源頼政、歌物語
月夜野すみれ
俊恵、危機一髪!
俊恵も和歌の名人だが頼政は素晴らしい名人と言われたほどの歌人で、歌会に引っ張りだこなのである。
「頼政卿、どうされました?」
俊恵がそう訊ねると、頼政は紙を取り出して、
「今日の歌合のために作ったものなのですが、どう思われますか?」
と、訊ねてきた。
〝都には まだ青葉にて 見しかども
紅葉散りしく 白河の関〟
「そうですね……」
俊恵が、
「
と答えると、
「ありがとうございます。では、あなたの判断を信じてこの歌を出すことにします」
頼政はにこやかにそう言った。
「責任は取ってもらいますよ」
えっ……!?
その言葉に俊恵は顔から血の気が引くのが分かった。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……。
頼政は当代きっての歌人だが血の気の多い
殺される……。
頼政狂――もとい卿が負けたら殺される……。
歌合というのはただ歌を読むのではない。
試合なのである。
左右に分かれて一人ずつ歌を詠み、
当然頼政より相手方の歌の方が優れていれば相手が勝つ。
歌合が終わった後、頼政からの使いが勝ったという報告と礼を伝えてきた。
「いや、良いと思った点を伝えたんだけど生きた心地がしなかったよ」
俊恵はげっそりとした表情でそう言ってから、
「とりあえず、命拾いしたんで安心したよ」
と付け加えた。
この歌合では、
〝子を思ふ
捨てじとすれや
と言う歌でも頼政は勝っているのだが、
「頼政卿は鳰の浮巣のことをよく分かってないのですね。あれはそんな風に揺れるものではない。歌合に出た者は誰もそのことを知らなかったのですね。まぁ言ってもしょうがないので言いませんでしたけど」
と陰で言っていた。
怖くて本人には言えないよなぁ……。
と思ったが俊恵も祐盛法師にはそれを言わなかった。
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