エルヴァドス王国、第一王女シャーリー【1068文字】
三日月未来
エルヴァドス王国、第一王女シャーリー
とりあえずだと思った時、心の箍が外れて少女は、軽くなった気がした。
心の中に知らず知らずに溜め込んだ心の汚れが身体の一部になっていた。
だが少女は、心に潜むモンスターに気付いていない。
誰かが、心を解放すればと綺麗ごとを並べてみても少女には簡単じゃなかった。
世の中には、様々な考え方があって、知らず知らずに信じている。
信じている者が見る景色と、信じない者が見る景色の色はまるで違う。
少女も例外に漏れず自分の心の声に耳を傾けていた。
「違うよ、それ違うよ」
少女の中で、別の少女が声を上げる。
「あなた、誰なの」
「私は、あなたの意識よ」
少女は、その声に驚いて、目を閉じて自問自答を繰り返した。
「私、きっと疲れているんだわ。そうよね」
声がまた聞こえた。
「だから、それが違うのよ」
「・・・・・・」
目に見える景色も、あとで見ると結構、見落としがあるものだ。
そんな些細なことの積み重ねの中で、心の中に棲みついたモンスターが貪るように少女の無意識を変えて行った。
やがて、少女の表情が変わり、別人のようになった。
信じることと、否定することの狭間で少女は、女子校の正門に入って行った。
通い慣れた学校の下駄箱前を通り、教室に入った。
少女の席は、窓際の一番後ろだ。
机の上には、千羽鶴が置かれている。
同級生の友達が手紙を置いている。
誰も少女に気付いていない。
「みんな、私、ここにいるわよ」
友達の一人が、呟く。
「早乙女さん、気の毒ね。早く治るように、お祈りしましょう」
少女は、お友達の声に我に返った瞬間、自宅で目覚める。
「お父さん、大変よ。陽子が目覚めたわ・・・・・・」
早乙女陽子十六才は、母の声を聞いて、深い眠りに落ちて行った。
時間の止まった真っ白な世界で月日が過ぎて行く。
「ここは、何処なの」
少女は、光の世界の中で空間に浮かんでいた。
「少女よ、準備は出来たか」
声が少女の中で聞こえた。
「準備ですか」
「次への準備です」
「なんの準備ですか」
「心の中を空っぽにしなさい」
「空っぽですか?」
「そうです」
少女は祈るように、その声に従った。
再び少女が気付いた時、丘の上に白いドレス姿でいた。
丘の前には大きな宮殿があり、ピンク色のカトレアが咲き乱れている。
「シャーリーよ、この異世界にタイムスリップさせた」
「あなたは・・・・・・」
「私は、シャーリーの神さまじゃ」
「シャーリーって」
「お前の新しい名前じゃ、エルヴァドス王国の第一王女になった」
「私がですか?」
「とりあえず、そうなる運命が前世から決まっていたことじゃ」
「シャーリー、学校に遅刻するわよ」
遠くから、双子の妹の声が聞こえた。
エルヴァドス王国、第一王女シャーリー【1068文字】 三日月未来 @Hikari77
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