第34話 アドバンテージ喪失

「…………欲しいな」


 すっげぇほしい。

 これ持ち帰っちゃだめかな?


 表を見て、裏を見て、奥付を見る。

 うん、貸し出しカードは入ってないな。


 そりゃそうか。

 これ、元々魔塔のものらしいしな。


 ……駄目元で持ち出してみるか。


 魔法書を抱え、何気ない顔をして図書室を出て行く。


「…………」


 司書は……追ってこない。

 よっしゃ、成功だ!


 闇魔法は、あの影くらいしかまともに使えなかったから、渡りに船だ。

 これで使える魔法の種類が増やせる。


 俺はウキウキで教室に戻る。


「あら、エルヴィン。その本はどうしたの?」

「ちょっとな」


 机をガードしてくれてたラウラに礼を言い、椅子に座る。

 そこで、改めてじっくり本を読む。


 どれもこれも、ユニークな魔法ばかりだ。

 すぐに試してみたいが、事件になるのでぐっと堪える。


 あっ、でも授業中でも使えそうなやつがあるな。


 試しに、こっそりと魔法をくみ上げる。


「アナライズ」


 呪文ワードと同時に魔法が発動。

 目の前に、いくつもの窓が浮かび上がる。


 うげっ。

 これめちゃくちゃ見づらいな。


 でも初めて使うから、こんなもんか。

 練習すれば、見たいものだけ見られるようになるはずだ。


 少しずつ魔力を絞って、目の前の窓を消していく。

 その中に――、


『カーレ・イスラ(16)

 状態:魅了』


 学友に、あり得ないバッドステータスがついてる。

 これはこれは……穏やかじゃないなあ。


 しかしなるほど。

 これでやっと、クラスに起った異変が理解出来た。

 犯人は……考えるまでもないな。


 ちらりと勇者を盗み見る。

 その腕に、見覚えのある腕輪を発見した。


 あれが原因だな。

 でもなんでアイツが装備してんだ?


 勇者が填めてる腕輪は、『魅惑のブレスレット』って装備で、周りの好感度を底上げする能力が付与されている。

 無論、そのような強いアイテムを無条件に使用し続けられるものではない。


 一度使うと12週――3ヶ月後に破損する。

 期間限定の好感度ブースターである。


 問題なのは、これを勇者が持っていることじゃない。

 本来イージーモードでしか手に入らないアイテムが、何故この世に存在しているのか? ということだ。


 俺が転移したこの世界が、そもそもイージーモードなら別なんだがな。

 ステータスに『EXTRAの覇者』ってあるから、てっきりエクストラモードなのかと思ってたんだが……。


 自分の今のモードがどれなのか、レベルで調べられる。

 イージーモードで50。ノーマルで70。ハードで99と、それぞれのモードでレベルに上限が定められている。


 現在俺のレベルは51だから、ノーマル以上は確定してるな。


 っていうことは、イージーモード限定アイテムがあるのは、おかしい。


「……そういえば」


 なにか、おかしな台詞を聞いた覚えがあるな。

 なんだったっけ……。

 思い出せ。

 あれは、聞き流しちゃいけない、すごい大事な台詞だったはずだ!


 ぐるぐると、頭の中を記憶が巡る。

 その中に――あった!

 勇者と初めて出会ったシーン。


 ラウラをじろじろ見た後、勇者が吐き捨てた台詞があった。

 それを、俺は聞き違いかと思ってさらっと流した。


 でも、もしあれが聞き違いじゃなかったら――。


『いいな。でも〝攻略ルートは〟ないんだろ? つまんねぇの』


 あいつ、攻略ルートって言いやがった!

 そしてあのイージーモードの腕輪。


 間違いない。

 こいつも、転移者だ。

 それも、イージーモードだ!


『シナリオ理解度が2%増えました――55%』


 心臓が、バクバクいってる。

 すぐそこに殺人鬼がいる状態で、誰が犯人か気づいたMOBキャラみたいな気分だ。


 いや、でも良かった。

 俺がプレイしてきた勇者は、外から見てもあんなねじ曲がった性格じゃなかったんだ!

 あれは転生者の性格がねじ曲がってただけなんだ。

 あーよかった!

 これがわかっただけでも、かなり救われる。


 ではさて、対策を考えないとだな。

 俺はこれまで、勇者はシナリオに縛られてると思ってた。

 だが、勇者が同じ転移者だということがわかった今、原作を知っているというアドバンテージが薄れた。


 奴もシナリオを離脱して、予想外の行動を起こす可能性がある。

 ――いや、それを利用出来るか?


 もう時間がないから、危険な賭になる。

 だが、うまくはまった場合の勝率はかなり上がる。

 ……やってみる価値はありそうだな。

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