第37話 シナリオに合流しないと!

「あのエルヴィンがやったんだ! 奴は聖女を監禁している! 今すぐ奴の屋敷を立ち入り検査するべきだ!」

「ふむ、して……証拠は?」

「この予言の勇者の言葉を疑うのか!?」

「……そうか。しばし待たれよ」

「……あ、ああ」


 先ほどならば、ここににる皆が勇者の感情に同調していた。

 だが今は、打ってもまるで響いていない。


 無意識に左手首にある腕輪を撫でる。

 その時だった。

 綺麗な黄金色をしていたその腕輪が、あろうことかボロボロと崩れ落ちていくではないか!


「――なッ!?」


 これまできらびやかだった黄金が失われ、砂のようになってしまった。

 この腕輪は、イージーモード限定の、お助けアイテムだ。

 三ヶ月は効果が持続するはずで、今壊れるのは絶対におかしい。


 崩れ落ちた腕輪を、呆然と見つめている中、宰相と将軍が動いた。

 彼らは王の前で膝をつき、頭を垂れた。


「陛下、どうやら我々はとんだ間違いを犯していた様子。大変申し訳ありませんでした」

「もし収まらぬのでしたら、どうぞ我が首をお召ください」


 それとほぼ同時に、周りの貴族や近衛たちも、二人と同様に頭を垂れているではないか。


「な、なんだこれは……」


 自分はいったいなにを見せられているんだ?

 シナリオにまったくない展開に、頭が真っ白になる。

 そんな中、王が厳かに口を開く。


「よい、過ぎたことだ。それよりも、だ――」


 瞬間、初めて王から威厳が放たれた。

 強い威圧感に、アベルの体がビリビリ震える。


「いかに聖皇国の特使であろうと、我が国の政をかき乱し、ファンケルベルク公爵家に偽りの憎悪を向け、内乱を誘発するよう仕向けるなぞ言語道断。宰相、内乱罪はどのような処罰であったか」

「もれなく死刑でございます」

「ま、待ってくれ!」


 明らかにおかしい。

 何故、自分が糾弾される側になっているのか?

 プロデニの中にだってこの展開はなかった。

 こんなもの、認められるか!


「何故オレが内乱罪になんて問われなきゃいけないんだ! 勘違いも甚だしいぞ!!」

「宰相。国王への不敬罪はどうだったか」

「もれなく死刑でございます」

「――だ、そうだ」

「そ、そんな……」

「他になにか言うことはあるか? 予言の勇者よ」

「ま、待ってく……ださい。オレの、話を聞いてくれ……ください」

「聞いた上での判断だ」

「いや、でもちゃんと話せば――」

「くどい!」


 ガンッ!

 将軍が手にした鉄杓を床にたたきつけた。


「この愚物め! 己がまだなにをしでかしたのかわかっておらんのか!! 我々将軍、宰相以下貴族と近衛を含め、全員に暗示をかけ、思考を誘導。我が国きっての大貴族ファンケルベルク公を、濡れ衣にて処刑しようと画策したのだぞ!」

「な、なぜ……それを……」

「わからぬから、愚物と言っておるのだ! おい、連れていけ」

「ま、待て。待てって……言ってるだろおおお!!」


 思い通りにいかない腹立たしさに、もはや我慢の限界だった。

 アベルは叫び声を上げ、魔法を発動。

 ――フラッシュ。


 目がくらむ閃光が放たれた、その隙にアベルは割れた窓から脱出した。


「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!」


 この国に来てからクソなことばかりだ。

 使えない聖女、屈しない悪役貴族、入ることも出来ないレストラン。

 しまいには、こちらの話をちっとも聞かない国王とその重鎮。


 すべてが総じて、クソだ。

 何故こんなにも思うとおりにいかないのか、わからない。


「オレは勇者だ。ゲームの主人公だぞ! どうしてシナリオ通りに進めさせてくれねぇんだよ!! みんな、シナリオを無視しやがってッ!!」


 なんでこうなったんだ。

 考えると、脳裏に一人の青年の顔が思い浮かんだ。


「……そうか。エルヴィンだ。みんな、エルヴィンに操られてるんだ。アイツが全部悪いんだッ!」


 ならば、排除しよう。

 あいつさえいなければ、すべてがうまくいく。


 最後の切り札を使うのはシナリオから外れるからずっとためらっていた。だが、この際関係ない。

 シナリオを元に戻すために、教皇から与えられた戦力を利用する。


 それを使って、エルヴィンを亡き者にして、元のシナリオに合流するんだ。


「ハーッハッハッハ! 待ってやがれエルヴィン。いますぐその首跳ねて、串刺しにして、野ざらしにして、体は細かく刻んで犬の餌にしてやるッ!!」

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