第26話 体育祭のジンクス
その日、ふーちゃんとは夜の七時半までずっと喋り倒した。
本当はもっと長く話していたかったけれど、風斗さんとうちの父親が同時にやってきたので、仕方なく解散。俺は父さんの車に乗って、家に帰った。
この日を境に何か特別な変化があったかと問われたら、俺は『無い』答えるだろう。
変化はあった――けれど、特別な変化ではない。ゆったりとした、毎日変化し続けているような何かが、その日も変わらずに変化しただけに過ぎない。
俺としては、それがいい変化だと信じている。俺にとっても、そして願わくば、ふーちゃんにとっても。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「じゃあ新田さんと邁原くんは体育祭の実行委員に立候補するんですね?」
昼休み、定番になりつつあるメンバーで昼食をとっていると、そんな話題になった。
もうそろそろ、先生がHRの時間を使って決めようとしてくる時期だもんなぁ。
我が栄文高校では、一年ごとに文化祭と体育祭が交互に行われる。そして、今年は体育祭の年だった。つまり俺たち二年生にとっては、中学以来の体育祭ということになる。
「実行委員ってあまり人気ないからね~、うちらとしてはやってくれたらありがたいかな」
千田が気だるげに言うと、雪花も「そうですね」と同意の言葉を口にする。
まぁ今回、ふーちゃんは朝にランニングをやったりしてやる気をみなぎらせているけれど、だいたいの人は千田みたいな感じなんだろうな。
ノルマをこなすように、適当に行事を終わらせようとする人が大半だろうと思う。
だけど俺としては、楽しく盛り上がる体育祭にしたいのだ。だって、ふーちゃんが実行委員をするのだから。
いや、もちろんクラスの誰かが『優勝するぞーっ!』とやる気を見せていたら、協力することはするんだけど。ふーちゃんが実行委員をするときとやる気は一緒じゃないだろう。
あと一応、俺も実行委員をするわけだし。
そんなことを考えてから、和斗と誠二に視線を向けつつ「お前らも運動部らしい成果だせよ」と言うと、明日誕生日を迎えるやつは「はいはい」と返事をして、イケメン彼女もちのほうはニヤリと笑う。
「なんだよその笑顔」
和斗は笑みを浮かべたまま俺からふーちゃんに視線を移し、そして俺をまた見る。
それから「こんな話をしってるかい?」と前置きをしてから、話を始めた。
「実は二年前と四年前、体育祭で総合優勝したクラスの実行委員の男女が付き合ったらしいんだよね。一部の人たちは『もしかしたら今年も』って考えているらしいよ」
……ほほう。それは初耳だ。
「あー、それ私も三年の先輩から聞いたなぁ。今年の三年は、一年の時にカップルが成立してるから、わりと実行委員が人気だったりするらしいよ」
どうやら千田も知っていることらしい。結構有名な話なのだろうか。
だとすれば、俺は死に物狂いでふーちゃんと実行委員をやりたいのだけど、もしかしたら他にもやりたい奴がいる可能性もあるな……。それは困る。
いや待て、そもそもふーちゃんがこの事実を知ったら、実行委員をやりたくないと思ってしまうのかもしれない。そう思いながら隣の席に目を向けると、
「へ、へぇ~、ソウナンダネ~」
ふーちゃんは激しく目を泳がせていた。絶対知ってたじゃん、誤魔化してるじゃん。
え? もしかしてふーちゃん、その噂を知った上で俺と一緒に実行委員をやろうとしてくれてたの? いやでも、ふーちゃんは前に実行委員に関して『人生で一度くらいやってみたい』と言っていた。俺の感覚上、あれは本心だったはずだ。
だとすればこの反応は……なんだろう?
「俺は気にしないけど、ふーちゃんは大丈夫?」
「う、うん、大丈夫だよ。なんかごめんね」
こそこそと二人でそんな会話をする。
ふーちゃんが謝ることはないだろうに。本当に付き合えたら俺は最高にハッピーなのだから。俺とふーちゃん以外の四人は、どうやら三年生のカップルについて話をしているようなので、こちらはこちらで会話をすることに。
「謝らなくていいよ。これは、俺も本気で頑張らなくちゃなぁ――あぁ、もともと百二十パーセントで頑張るつもりだったよ? 三百パーセントぐらいださないとなぁって」
「も、もぉ~、それ、絶対ジンクスを聞いたからだよね?」
ふーちゃんは顔を赤くしながらも、そんな質問をする。
「ふーちゃんも俺のことがよくわかってきたじゃないか。その通りだ」
「えへへ……ジンクスとは関係ないけど、私も優勝目指して頑張るね! ジンクスとは関係ないんだよ? 本当だよ?」
「……そこまで念入りに言われると――」
「あぅ、ご、ごめんなさい。別に、邁原くんが嫌ってわけじゃ――」
「――なんだか必死に誤魔化しているようで最高に可愛い」
本当に最高だよ。というか、もうふーちゃんは呼吸しているだけで可愛い。どうしてこんなにふーちゃんは可愛いのだろう。顔か? 仕草か? それとも彼女の構成する要素すべてが上手く噛み合っているからなのか?
「――っ!? ちがっ、違うからぁ!」
「うぇ!? き、急にどうしたんだ新田さん、大声なんか出して」
ふーちゃんの叫び声に誠二が反応する。いや、誠二だけじゃなく、他の三人も目を丸くしてこちらを――いや、千田だけはニヤニヤしているな。
「仲良しだねぇ~」
そんな風に言う千田に、「まぁな」とドヤ顔で返事をしておく。ちなみに、ふーちゃんは恥ずかしそうに顔をうつむかせて縮こまっていた。
彼女が平常心を取り戻すように、別の話題に移るとしようか。
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