歌姫Ⅱ

 自分がおかしくなっていることなど、当然自覚している。

 だからといって、今更自分を止めることもできなかった。気が付けば引き返せないところまで来ていた。

 もはや、偽善という建前すら、私は失っている。

 世界中の女から体のパーツを盗み取って、ロザリアのために世界で最も美しい体を作り上げる。

 それは、もはやロザリアの願いではない。

 豊かな者から奪い、貧しきものへ恵みを与える。

 スノウ=ホワイトの気高き復讐は、すっかり私の欲望で穢れきっていた。

「……」

 拍手が、いまだにカーテンの向こうから響いている。

 床に倒れ伏したまま、私は手足を打ち抜かれた激痛で朦朧としていた。

 不思議と、怒りも憎悪も湧いてこない。

 私は、ただ誰かに断罪してほしかっただけなのかもしれなかった。

 消え行く意識の中、拍手は土砂降りの雨のような音に変わっていった。

 ぬるい悪夢から覚める時だ。

 冷たい雨に打たれるのを想像しながら、私は意識を手放した。

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