第5話「最強の兵士軍団を指揮する」

 ──コーヤ視点──



 うぅ……気持ち悪い。

 はじめて馬に乗ったせいで、完全に乗り物酔いだ。くらくらする。


 でも、うずくまってもいられない。

 共犯者きょうはんしゃのアリシアに、だらしないところは見せられない。


 俺はこれから灰狼侯爵領はいろうこうしゃくりょうで暮らすことになる。

 アリシアにも兵士たちにも、信頼できるところを見せないと。


「我が『幻影兵士ファントム・ソルジャー』に命じる!!」


 俺は吐き気をこらえて、叫んだ。


「魔物たちを駆逐くちくせよ!! 侯爵令嬢こうしゃくれいじょうアリシアさまに勝利を捧げるのだ!!」

『『『『ルゥウゥゥララララィィィィィ!!』』』』


 俺の指示に応じて、フードで顔をかくした『不死兵イモータル』改め、『幻影兵士ファントム・ソルジャー』たちは、オーガの群れへと突っ込んでいったのだった。






 数十分前、俺とアリシアは魔物が来たという報告を受けた。

 その後すぐに、俺は屋敷やしきの庭に向かった。


 灰狼侯爵家はいろうこうしゃくけの屋敷の庭には、10体の『不死兵イモータル』がいたからだ。

 俺はアリシアの許可を得て、『不死兵』を『王位継承権』スキルで支配した。


 簡単だった。

 領境りょうきょうにいた『不死兵』にも、一度やってるからな。

 やり方は『不死兵』に触れて、『王位継承権』スキルを発動するだけ。それでマジックアイテムの管理権限を得られた。

 王家が設定していた命令をリセットして、俺の指示に従うようにできたんだ。


『不死兵』が人目につかないところに配置されていたのもよかった。

 というか、屋敷の人たちは『不死兵』のまわりに樹木を植えて、姿が見えないようにしていた。気持ちはわかる。

 アリシアたちを殺すためのゴーレム兵士なんか、視界に入れたくないからな。

 おかげで俺が『不死兵』を支配しているところは見られなかったんだ。


 その後は『不死兵』に、おそろいのローブとフードを着せて、変装させた。

 武器も、槍から剣に持ち替えさせた。


 俺が勝手に『不死兵』を動かしたら問題になるからな。

 別物に化けさせる必要があったんだ。

 アリシアも『これなら大丈夫です』と保証してくれた。


「灰狼領のみんなは『不死兵』が味方になるなんて想像もしていません。武器を替えて、ローブを着てフードを被れば、別のものだと思うはずです」


 ──というのが、アリシアの意見だった。


 そして俺とアリシアは『幻影兵士ファントム・ソルジャー』を連れて、戦場へと急行したのだった。






『『『『ルゥォォォルルルルララァアアアアアイイイイ!!』』』』

『ギィアアアアアアアッ!!』


『幻影兵士』がオーガを取り囲み、その身体に剣を突き立てる。


『幻影兵士』の動きは速い。

 しかもゴーレムだから、なぐられてもびくともしない。オーガの棍棒こんぼうが身体をかすめても、爪で引っかれても気にしない。

 ただひたすら、オーガの身体を切り裂いていく。


「兵士のみなさんは、『幻影兵士』をたてにして戦ってください!」


 俺は兵士たちに向かって叫んだ。

『幻影兵士』はゴーレムだから、めちゃくちゃ固い。

 あいつらを盾にして攻撃すれば、兵士さんたちは安全に戦えるはずだ。



「「「「う……うおおおおおおおっ!!」」」」



 部隊長のダルシャさんや兵士たちが、『幻影兵士』の後ろから剣や槍を突き出す。


 オーガが棍棒を振り回すけど、ダルシャさんたちには届かない。

『幻影兵士』が攻撃を受け流してくれてる。

 オーガの攻撃は力まかせだ。それを『幻影兵士』に受け流されて、やつらは体勢をくずしてる。


 そのすきを、『幻影兵士』と灰狼の兵士たちは見逃さない。

 次々にオーガの身体に武器を突き立て、致命傷ちめいしょうを与えていく。


『ギィアアアアアアッ!!』

『…………グガァ……ァ』

『……ガ、ガハァ』


 全身から血を流したオーガが、地面に倒れる。

 それでも『幻影兵士』の動きは止まらない。

 逃げようとするオーガの退路をふさぎ、足をって移動能力を奪い、胴体に剣を突き立てる。俺の指示通りに、魔物をサクサク倒してくれる。

 本当に強い。アリシアや黒熊領こくゆうりょうの兵士たちが恐れるのもわかるよな……。


「すごい……。これが、異世界のお方の力」


 部隊長のダルシャさんが声をあげる。


「『幻影兵士』の力があれば、この土地を守ることができます!!」

「ありがとうございます! 異世界のお方!!」

