【KAC20246】カクヨムのトリさん×おとぎ話、名作劇場

無月兄

シンデレラ

 むかしむかし、シンデレラがいました。

 継母や姉たちにいじめられ、お城の舞踏会に連れていってもらえないあのシンデレラがいたのです。


 シンデレラは、お城に行けないことを嘆いていました。


「ああ、お城に行きたい。完成したらカクヨムで公開しようと思っている異世界ファンタジー小説の参考に、舞踏会を取材したい」


 実はこのシンデレラ、カクヨム作家だったのです。

 作家は経験したことしか書けない。なんてことはありませんが、本物のお城や舞踏会を取材できるなんて言われたら、みんな行きたいと思いますよね。


 そんなシンデレラのところに、魔女ではなくトリさんがやってきました。

 カクヨムのマスコットキャラクターである、あのトリさんです。


「その情熱、素晴らしいトリ。その願い叶えてやるトリ」


 どうやらトリさんは、語尾に『トリ』ってつけるというキャラ設定のようです。

 公式ではどうか知りませんが、この話のトリさんはそうなのです。


「じゃあ、まずは魔法で君に素敵なドレスをプレゼントするトリ」

「ああ、私は取材に行くのが目的だから、豪華なドレスなんていらないから」

「そ、そうかトリ。それじゃ、トリあえずドレスコードに引っかからない程度の衣装にするトリ」


 そうしてシンデレラに与えられたのは、本当にトリあえずっていった感じのコーデでした。

 ガラスの靴もありません。


 それからトリさんは、魔法の杖を使ってシンデレラをドレスアップさせお城へワープしました。

 この辺の流れはみんな本物のシンデレラで知っているでしょうから、ちゃっちゃか進めます。


 念願のお城に来たシンデレラは大喜び。

 もちろん自分が踊るわけでもなく、大はりきりで取材をし、必死でネタ帳にメモをとっています。


「ふむふむ。音楽は楽団を呼んでいるのね。それに、お城の内装ってこんなになってるんだ」


 するとそんなシンデレラを見て、一人のイケメン青年が声をかけてきました。


「やあ。君はこんな所で何をしてるの?」

「はい。実は私、カクヨム作家で、新作のヒントになりそうなものはないか取材しているんです」

「本当? 実は僕もカクヨムユーザーなんだ。って言っても、僕は読み専だけどね。新作って、どんな話しなの?」

「えぇーっ。まだ書き始めてもいない作品を話すのは恥ずかしいですね。けど、いいですよ。実はですね……」

「おぉっ、それは面白そう。公開したら、絶対読むから」


 まさか、こんなところでカクヨムユーザーに会えるなんて。

 シンデレラと青年はあっという間に意気投合して、大いに盛り上がりました。

 さらに青年はお城の中を案内し、創作に使えそうなネタを次々に話してくれました。


 しかし、そんな楽しい時間は長くは続きません。

 皆さんご存知の通り、12時の鐘が鳴ると魔法は解け、シンデレラは帰らなければならないのです。


 で、その鐘が鳴りました。


「いけない。帰らないと!」

「それは残念です。けど、楽しかったよ。執筆、頑張ってね。応援してるから」

「ありがとうございます!」


 こうしてシンデレラは、舞踏会から帰ってきました。


 しかし、そんな彼女を悲劇が襲います。

 なんとお城から帰る際、せっかく取材したネタ帳を落としてしまったのです。


「そんな! よよよ……」


 悲しみのあまり泣き崩れるシンデレラ。

 これでは新作を書けないのはもちろん、中身を見られたら色々恥ずかしすぎて、間違いなく黒歴史になっちゃいます。


 しかしそんな時でした。何やら街が騒がしいのです。なんでも、王子様がやってきたのです。


「言うても私、王子様なんて興味ないし……って、あの人は!」


 あまりに騒がしいので、とりあえず外に出て王子様の顔を見たら、ビックリ仰天。

 あの時カクヨムや小説について語った青年が、なんと王子様だったのです。

 しかもその手には、落としたネタ帳が握られていました。


「このネタ帳の落とし主を探しています。自分がそうだという人は、どうか名乗り出てください」


 やった! これでネタ帳を返してもらえる。

 絶対他人には見られたくないネタ帳でしたが、彼なら舞踏会の日に散々語り合ったので例外です。

 よかったよかった。


 しかし、そう思ったのも束の間。なんと、私こそが落とし主と名乗る女性が何人も現れたのです。

 みんな、王子とお近づきになりたいのでしょう。


 これは困りました。ネタ帳と一緒にガラスの靴でも落としていれば、それを履いて私が落とし主だと言えたのです。

 しかしこのシンデレラは、靴を落とさなかったどころか、そもそもガラスの靴を履いてすらいませんでした。

 トリあえずでコーデしたこと、すごく後悔しました。


 しかし、そこで王子は言いました。


「本物なら、このネタ帳に書いてある内容を知っているはず。僕の質問に正しい答えを出せた人が本物だ。ネタ帳に書いてあるプロットで、騎士団長と結ばれる相手は誰?」


 私こそがと息巻いていた嘘つき女どもは、揃って困惑しました。

 他人が考えている途中の物語なんて、わかるはずがありません。


 それでもなんとかワンチャンを期待して、お姫様だのメイドだの町娘だの答えますが、全てハズレ。

 そして、いよいよシンデレラの番がやってきました。


「騎士団長と結ばれるのは、彼の騎士団に入ってきた新米騎士です。構図としては、新米騎士×騎士団長。普段の任務や特訓では騎士団長が厳しく指導していますが、二人きりの時はその関係が逆転するのです」

「うん。完璧だ」


 シンデレラが書いていたのは、BLだったのです。


「普段完璧でいなきゃと気を張ってる騎士団長に、新米騎士が、もっと弱い所を見せてと言って迫るところ、すごく楽しみにしてるよ。早く完成したやつを読みたいな」

「任せてください。すっごくときめくやつ、書きますから!」


 こうしてネタ帳は無事シンデレラの手に戻り、後に約束通り、この作品はカクヨムに公開されます。

 その第一の読者は、宣言通り王子様でした。

 シンデレラのアカウントをフォローして、新作通知が来るのをいつも楽しみにしていたそうです。


 その後、この話は見事カクヨムコンで受賞し、シンデレラはお城の舞踏会よりもっともっとすごい、カクヨムコンの授賞式に出席したのです。


 めでたしめでたし。




 ※次回、マッチ売りの少女。お楽しみに。

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