていたくらいだったけど……。


 正直。イリーナとしては「何か仕掛けてくるとしたら、その相手は自分だろう」と思っていたくらいだ。


 ――でも、フィーユは「アリアだ」って言っていたのよね。


 ただ、相手はキュリオス王子の友人。いくら王国一の商人の息子だとしても、所詮は「商人」だ。


 ――そんな命知らずな……。いくら「国一」とは言っても所詮は庶民に毛が生えた程度。アリアは男爵とは言え「貴族」だという事には違いないのに。一応私もリチャード様の婚約者ではあるけど。


 しかし、イリーナはこの時点で「自分が公爵家の令嬢」と言う大きなアドバンテージを忘れていたが、今は関係ない。


 それに加えて、アリアは学年トップクラスの成績で魔法の実力もある。そんな相手に「何か」を仕掛けるとは思えなかったのだが……。


 ――アリアの成績と交友関係を見ればいかに自分が「バカ」な事をしようとしているか分かる話なのに……。でも、現実的な話。ここまで遅いとアリアの身に何か起きたと考えるべきよね。


 それが一番高い可能性だろう。


 それに、あまり待ってもいられないし、待ってもくれないだろう。一応『星空会』が始まる十分前にこの場で点呼が行われ、その時にいなければ「不参加」という事になってしまう。


 つまり、このままでは「学校行事不参加による退学」という事になりかねないというワケだ。


 ――正直、あまり気乗りしないけど……。


 しかし、やはり一人でやみくもに探すよりもキュリオス王子に説明をして一緒に探した方が確実にいいだろう。


 ――私よりもあの子の事を知っていそうだもの。


 そう。これはただ単純に「付き合いが長い」というだけであって、深い意味は当然ない。


 ――それに、何かあった時に対処出来る人が一人でも多い方が良いのは当たり前だから……。


 魔法の実力は申し分なくアリアと同等……と言っても過言ではない。成績だけで言えばアリアよりいつも上にいる。


 ――とりあえず今は大事なのは点呼が始まる前にあの子をここに連れ戻す事だもの。


 そう考えたイリーナは……。


「――殿下」

「ん?」


「お話しておきたい事がございます」

「それは……アリアについての事かな?」


 キュリオス王子もやはり「おかしい」と思っていたのか、イリーナが本題に入る前にそう尋ねて来た。


 ――話が早いわね。


 こういう時、察しが良い人は助かる……心で思いながらイリーナはキュリオス王子の言葉に「はい」と頷きながら答えた。


「あくまでひょっとして……という一つの可能性程度のは話ではあるのですが……」


 正直「確定」している話ではない。しかし「アリアが巻き込まれているかも知れない」と思ったらしいキュリオス王子は……。


「――聞こう」


 イリーナのただならぬ雰囲気から察したのか、キュリオス王子は真剣な表情でイリーナの話に耳を傾けた。

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