第36話 全部あいつのせいだ!

 これ以上の茶番はさすがに飽きる。

 さて、そろそろ終幕といこうか。


「貴様、御前であるぞ!」

「控えよ犯罪者!!」

「黙れ」


 俺は威圧を少しだけ解放する。

 すると、宰相が怯えたように声を詰まらせた。

 将軍は、さすがというべきか少し耐えた。でも顔が青いな。


 大丈夫か? この程度でびびってたら国を守れないぞ。


「やってもいないことを、やったと決めつけられるのは不愉快。帰らせていただく」

「さ――させるかッ!!」


 将軍が叫ぶと同時に、近衛が俺を取り囲んだ。

 うん、まあこうなるよね。


 ちょっとだけ暴れていい?

 視線だけで王に許可を取る。


 返答はないものと思っていたが、少し……僅かに王の瞳に光が灯った。

 それも、俺も大好きな――悪戯っぽい光が。


 次の瞬間、王が立ち上がり叫んだ。


「この無礼者! 勇者が証言しておるのに、聖女を殺害したと一向に認めようとせぬ恥知らずめ!」


 おい待てジジィ!

 なんで俺が聖女を殺したことになってんだよ!

 勇者が言ってたのは『拐かした』だ。

 殺害したなんて言ってねぇ!


 てか、もう少しマシな演技しろよ……。


「貴様のような悪の貴族は、余が自ら成敗してくれるー!」


 次の瞬間、謁見の間に魔力が荒れ狂った。

 うげっ、このジジィすげぇ魔力だな。


 魔力を練り上げ、王が魔法を放つ。

 風魔法が俺に向かい、途中で不自然にカーブ。

 周りにいた近衛を巻き込み、吹き飛ばした。


 吹き飛ばされた近衛が、貴族たちを巻き込み転がる。


 あちゃぁ……。


「テ……抵抗するデナイ」


 おい棒読み!

 それになに『あっ、やり過ぎた』みたいな顔してんだよ!

 ちゃんと最後まで演じきれよ!


 しゃーない。

 完全に予定外だが、せっかくお膳立てしてくれたんだ。

 ここは王様の悪巧みに合流させてもらおう。


「……くっくっく。バレてしまってはしょうがない。陛下がおっしゃる通り、ファンケルベルクは悪の貴族だ。しかし今ここで捕まるわけにはいかぬ。サラバダ!」


 俺は軽く王とアイコンタクトを躱す。


(おい小僧。お前、アドリブド下手くそだな!)

(ほっとけ!)


 うん、このじいさんとは仲良くなれそうだ。

 窓ガラスに向かって走る。


「待つノジャー」


 後ろから棒読みが聞こえ、風が背中にぶつかる。

 その余波で、窓ガラスが綺麗に割れた。


 おっ、ナイスアシスト!

 そのまま風魔法に乗って、窓の外へ。


 お礼とばかりに、ポケットから丸薬を取り出し、ダーク・フレアで着火。

 謁見の間に投げ入れる。

 一瞬にして火が回った丸薬から、大量のスモークが噴出した。


 これでよし、と。

 あとは逃げるだけだ。


 落下?

 問題ない。

 ここは1階だからな。


 地面を蹴って城門へ。

 そのまま飛び上がり、城の外へ逃げ延びた。




          ○




 窓から脱出したエルヴィンを見て、勇者アベルは発狂しそうになった。


 何故だ!

 エルヴィンは今日、ここで処刑を言い渡されて首を跳ねられるはずだ。

 そういう運命シナリオだったはずだ!


 なのに、何故逃げおおせられたんだ?


「ああ、そうか。原作より近衛が無能だったのか」


 理由はわからないが、プロデニではエルヴィンは逃亡出来なかった。

 なのに今回逃亡したということは、近衛がしっかり抑えられなかったからに決まっている。


 内心歯ぎしりをしながら、アベルは次の一手を考える。

 現状、すっかり原作からはずれてしまったため、なにをやって良いかわからない。


「なんとしてでも奴を連れ戻して、本当のシナリオに合流させるしか……」


 考え事をしていると、目の前の煙が少しずつ晴れてきた。

 この煙は逃亡のために使った煙幕だろう。元々こういうものを準備しているのか? 育ちの悪い奴だ。


 煙が完全に晴れると、これまで地面に横たわっていた貴族や近衛兵、宰相は将軍までもが一度、ぴたりと動きを止めた。


「……ん?」


 それは、奇妙な変化だった。

 だが十秒経った頃、全員の目が一斉にアベルに向いた。


「――ッ!?」


 ゾゾゾッ。

 まるでホラーゲームでもプレイしているような怖気が走る。


「おほん。そこの予言の勇者よ、前に出よ」

「あ、ああ」


 宰相に呼ばれ、わけもわからず謁見の間の中心まで歩み出た。


「して、先ほどの話は誠か?」

「先ほどの話、というと」

「聖女が拐かされたというものだ」

「ああ、間違いない。もう何日も姿を見てないからな」

「ふむ」


 おかしいな。

 不審に眉根を寄せる。


 当然のことながら、エルヴィンは聖女を拐かしていない。

 なぜならば、聖女は今アベルが借り上げている家の、地下室に閉じ込めているからだ。


 それもこれも、聖女が悪い。

 クラスメイトを操り、エルヴィンに嫌がらせをしていた時、あろうことか聖女は奴の肩を持とうとしたのだ!


 アベルは、己がやりたいことを邪魔されるのが一番嫌いだ。

 故に、自分の道を邪魔だてする聖女を監禁した。


(オレの言うことだけを聞いていればいいってのに。よりにもよってあのエルヴィンにケツを振りやがって。どんだけチョロインだよ!)


 おまけに、物語終盤で貰えるはずの力をくれといっても渡さないの一点張り。

 あれさえあればエルヴィンをぼっこぼこにしてやれるのに!


 ……しかし、まさかこちらの行動がバレたわけではないだろうな?

 そんな不安をかき消すように、アベルは大声で叫ぶ。


「あのエルヴィンがやったんだ! 奴は聖女を監禁している! 今すぐ奴の屋敷を立ち入り検査するべきだ!」

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