第88話 あったまにきた!
刀剣を上段に構えて、ベリアルに突っ込む。
「――ァァァアッ!!」
全力で振り下ろす。
手応えは――硬い。
くそっ、やっぱりエクストラ以上か。
気づいたベリアルが、足に力を込めた。
このモーションはッ!
慌てずバックステップ――からのサイドステップ。
足裏での踏みつけ攻撃が二回。
激しい地響き。
空気の振動が頬を震わせる。
立ち止まらずに、無防備な足を切りつける。
そこでやっと、ベリアルが俺を見た。
「鬱陶しいハエめ。――〝墜ちろ〟」
「断る!」
ベリアルの口から放たれた呪詛を、流れるように回避。
再び足を切りつける。
うむ、良い感じだ。
プロデニをプレイしてたのはもう七年前。
記憶は少しずつ薄れてきてるけど、体はすべての動きを覚えてる!
人間の五倍はあろうかという巨体だが、敏捷はかなりのものだ。
普通の人間じゃまず勝てない。
だがな、僅かな動きから攻撃の種類を見極められる俺にとってはただの案山子。
どんなに素早くても無駄だ無駄ァ!
刀剣で切りつけ、ダーク・フレアで皮膚を焼く。
「こ、こしゃくなッ! 我が力を――」
「はいはい、ファイア・スウォームね」
戦闘中の台詞も大事なヒントだ。
通常のボスで十パターン。ベリアルみたいな四天王クラスだと三十パターン用意されている。
――が、所詮その程度だ。
パターンは有限。
人間は無限。
どちらが勝つかは明らかだ。
だから――、
「さっさと転べ、三下がッ!」
「な――ぐおッ!」
執拗に足を切りつけた効果で、ベリアルが地面に膝を突いた。
待ってました! 念願のクリティカルタイム!
ベリアルは普通に殴るだけじゃ倒せない。
まずは足を攻撃して跪かせて、クリティカルタイムにする。
そうすると、こちらの攻撃がクリティカルで防御を貫通する。
十秒後にはまた立ち上がってクリティカルタイムが終わるが、その間全力でフルボッコ!
これが正しい、ベリアルの倒し方だ。
クリティカルタイムを利用せずに倒すって縛りプレイもあるが、やるつもりはない。
ゲームと違って、実際に人の命がかかってるからな。
膝を折ったベリアルを、ひたすら刀剣で斬りつける。
もちろん黙って斬りつけられるベリアルじゃない。
たかるハエを払うように腕を振るうが、俺にはお見通しだ。
余裕をもって躱しながら、顔とか首を斬る斬る斬る!!
ベリアルの体に、深い傷が増えていく。
――ここで、十秒。
ベリアルが怒りの形相を浮かべて立ち上がる。
即座に距離を取った。
あともう少しダメージを与えたかったが、仕方ない。
攻撃を回避しながら、膝を入念に切りつけて、クリティカルタイム。
じゃんじゃん攻撃してまた離れるを繰り返す。
ハハ。
ハハハハハ!!
俺、あのベリアルと戦ってるんだよな。
しかもリアルで!
ああ、最高に幸せだ……。
ゲームに没頭したことのある奴なら、主人公に自分を投影して妄想を膨らませたことが一度はあるはずだ。
少なくとも、俺はある。
プロデニにはまってから、ほとんど毎日のように、俺が勇者だったらって妄想(ゆめ)を見た。
その妄想がいま、叶ってる。
俺は勇者じゃなくてエルヴィンになったけど、魔王軍の四天王と戦ってる。
ゲーム廃人として、こんな幸福はない。
俺は幸せをかみしめながら、一切手を緩めることなくベリアルの体力を削っていく。
四度目のクリティカルタイムに入る。
ベリアルの反応が鈍い。
そろそろ終わりが近いのか。
ここまで、30分くらいか?
俺の攻撃、想定以上にベリアルのHP削ってんだなぁ。
たぶん聖女の加護とバフてんこ盛りのおかげだ。
「討たれる相手が勇者じゃなくて悪かったな」
魔王軍からすると勇者以外は一般人だろうし、ただの人に殺されるなんて最悪の死に方だろうな。
『アイツは四天王の恥さらしよ』とか言われたりするんだろうか。
どうでもいいや。
さっさと終わらせよう。
刀剣に力を込めて、上段に構えた。
――その時だった。
突如ベリアルの巨体が、脳天から真っ二つになった。
体が左右に分かれて地面に倒れ込む。
その向こう側に、刀を構えた美少女がいた。
「見ぃ付けた♪」
ボスが一撃で倒されたことで広がる静寂。
時間を止めたかのような戦場に、彼女の声はよく響いた。
毒々しいオーラを身に纏わせたトモエが、真っ赤なルージュを引いた唇をつり上げる。
かなり必死に追ってきたのだろう、髪は乱れ、衣服だって泥で汚れてる。
だがその瞳の輝きは、以前にも増して貪欲な光をたたえている。
「邪魔者はいなくなったのだ。さあ、吾と死合おうではない――ガフッ!!」
気づくと俺はトモエの顔面を全力でぶん殴っていた。
ふっざけんなッ!!
何が死合おうだよ!
ベリアルは俺の獲物だったんだぞ!?
それを横取りしやがって、クソがッ!!
前回もそうだった。
ファンケルベルク城の地下ダンジョンで、鬼人のボスと戦った時だ。
あと少しで倒せる感じになってたのに、いきなり頭が爆発して戦闘が終わった。
あのときは、横やりを入れた下手人がいなかったから、現実を受け入れるしかなかったけど、めちゃくちゃ消化不良になった。
そして今回もそうだ。
せっかく熱が入って戦ってたのに、横から
ゲームプレイ中にかーちゃんがゲーム機の電源引っこ抜いた時くらい、今、俺は、猛烈に頭にきてる!
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