第3話


 ただまぁ、理由はもっぱら「社交界の顔出し」と言う名の『お茶会に参加するため』だ。


 一応、イリーナもこの国に三つしかない公爵家の令嬢「多少なりとも社交の場に出して将来の縁談を円滑に進めたい」という両親の考えが透けて見えた。


 ――わざわざ顔出しなんてしなくても「公爵家の令嬢」ってだけで引く手数多な気もするけど。


 貴族の世界なんて「身分」と「駆け引き」がモノを言う。所詮そんなモノだとイリーナは知っている。


 何せ自分の両親が家同士で決めた結婚で、そこに「愛」なんて存在していない。


 それを自分で言うのもどうかと思うが現にイリーナの元にはたくさんのお茶会の誘いが来ている。


 多分、そのひとんどが「公爵家と何かしらの繋がりを作っておきたい」というモノであり、本当の意味で「娘。もしくは息子と仲良くして欲しい」と思っている人はいないだろう。


 当然、その辺りはイリーナも心得ているが。


 ――まぁ、これだけ来ているのだから一つくらい私だけ行っても……。


 そう思った事もあった。だけど、すぐにイリーナは首を左右に振った。


 そういえば、以前「このお茶会に行きたいのですが」と言った時。送り主を見た母から「こんな位の低い家のお茶会に顔を出す必要はありません!」と烈火の如く怒られた事を思い出した。


 ――確か。珍しい花が咲いた……とかそんな誘い文句だったのよね。


 あの時。まだお茶会にそこまで参加していなかったイリーナを誘う物好きは一体誰だったのだろうか。


 ――思い出せもしないのだから、きっとその人に興味なんて全然なくて「その花が見てみたかった」ってだけだったのよね。


 イリーナとしては「せっかく誘ってくれたのに」という気持ちだったけど、両親。特に母は身分を笠に着ているところがある。


 そんな人に対して「お誘い」といいう形は、どうやらそのプライドに触るらしい。


 ――面倒な人ね。


 きっと公爵家でなければその一言で終わるだろう。


 しかし、それ以来イリーナの元に届く招待状は全て母に渡される様になったが、何を基準で選んでいるのかは知らない。


 ――身分は当然基準の中に入っていると思うけど……。


 いずれにしても、イリーナは自分一人ではお茶会に行く事も許されず、友人なんて当然出来ず孤独になり、それに加えてどこから入ったのか使用人の話も広まった。


 そして、イリーナのいないお茶会でこの様な話に尾ひれがつき、さらに「イリーナ・クローズは使用人を困らせる令嬢」といった噂がささやかれる様になったのだった。

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