第11話 きょうりのせいじょ(幼)

 ブロンズの髪に、白いドレス。

 どこからどう見ても、プロデニに登場するヒロインの一人、聖女ニーナだった。


 悪役の俺とは真逆の存在。

 いま彼女は『奇跡を振りまく郷里きょうりの聖女』として話題沸騰中の存在だ。


 まさかこんなところで出くわすなんて……。


 本編だと高等部で顔を合わせてから、すぐに敵対関係に入る。

 勇者と一緒に悪役貴族と令嬢を処刑台に送る。

 エルヴィンにとっては、因縁の相手だ。


 だが俺にとっては……勇者でプレイしてた頃は恋の相手でもあったわけで……。

 うーん。複雑。


 ニーナのルートはとても簡単だ。

 どんなに破天荒なプレイをしていても、バッドエンドにならない限りは絶対にニーナとくっつくように出来ている。


 恋愛突入用の選択肢も、実質1つしかないしな。

 その結果、プレイヤーからは『ちょろいん』と呼ばれているのだが。


「聖女様ッ!!」


 その時、複数の大人が現われた。

 どうやら教会関係者らしい。

 その大人たちに、連れられていく。


「あっ……名前……」


 いつか俺を処刑台に追い込む女に名前なんて、怖くて明かせねぇよ。

 俺は無言で手を振り別れを告げる。


【シナリオ理解度が1%増えました――52%】


 えっ?

 いきなりポップアップしたから、なにかと思ったら……マジで?

 これ、シナリオの一部なのか。


 余計なことをして、俺の処刑が早まったらどうしようかと思ったけど、杞憂だったみたいだな。

 ほっとすると同時に、少し、ムカムカする。


 あの聖女を助けようとした俺の気持ちが、シナリオに作られたみたいに思えて、なんか嫌だ。

 あれは、シナリオライターが書いた感情じゃない。

 俺の純粋な気持ちだった。


 ……そのはずだ。

 でも、もしそう思うようにシナリオに仕向けられていたなら?


 ……。

 なんか自信なくなってきたな。

 くそっ。


 教会関係者に詰問されたが、起った状況と、俺がファンケルベルクの当主だと告げたら顔を引きつらせた。


 俺、こんなだけど裏側牛耳ってる頭目だもんな。

 そら、びびるよな。


 聴取はすぐに終わり、解放された。


「大将。先ほどはすみませンでした」

「気にするな。俺がやったことだ」

「へい。……にしても先ほどの魔法、お見事でした」

「うむ」

「いつから、魔法が使えるようになったンで?」


 今さっきです、とか言ったらなに言われるかわからない。

 黙っておこう。


「大将はファンケルベルクの当主としての自覚がなさすぎやす。もしあの場で怪我をしたら、どうなさったおつもりですか?」

「……」

「命を落としたら、我々は行き場を失うンですよ……」

「そう、だな」


 そうなのだ。

 俺がいなくなれば、ファンケルベルクの家系が途絶える。

 それだけじゃない。

 これまで強く抑圧してきたぶん、裏社会で反発が盛大に巻き起こる。


 裏社会が一斉に蜂起すれば、多勢に無勢。

 いかにファンケルベルクの使用人たちであろうと、太刀打ち出来ない。

 皆、国を追われるか、つるし上げられて城門に首を晒されるか……。


 俺の背中に、みんなの命が乗っている。

 それを、しばし、忘れていた。


「……」

「……」

「ゆ、ユルゲンはすごいな。一瞬で男を倒してしまって」


 沈黙に耐えきれず、話題を変えた。


 そう、ユルゲンはヤバかった。

 何がヤバイって、男を一瞬で殺してどこかに消してしまった手腕もヤバイが、殺気が一番ヤバイ。


 ファイアボールが直撃する前に感じた、ユルゲンの殺気。

 あれ向けられたら、気の弱い子どもなら死ぬぞ?


「言いたいことは、それだけですか?」

「ぐ……」


 それが今、完全に俺に向けられている。

 ふっ、俺のメンタルは伊達に鋼じゃない。

 これくらいの殺気などそよ風ほども――。


「ぐぬ……す、すまぬ」


 くそっ、こえぇなこのオヤジ!!

 ってかこの体に入って初めて謝罪の言葉が出て来たぞおい!


『言いたいことは、それだけ』って子どもに向けていい言葉じゃねぇぞおい!

 一瞬、マジで死を意識したじゃねぇか。


 ユルゲン、マジですげぇ……。




          ○




 偶然聖女に出くわしたのは驚いたが、おかげで身体強化の魔法を習得出来た。


 実戦に勝る稽古はないとは言うが、やはりこの世界でもそうなんだろうか。

 だとすると、早いところ基礎ステータスを上げて、レベリングに移りたいな。


 実戦で得た感覚を頼りに、再び身体強化を行う。

 一度感覚を掴んだからか、すんなり魔法が行使出来た。


「一度出来てしまうと、あっさり使えるようになるものなんだな」


 これまでの苦労はなんだったんだ?

 ……といっても、魔法の訓練を始めたのは二週間前だけどな。


 そう考えると、エルヴィンってそこそこ魔法の才能あるんじゃないか?

 この世界の平均がどれくらいか知らないが、勇者と同じくらい習得が早い気がする。


 気を取り直して、魔法の訓練を行う。

 原作だと、エルヴィンは闇属性を使っていたから、闇魔法の育成に取りかかる。


 属性魔法の育て方は簡単だ。

 ただひたすらに、自分の魔力を闇に変化させ続ければいい。


 プロデニだと、勇者はひたすらランプに魔力を送って光を灯してたな。

 それと似たことをすればいい。


 しかし闇属性の場合は、さて何を使ったらいいやら……。


 腕を組んで、考える。

 すると、地面にある自分の影が目に入った。


「もしかして、使えるか?」

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