奴は異世界転生したかもしれない
大根入道
1
いつものように遅刻寸前だった。
人気のない、枝葉に閉ざされ薄暗い道路。
自転車を漕ぐ。
頭の中でゲームの戦闘BGMが止まらない。
―― 遅刻だ、遅刻だ、遅刻だ。
「ウイッヒィ―――――」
全力でカーブを曲がる。
車無し。
人影無し。
ウィーアー田舎!!
オーグレイト!!
最高速度で直線へ入る瞬間、浮いた。
「えわ!?」
飛ぶ。
田んぼに落ちた。
「ぶぺっぷ!」
泥を吐く。体を転がすように動いて、自転車を押え付けるように立ち上がる。
痛い汚いとか以前に、まあ遅刻だなと思った。
自転車を引きずって道路の上に。
見れば赤い線があった。
「こいつか」
鳥の死骸。
元鳩の、今は肉塊。
取り合えず、ポケットテッシュの袋で手を覆い、側道に避けた。
テスト前に部屋の掃除をする性質だ。
頭の動かない状態で、だからこんなことをした。
とりあえずだ。
とりあえず動く自転車に乗って家に帰った。
外で服を脱ぎ捨て全裸になった。
鞄の中のスマホが鳴った。
外の水道で流して、電話を取る。
どうしたと?先生が聞いて来たので遅刻ですと答えた。
まさか今全裸とは思わなかったのだろう、ヒステリーな女性教師がわめきたてる。
事前連絡は社会のルールと言うが、生徒を全裸で外に立たせたままはどうなのかね?
わいせつ物陳列罪でほうじょ罪とかにならない? 知らんけど。
あーはいはいと切って、学校に行く事になった。
死ねクソババア、デスフレア。
体操服に着替えて自転車に。
今度はゆっくり道路を走る。
億劫に感じる時間の流れ。
とりあえず仮病使っとけばよかったと後悔。
未来から来た人型ロボットに襲われて必死に逃げる途中でしたと言えば、アラフィフには受けるだろうか?
日常の中の非日常を妄想するがこういうのは御免だ。
異世界に呼び出され、スキルを貰って無双とか。
あるいは巻き込まれて一見平凡なステータスでも、機転を利かせって無双するとか。
偽善者ムーブでハーレム作って、何やかんやでこっちの世界に帰還するとか。
そして世界の裏で暗躍し、裏の実力者として名を轟かせる。
もちろん翻訳スキルを貰って世界中の言語がペラペラペラ――だ。
「ああ、誰か異世界に呼んでくれないかな」
超安全速度のクソダウナーな気分でカーブを曲がった。
「あれ、ない」
鳩の死骸が無くなっていた。
影も形も無い。
「異世界転移しやがった」
もしここに留まっていれば一緒に異世界に行けたかもしれない。
少し悔やんで、それを馬鹿らしいと笑った。
鳩は異世界に行き、魔王城を目指すだろう。
俺はクソ現実で、つまらない学校を目指す。
「じゃあな、頑張れよ」
めっちゃ欝な気分で力任せにペダルを漕いだ。
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