第一章

第7話 五年ぶりの人


 墓地から出た俺は隠し通路を通って、ボス部屋に出る。


 ボスは倒すと、暫くは出現しない。

 今のうちに、本来は向こう側から入ってくるボス部屋に続く扉を開ける。

 

 はぁ……最後に"先生"を倒したかったな。


 ボスは出現するたびに魔物の周囲が変わる。俺はここ「水之世」のダンジョンのボスは全て把握しているし、どんな魔法を使うかは知っている。


 五年間訓練として、レイン様達と共に多くのボスと戦闘をしていた。

 最初はレイン様達が勝手に倒しており、俺は見ているだけだったが、魔法を鍛えていく内にボスとの戦闘回数が多くなった。


 結局この五年間で単身で倒したボスはさっきのギガントジョーだけだが、レイン様のサポートを入れたら、俺は全てのボスと戦闘経験がある。


 そのボスの中で先生は別格の強さだった。

 せめて、戦っていたのがギガントジョーではなく、先生の方が良かったな。


 ………いや、そもそも今の俺でも先生に勝てるのかな?


 うーん?先生強いからな。

 そんな事を思いながらボス部屋から出た俺は上層を目指してひたすら駆け上がる。


 ボス部屋とその付近はレイン様三人と一緒に何度も修行場所にしたエリアなので、頭の中に地図が出来ている。

 ………いまさらだけど、幽霊って墓地から少し離れても問題なんだ。


 と思っていたら、前方に水辺のエリアで大きな影を見かけた。よく見ると、二頭の大きな角を生やした水牛。

 ウォーターパイソンだ。


 ボス魔物のギガントジョーぐらいはないが、小さい家ほどの大きさ。

 そこそこ強い。


 俺がウォーターパイソンの近くを通ろうとすると、二頭の内の一頭が俺を識別するや否や、俺を睨み付ける。

 そして姿勢を低くして、前方にジャンプするような姿勢を作る。


 恐らくこのまま突進する気だろう。

 あんな大きな双角に一突きにされたら一溜まりも無い。


 ダンジョンは下に行くごとに、魔物の強さは増す。俺はボス部屋から逆算して、上へ向かっているため当たり前の事だが、このウォーターパイソンはボスの次に強い魔物だ。

 確かに、コイツは大きくて獰猛だ。

  

 だが、コイツの危険性はそこではない。

 突進の際の速度だ。


 「おっと!あっぶね!」


 ドガンッ!!

 ウォーターパイソンが踏みしめていた地面が爆ぜたと思ったら、直後に高速の物体が俺に迫る。


 目で捕らえるのが難しいほどの突進が俺目がけて放たれる。巨体さを感じさせない圧倒的速度だ。

 ウォーターパイソンの突進を足運びと体捌きだけで躱す。


 躱した際、ウォーターパイソンが通った場所には細かい水が漂っていた。

 これがウォーターパイソンの魔法〈水の突進〉だ。

 元々の脚力に加え、自身の背後に水を噴出させることで、その反作用により爆発的な突進力を得ているのだ。


 ここで二体目も俺の存在に気づき、同じように〈水の突進〉をかましてくる。


 俺は今、一体目の突進を大きく横に躱した状態なので、うまく体勢が整っていない。

 これだと、次の突進を避けることが困難である………が、

 

 「ほっ!」


 二体目の〈水の突進〉も悉く躱す。

 しかも俺が躱した場所はウォーターパイソンが突進で通り過ぎた場所と同じく、細かい水が漂っている。


 悪いな。お前らに出来ることは”俺にも”出来るんだ。


 ウォーターパイソンの攻撃を回避した俺はすれ違いざま二体のウォーターパイソンに魔法を放つ。


 ザンッザンッザンッ。

 一つだけでなく、複数の魔法。

 ウォーターパイソンは巨大なので、流石に一回の魔法じゃ絶命させることは出来ない。子家のように大きな身体に多くの切り傷ができる。


 「ウモゥ……」


 俺の魔法を連続で浴びたウォーターパイソンは静かに生き絶え、消えていく。

 先生なら一発で真っ二つに出来るかな?


 またしても先生を意識しながら、俺はそのままその層を抜け、上の層に向かう。

 そして迷うこと無く、俺は中層に到達する。


 当然だけど、ここまで来るまでに様々な魔物に出会ってきた。


 巨大な氷塊を生み出して投げつけてくる大氷熊や湖から行き勢いよく飛び出し、俺を食らおうとする多青魚、毒と霧を混ぜたポイズンミストを生み出し襲いかかるトキシンスネークなど。

 こいつらも、まあまあ強い。


 大氷熊の氷海は硬くて質量もあるため、避けるしかない。多青魚も周囲一体を見渡す力がなければ、すぐに身体中を食い尽くされる。

 トキシンスネークの毒霧も何も知らなければ、そのまま毒でやられているだろう。

 

 まぁ…それらを魔法で真っ二つにしたり、氷付けにしたり、霧を水で洗い流したりしたから特に問題は無かったけど。


 中層まで来れば、俺が注意を払うようなレベルの魔物はもういない。

 魔物は余り気にはしていないが、


 「お!あれは……もしかして人か?!」


 前方に十人ぐらいの人影が見えた。


 五年ぶりの俺以外の人に出くわした。……レイン様のような幽霊は含めず。

 何だか感慨深いな。

 装備からして、あれは冒険者かな?


 でも、様子が変だな。動きからして戦っているようだ。


 相手は……アイスウルフか。

 氷の牙を生やして集団で襲いかかる魔物。

 数が多いのは厄介だが、雑魚だな。


 俺はどうするべきか迷った。介入した方が良いのか。しかし進行方向に冒険者達がいるので、仕方なくそっちに向かう。


 

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