死者は何もはなさないでいる
ヤミヲミルメ
死者は何もはなさないでいる
親愛なる我が読者よ!
ここで今までに起きた事件について整理してみよう!
先に言っておくが今回は推理クイズはない!
因習島の名士の大松家の娘で、本土で不動産業を営むお嬢様は、島の開発計画を始めてから何者かによる脅迫を受けるようになり、私立探偵の私を護衛に雇った。
お嬢様が帰島するフェリーには爆弾が仕掛けられ、お嬢様の会社が購入する予定の空き家には致死量の血痕とそれを誰かが捜査した形跡が残されていた。
空き家のもとの住人は梅本という。
梅本家の息子は、大松家のお坊ちゃま(お嬢様の甥)の同級生で、梅本宅はお坊ちゃまを含む地元の若者たちの溜り場になっていた。
……お坊ちゃまの家のほうが広くて集まりやすそうだが、お坊ちゃまの親はこの集まりを快く思っていなかったらしい。
というのも若者たちは、宝探しと称して島民が神聖視する伝承に勝手な解釈をつけて言いふらしたり、他人の敷地に無断で穴を掘ったりしていたのだそうだ。
梅本の親は甘かった……というより、もともと島に長居するつもりがなかったので関心が薄かったのだな。
六年前に梅本一家が本土へ引っ越してからも、お坊ちゃまたちは空き家に集い続けた。
(隣人の証言)
五年前。
贋作作りで悪名高い骨董屋から、大松のお坊ちゃまに宛てて何かが郵送される。
その直後にお坊ちゃまは祠の修理を庭師に命じる。
さらに少しあと、お坊ちゃまが家出。
フェリーに乗った形跡がないので友人の漁船で島を出たと考えられていたが……
空き家で発見された血痕のDNAが、お坊ちゃまのDNAと一致した。
出血の量からして、お坊ちゃまは死亡している可能性が高い。
二年前。
お坊ちゃまの宝探しの仲間で島の神社の跡取りだった竹宮の遺体が、崖の下の海から突き出た岩の上で発見された。
警察は事故として処理した。
なお、祠のささくれに付着していた血液のDNAは竹宮のものと一致。
そして今、私の眼の前に、梅本青年の遺体がある。
梅本の親は、梅本が島に帰っているのを知らなかった。
かつて宝探しに青春を燃やしていた三人の死を、島の人々は祠の呪いのように話している。
そんなわけはない。
神も幽霊も何もはなさないでいるが、死体は雄弁に語る。
答えは、次回以降で。
死者は何もはなさないでいる ヤミヲミルメ @yamiwomirume
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