灰狼はいろうの兵士は『幻影兵士ファントム・ソルジャー』と一緒に戦います!!」


 灰狼の兵士たちと『幻影兵士』によって、次々にオーガは倒されていく。

 残りはあと1体。

 ……よし。俺もマジックアイテムの実験をしよう。

『幻影兵士』の後ろにいるようにすれば、安全にオーガに近づけるはずだ。



『『『ウルゥゥゥゥオオオオオオオオァ!!』』』



『幻影兵士』は最後のオーガを取り囲んで、その足を切り刻んでる。

 俺は近くにいる『幻影兵士』にアイテムを渡して、指示を出す。手は『幻影兵士』に触れたまま。『幻影兵士』を通して、アイテムに魔力を流し続けてる。


灰狼侯爵領はいろうこうしゃくりょうに踏み込んだ敵に、ばつを与える」


 俺はそう言って、『幻影兵士』の背中を叩いた。


「楽には殺さない。我が怒りの炎を受けよ!」

『ルゥゥゥララララィイイイイイイ!!』


『幻影兵士』が手にしていたアイテムを、オーガの足首に近づける。



 かちゃん。



 輪が閉じて、オーガの足に、『首輪』が装着そうちゃくされた。



 これは実験だ。

『幻影兵士』を通して別のマジックアイテムがコントロールできるか、試してみた。

 俺の魔力に反応して『首輪』が閉じたってことは、成功したみたいだ。


 ちなみに俺は今、首にスカーフを巻いている。

『首輪』をつけていないことがばれないようにするためだ。


 オーガにつけた『首輪』は『コーヤ=アヤガキや灰狼に敵対した者を焼く』設定にしてある。

 さて、この状態でオーガを挑発してみると──どうなる?


「終わりだ。今すぐ死ね。邪悪な魔物よ!」


 俺は『幻影兵士』の後ろで、オーガに向かって叫んだ。


「自分の力量もわきまえないとは、おろかな生き物だ。貴様には生きる価値もない。とっとと死ね。棍棒で自分の頭を潰してしまえ!」

『……グ、グゥアアアアアアアア!!』


 言葉が通じたのか、なんとなく見下されてるのがわかったのか……オーガが、キレた。怒りのこもった目で、俺をにらみつける。巨大な棍棒を振り上げ、叫ぶ。

 そして、次の瞬間──



 シュボッ。



 オーガの身体を、青い火炎が取り囲んだ。

 俺は即座に後退。灰狼の兵士たちと『幻影兵士』に、さがるように指示を出す。


 直後、『首輪』が生み出す炎が、巨大化した。



『ギィアアアアアアアアアアアア!!』



 オーガの身体すべてが、青い火炎に包まれる。

 えぐい効果だった。

 火炎は問答無用でオーガの巨体を灼き尽くしていく。地面を転がっても消えない。



「これが、コーヤさまの魔法です!!」



 アリシアが、打ち合わせ通りのセリフを口にした。

 

「コーヤさまが灰狼にいらしてから覚醒かくせいされた炎の魔法は、すべてを焼き尽くしてしまうのです」


 ──そういうことにしておいた。


 灰狼の人たちは誰も『首輪』が発動したところを見たことがない。

 火炎魔法ということで通ると思うんだけど──。



「──すごい。これほどの威力いりょくの火炎を……」

「──オーガがあっという間に黒焦くろこげに」

「──これほどの魔法を使いこなすとは……これが異世界人の能力か」



 ……納得してくれたみたいだ。よかった。


 やがて、オーガの身体が燃え尽きていく。

 後に残ったのは銀色の『首輪』だけだ。俺はそれを拾い上げて、スーツのポケットに入れた。

 それから、俺はアリシアの方を向いて、


「魔物は討伐とうばつしました。アリシアさま」

『『『『ルルァラララィィィ!!』』』』


 俺と『幻影兵士』は、深々と頭を下げた。


「灰狼の皆さんにもごあいさつします。俺は、異世界人のコーヤ=アヤガキです。これからお世話になります。どうか、よろしくお願いします」

「は、はい。アヤガキさま」


 ひざまずいたのは、部隊長のダルシャさんだった。

 まわりの兵士たちも俺の前で、一斉にひざをつく。


「あぶないところをお助けいただき、ありがとうございました。この恩は忘れません。我々はコーヤ=アヤガキさまを歓迎いたします」

「「「ありがとうございました!!」」」


 こうして俺は、灰狼の人々に歓迎されることになったのだった。



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 次回、第6話は、明日の夕方6時くらいに更新する予定です。


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