おとりとなったトリ

タカナシ トーヤ

トリあえず

幼い頃、自分はセキセイインコに興味津々だった。

鳥なのに、人間の言葉を喋るのである。

不思議で不思議で仕方がなかった。


テレビでオウムやインコが出てくるたび、その不思議な魅力に惹きつけられた。

ホームセンターに行っては、鳥に話しかけた。

裏面に印字のないちらしをホチキスで束ねては、インコと暮らす日常を漫画に書き溜めた。


家にインコがいたら、毎日おしゃべりができる!!

人見知りの自分の最高の友達になりそうだ。




当時、自分はピアノを習っていたのだが、頑張って練習したところで、レッスンは


自分が弾く→先生が弾く→自分が弾く


をただ繰り返して最後にシールを貼ってもらうのみで、先生のやる気も感じられず、たいしたアドバイスがもらえるわけでもなく、すっかり意欲をなくしていた。


そんなわけで自分はピアノの練習はサボって、漫画を描くことばかりに熱中していたのだが、当然のことながら親からは、ピアノを練習しなさいといつもいつもうるさく言われていた。



自分はダメもとで言ってみた。

「ピアノを毎日練習したら、鳥を飼ってくれる?」



母からはまさかの回答が返ってきた。

「いいよ。」



想定外の返事に驚きを隠せなかった自分は、嬉しさで舞い上がった。

それから毎日ピアノを必死で練習した。




トリに会うために。




約束の1ヶ月が過ぎた。

「お母さん、1ヶ月ピアノ練習したよ!鳥飼って!!」





母からは驚きの答えが返ってきた。




「◯ちゃん(妹)がアレルギーだから、鳥は飼えないよ。」




!!!!!!!!?????




なんということだ。

そんなこと、親なら最初からわかっていたであろうに。

自分は1ヶ月ピアノの練習を継続することもできないやつだと思われていたのか。

もしくは、適当に返事をして、忘れられていたのだろうか。


トリをおとりにされ、幼心を踏み躙られた自分は、その日以降、ますますピアノを弾かなくなってしまった。



—できない約束は、しない—


自分の心に今でも深く刻まれている出来事である。





トリ、会えず。涙





END



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おとりとなったトリ タカナシ トーヤ @takanashi108

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