トリあえず 旅の終わり 【KAC20246】

姑兎 -koto-

第1話 旅の終わり

「山のあなたの空遠く幸住むと人のいふ」


突然、何を言いだしたのか思えば、今度は、幸せを探しに行くという彼。

毎度毎度の迷走、もう、慣れっこだ。

(幸せの青い鳥ってぇのは、意外と身近にいるものですぜ)

まあ、言っても聞かない彼の事。

何も言わずに、旅立ちの準備を手伝う。


「まずは、筋肉作りから。今日からサラダチキンを主食にする」

(え?そこから?)という突っ込みは飲み込んで、サラダチキンを買いに走った。


「ねえ。鶏肉 何で和える?」

「何もいらない」

「何も和えずにそのまま食べるの?」

「その方がダイレクトに筋肉になる気がする」

(いや、気のせいだから)という突っ込みも飲み込んで、そのまま食卓へ。

その日の夕食のメニューは『トリ和えず ブロッコリー添え』

サラダチキンとブロッコリーをお皿に乗せただけの一品。

そして、『トリ和えず』三昧の日々を過ごすこと一か月。

彼は、とりあえず、山に向かい旅立っていった。


*****


一週間後、元気いっぱいで帰ってきた彼。

「山に幸せは居なかった」と、報告内容とは裏腹、嬉しそうに声を弾ませる。

(ってか、幸せなんて、見つけようも無いだろうに)

「具体的には、どんなものを探してたの?」

「幸せと言えば青い鳥だろ?」

(やっぱりね。そんなことだろうと思ってた)

「トリには会えなかったのね」

「うん。トリ会えずだ」

「残念だったね」

「ヘンゼルとグレーテルは、本当だった」

「いや、それ、チルチルミチルな」

いかん!うっかり、突っ込みが声に出てしまった!

「そう、ソレな……」

珍しくしんみりと言った彼は、「帰り道、ずっと、君の事ばかり思ってたんだ。で、君の居る家に帰ることがどれだけ幸せなことだかわかったんだ」と言葉を続けた。

(ほう……)



その日を境に、彼の迷走は止まり、就職活動をして職に就いた。

そして、突然のプロポーズ。


私たちは、青い鳥を飼うことにした。

毎朝、鳥のさえずりで目覚める日々。

『幸せは、いつもここにある』


ー完ー


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