出会いはいつも突然に

136君

出会いはいつも突然に

 眠たい目を擦りながら飲み屋街を歩く。でも、あちこち店は閉まっていて、空いているのは貸切だったり、変な店だったり。よく分からない文字の看板の店もある。


「どこも開いてねぇなぁ…ふわぁ…っと。」


 俺はいわゆる社畜なんだろう。上司から振られる大量の仕事に振り回され、いつも帰るのは終電か、その後。終電後になったら、朝までやってる居酒屋を見つけて始発まで晩飯兼朝飯を食べる。幸い、最寄りの始発が早いから2時間ちょいは寝れるのだ。


「今日はここにしようかな?」


のんびりと歩いて見つけた居酒屋。黄色い看板に『一』とだけ文字が書かれている。今日はここにしよう。


「すみません、ここ朝までやってますか?」


店内に入ってすぐに視界に飛び込んできたのは、カウンター席でぐだぁっとしている女性。そして、その人のことは全く気にせず、おつまみか何かを作っている店主の姿だ。


「やってるよ〜。1人?じゃあカウンター座って。」

「あっ、はい!」


俺は近くのカウンター席に座る。ストーブの温もりが少し伝わるような距離のところを選んだ。


「あんたもそこの子と同じなんだね。まぁ、朝までゆっくりして行きな。」


店主はおしぼりとお冷を目の前に置いた。なんか、ふわふわした空気の人だ。


「ん?私以外に客?」

「そそ。はい水。」

「ん。ありがとうございます。」


一瞬だけ女性は起きて、そして水を飲んで寝る。そしてすぐ、何かが気に入らなかったのか、起きてビールを流し込み、また寝た。


「面白い人でしょ?」

「そうですね。見ていて飽きません。」


何が面白かったのかは分からない。けど、何かが面白くて笑ってしまう。


「あっちの席移動するかい?」

「そうですね。」


俺は女性の隣に移動した。こっちの方がストーブが近くて暖かい。


「ん?さっきの人かい?あんたも私と一緒か?」

「ただの通りすがりのサラリーマンですよ。社畜ツモってる。」


なんでこんな言い方をしたのかは分からない。おそらく女性の財布についた一筒のストラップのせいだろう。


「じゃあ私は社畜とクソ上司の倍ツモですね。」


女性は笑ってそう言う。そしてまた寝た。


「お兄さん、何飲む?」


会話が終わるのを見計らっていたかのように店主が来て、そう聞いてくる。


「とりあえず生で。」


またこの店にはお世話になりそうだ。

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