雨の御霊 漆

雨月 史

KAC20245

「とりあえず……この後どうする?」


と柚彦が言った。


とりあえず

それは先の事が決められない、

次の事を考えていない。

状況を取り繕う為の言葉。


なんやかんやといつも私に判断を委ねるズルい男。


「とりあえずゆずはどうしたいの?」

なんとなく意地悪な事を言いたくなって、

そんな事を聞いてみる。


「えー……うーん。そうきたか。」


いや「そうきたか」……やあらへんわ!!

自分に振られる事を予想しとかんかーい!!と思わず心でツッコむ事は忘れない。

まぁーいい。

それもまた彼の可愛いところだ。

仕方がなしに私の意見を伝える。

「とりあえずご飯いこか。」


「……。」


ん?反応がない?

月の光に満たされながら柚彦が何やら深く考え込んでいる。まさか私の心を読まれたのだろうか?


「柚?」


「あ……あーそうだね。ご飯ね。」


そんなわけないか。

優しいと優柔不断は神一重かみひとえだ。柚はなんでも私の意見を尊重してくれる。それは彼の優しさであってそれは彼の自分では決められない優柔不断な一面ともいえる。

時々は自分の意見で私の事を引っ張ってほしい……それは私の我儘わがままだろうか?そう思いながら否定されえない私の意見を述べる。


「せっかく伊勢まで来たんやから、やっぱり牡蠣とか?伊勢海老?海鮮……。」


「いや焼き鳥いこう!!」


え?!そんなアホな。まさか私の意見をくつがえされるなんて……何故?と半信半疑に

私はもう一度私の意見をつげる。


「でもやっぱり地の物が…」


「うん。そうね。三重県といえば伊勢の赤鶏だね。軍鶏しゃもに属する赤鶏でさ、八木戸なんて呼ばれてるのよ。海鮮もいいけど、今日は焼き鳥の気分ね。」



ん?!気分ね?

否定も肯定もせず、やんわりと自分の方はもっていく。そんなんなんか柚じゃない。

だいたいゆずが何故そんな三重県の鶏の事詳しいわけ?そりゃ彼は気になる事はとりあえず、とことん調べるタイプだ。

でもそんなに鶏好きやったやろか?

それに……『気分ね』?って……。

その疑問をこんちゃん話してに同意をもとめようと辺りをみるが見当たらない。

あのいったいどこに行ったんやろ?



「異論はなわね。じゃー行くよ!!」


「え?あ、うん。」


と強引に話を進めていく。

でもそういう柚もなんだか男らしくて悪くない……?いや、そんな事言ったらなんちゃらハラスメントとか言われそうだけど、

少し『キュン』とくる。でも……。


「あのー…あなた誰?」


「やだーバレた?私よわ.た.し!」


「わたしって……柚の顔で言われてもね。」


「あらーついうっかり憑いてた事忘れていたわ。雨照大御神あめてらすおおみのかみよ。」


「あーさっき私の心に不法侵入した、天照大御神あまてらすおおみのかみさんね。」


「ん?」

『ん?』


またもや発語は同じに聞こえるのになんだか違和感?


「まーいいじゃない。私の馴染みの焼き鳥屋さん案内するから憑いて、いや間違えた着いてきなよ。」


何を言い直した?よくわからんが、

とりあえず何となく信頼出来そうやし、

着いていってみる事にしてみる。


そこはカウンターのみの小さな焼き鳥屋さん。大将がは1人で切り盛りしてる。

「へいいらっしゃい。」


「大将まいど。私よ。」


「あー雨のお嬢か。」


「今日はイケメン風できてみました。」


「へい。なかなか男前だね。それでどうする?」


「うん。いつもの。」


「あいよ。」


????????????????????


私の頭の中はこれくらいの?

マークで満たされていた。

神様は酒を飲むの?

ていうか人間の街に繰り出すの?

しかも焼き鳥って?というか常連なん?

仮に常連としても、今日は偶々たまたま柚彦なだけやしなんでわかるの?

いやそれにより雨のお嬢って?



いやいやていうか大将、

あんた神相手に商売してるの?

いったいどう言う事?

何がなんだか…もうわからん??


「あの……。」


「はい??」


「へいお待ち。生2つね。」


「あーありがとう。」


「まー聞きたい事はあるだろうけど、。」


と柚彦(中身は天照大御神)がジョッキを傾けたので、私も傾けてジョッキを当てて乾杯した。


「さー本題よ。」


「はい。」


「まず私、雨照大御神雨あめてらすおおみかみは雨を照らすお天気雨の神なわけ。だから晴れたり雨降ったりね。まーほら人間界でもお天気屋さんていうじゃない?まさのあれ私ね。」


「え??じゃーひょっとして天照じゃなくて雨照ということ?分かりづら……てか、なんやパッチモンみたいやな。」


「美晴ちゃんあんた神相手にパッチモンはないでしょう。」


「あー堪忍。んで続きは?」


「うん。そんなわけで私、雨の神様の雨御中主神あめのみなかぬしちゃんとは仲良しなわけね。んーしかしなんで神の名前ってこんなに長いのかしら。名前長いから今からあまちゃんて言うわね。」


「じぇじぇじぇ!!あまちゃんて(笑)」


「それでね、この間おかげ横丁をフラフラ歩いてたら、なんとそこに雨ちゃんの箱守のしろがねちゃんがいるじゃないの。」


「箱守がおかげ横丁で何をしてたん?」


「うん。赤福を欲しそうにしてた。だからご馳走してあげたら懐いちゃって。そのまま私のとこにいついちゃったのよ。」


「懐くって……猫かいな。あー大将、生おかわり。」


「へい。」


「お、のってきたね。それでここからが本題なんだけどね、私ね一応これでも天気雨の神なのに、雨ちゃんの箱守囲ってしまったもんだから、お天道さんからそっぽむかれてしまったみたいでね。ちーーともお日様に出逢ってないのよ。」


「そっぽ向かれるて、拗ねてんの?」


「やだー美晴ちゃん。そんな本当の事言ったらだめよ(笑)それで美晴ちゃんこれも何かの縁だからさー。」



「え?!円高細工がなんて?」



「そんな事言ってないし。酔ってるの?まーとにかく美晴ちゃん。明日銀しろがねちゃんを雨夫婦の岩戸で待たしておくから、

連れて帰ってくれる!!……って美晴ちゃん??」



「Zzzzzz……」


「いや寝てるんかい……。まーいいか。大将おかわり。」


「へい。」


「とりあえず呑んで天使の休息ー。」


。。。。。


「おーい…美晴?宿に着いたよ。」


「ん?ゆず?」


気がつくと私はタクシーの後部座席でゆずにもたれて眠っていた。柚の反対隣にはこん(普通の人には見えない)が柚にもたれて眠っている。(精霊のくせに。)

今のはまさか夢?でもないか……とりあえず明日は雨夫婦の岩戸に向かおう。



いやそれにしても


「天使じゃないし。神様やし。しかも久松史奈かい。この神様いったいどれだけ90年代好きなんや!!」


「なんの話だよ。」










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雨の御霊 漆 雨月 史 @9490002

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