第43話 秘蔵のドリンク(パワー)
ファンケルベルク邸で荷物をピックアップした後、すぐに首都外壁出入り口に向かったのだが、
「よぉ、遅かったじゃねぇか」
殺意満々のアベルがいた。
うん、知ってた。
勇者が立ちはだかることは、予想出来ていた。
というか、たぶんこのシナリオは奴を攻略しないと先に進めない。
たとえ俺が荷物を取りに帰らなくても、どこかで足止めを食らって、結果こうなっていたんだろ。
――そう仕組まれているんだ。
メタっぽくいえば、シナリオの強制力。
少しキザっぽくいえば、運命ってやつだ。
「ようやくだ。ようやく、心置きなく貴様をぶち殺せる!」
縛りプレイなんてしてたっけお前?
常に全力でぶちのめされてたと思うんだが……。
「くっくっく。怯えて声も出ないか」
「いや……」
「泣いて赦しを乞うか? だが、そうしたところで許すつもりはない。よくも、このオレ様にさんざん恥をかかせてくれたな! 貴様が裏から手を回し、飲食店からオレを閉め出したせいで、王都に来てからまともな食事にもありつけてない!」
いやだからそれは俺のせいじゃないと何度言えば……。
「貴様さえいなければ、すべてが上手くいってたはずなのに……すべて、貴様のせいで……ッ!!」
おうおう、荒ぶってんな。
ここまで自信満々なのは、なにか秘策があるからか?
でも、イージーモードで他になにかあったっけかなあ……。
俺と勇者には実力差がありすぎる。
この差を埋められるほどのアイテムなんて、原作にはなかったはずだ。
ってか、なんかブツブツ言ってる勇者怖ぇよ……。
目とか、マジ逝っちゃってて夢に出そうだ。
「そろそろ終わりにしようじゃないかエルヴィン」
「お、おう」
「さあ、来いジョーカー! 最強の暗殺者たちよ!」
「――ッ!?」
そういえば、一度だけその名前が本編に登場したことがあるな……。
たしかジョーカーは聖皇国から派遣された勇者を、裏からサポートする役割を持っている実力集団の名前だ。
魔王が活性化する中盤以降に、ちょろっと名前が出て来たきりだったような?
てっきり物語のフレーバーだと思ってスルーしてたが、実在するんだな。
一体、どんな猛者なんだ……。
警戒しながら待つが、誰一人現われない。
この通りは、普段は人で賑わっているが今は、俺と勇者しかいない。
ファンケルベルクの使用人か憲兵かが、人払いをしたのか。
一般人がいても怪我するかもしれないしな。
ところで、
「……その、ジョーカーとやらはいつ姿を現すのだ?」
「ッ! お、おいキング、クイーン、ジャック! 居るなら早く出てこい!!」
「…………」
「…………」
やはり、出てこない。
すると勇者が少しずつそわそわし始めた。
あー、こいつ自信満々だったのは助っ人がいたからか。
なんか大見得切ったのに、頼みの綱の助っ人が呼んでも現われないとか……すこぶる哀れな奴だな。
「貴様ぁぁぁ! ジョーカーをまとめて消したのか!?」
「知らん!」
何でもかんでも他人のせいにするなよ。
嫌われるぞ?
あっ、もう手遅れか。
「完全に秘密裏に動いていたはず……。一体、どうやって消したんだ!?」
「全く身に覚えがない。そもそもキング、クイーン、ジャックという者の名前は、今初めて認知した。そしてお前と通じていることも初耳だ。そんな俺が、どうやって消したというのだ」
「言い訳をするなッ!!」
お前は俺のオカンか。
「どうしてこんなことしたの?」って理由を聞いておきながら、こちらの事情を説明したら「言い訳をするな」ってキレられるの、マジ理不尽。
「くそっ、こうなったら奥の手を使うしかないか……ッ」
「……」
お前、ほんと奥の手が好きだな。
いいぞ、使え使え。
今のお前がどんなネタを持っているのか気になる。
プロデニガチオタクの俺にとって未知は垂涎。
もし知らないアイテムだったら、穏便に拳で語りあって譲って貰おう。
勇者がポケットから取り出したのは、栄養ドリンクのような瓶。
あー、なんだそれか。
一気に熱が冷めた。
キャップを外してドリンクを飲み干した勇者が、再び歪に笑った。
「くっくっく。これで貴様にはもう勝ち目はないッ! これはオレの能力を百パーセント底上げする、世界に一つしかない神話級アイテムだ!」
うん、知ってた。
だってそれ、イージーモード専用アイテムだからな。
イージーはレベルが50までしか上がらないから、ラスボス戦が結構キツくなる。
最後の戦いに使うと初心者でも無理なくクリア出来ますよっていう目的で実装されたアイテムだ。
効果時間は戦闘1回分。
使い切りタイプのアイテムだ。
たしか、ラスボス戦でしか使えないはずだったが、リアルだと普通に使えるのか。
しかしこいつ、魔王討伐はどうするつもりなんだ?
使用目的間違ってるぞ、勇者よ。
「お前を殺して、元のルートに戻って、ハーレムエンドで、オレは国王になるんだ……ッ」
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