トリあえず
野林緑里
第1話
トリはひとりでぼんやりとしていた。
トリは読んだり書いたり好きなのだが、その日は何もする気にもなれずにぼんやりと空を眺めていたのだ。
すると一匹の鳥がトリのもとへと飛んできた。
「こんにちわ」
「こんにちわ。鳥さん」
「どうしたんだい? こんなところでぼんやりしちゃってさあ」
「なんかやる気が出ないんだよ」
「やる気がでないとは? なにかあったのかい?」
鳥の質問にトリは首を横に振る。
「別になにもないよ。ただいままであったはずの想像力が急になくなってしまってね。そしたらなにもする気になれなくなったんだよ」
「ふーん。それは大変だねえ」
「ねえ。鳥さんならどうするの?」
「やる気が出ないときはどうするのかと聞いているんだよ」
「そうだね。とりあえず空を飛び回るさ」
「空を飛び回る? そしたらやる気が出るのかい?」
「そうだね。気分はスッキリするよ。そしたら、君もまた想像力があふれてくるかもしれない」
「そっか、それもいいかもね。あっ、ぼくは飛べないよ」
「確かに君は飛べないよね。トリって名前なのに空を飛ぶための翼がないもんね」
「なんだよ! その言い方! そんな皮肉を言わないでくれよ」
トリはムッとする。
「あっ、ごめん。ごめん。皮肉をいったつもりはないよ」
「そういう言い方も腹が立つんだよ」
「えっと、ごめん。言い方を間違えたよ。だから、ぼくが言いたいのはね。確かに君には翼はないけど、翼はちゃんとあるんだよ」
「意味がわからないよ」
「うーん。ようするに君には想像の翼があるわけね。だから、とりあえず想像の翼を羽ばたかせてみればいいってことだよ」
「とりあえずなのか?」
「そうとりあえずだよ。とりあえず想像してみたら、何かに出会えるかもしれない」
「出会えなかったら?」
「その時は仕方ないさ。なにせ、とりあえずなんだから、とりあえずやってみたけど、トリ会えずじまいとでもいってみたらどうだい?」
「はあ?」
トリは意味がわからず首を傾げる。
「トリだけに会えずじまい! これが本当のトリあえずってやつさ。じゃあねえ」
そういって鳥はひとり愉快に笑いながら空高く羽ばたいていった。
トリはしばらく遠く離れていく鳥を眺めてきた。
「ダジャレのつもりかーい! ぜんぜん笑えない! 面白くない」
しばらく鳥に対する不満を散々漏らしていたトリであったが、寝転がると空を再び眺めた。
「まあ、とりあえず想像の翼は広げてみるか。もしかしたらとびっきりの物語に出会えるかもしれない。もしも出会えなかったら、トリ会えずとダジャレでごまかすだけさ」
そう思い立つとトリは起き上がると駆け足で家へ帰っていった。
トリあえず 野林緑里 @gswolf0718
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