はなさないでもわかる好意

朱ねこ

見えるゲージ

「ねえ、なおくん。あのクレープ食べよう?」


 上目遣いに見つめて、笑顔を作る。

 なおくんは、頬を赤く染めて首を縦に振った。


「うん!」


 二人で列に並ぶ。

 私はなおくんの真上を見て、ほくそ笑む。


 大学に入って、私は人間の頭上に不思議なものが見えるようになった。

 ハート型のゲージだ。


 はじめはそれがなにか分からなかった。

 沢山の人と付き合っていくと、次第に色がつき始めた。


 直感的に、好意のゲージだと、認識した。

 ここは小説にあるようなゲームの世界ではない。


 チートなどない世界のはずだった。


 はなさないでも、好き度がわかる。

 数年後の私から思えば、調子に乗ったのは間違いだったと思う。


 恋愛に憧れていた私は、周囲の男性に声をかけ始めた。

 日常会話や遊びの誘い。


 頭上のゲージが上がりやすいのは誰だろうか。

 探りを入れて、ターゲットを数人の男性に絞った。


 なおくんもターゲットの一人。

 なおくんは、大学からのお友達。


 ゲージは七割ほどたまっている。


 今日は遊びと称したデートのようなものだ。


 ピコン、ピコンと私の携帯から音がする。


 電源を入れて、通知画面をみる。

 ターゲットたちからメッセージが入っている。


 なおくんといるから、返事はしない。


 クレープをゲットして、なおくんの隣に座って食べていた。

 楽しく過ごせている時に、なぜかなおくん以外の四人のターゲットたちが目の前にいた。


「え? みんなどうしたの?」

「どうしたのじゃないだろ」

「男と二人きりでデートか?」


 矢継ぎ早に問いつめられる。ターゲットの不機嫌な表情にまずいと感じた。


「遊んでるだけだよ」

「ほんとかよ」

「信じられん」

「ほんとだよ!」


 頭上のゲージが徐々に下がっていく。

 好意がなくなっていくことに焦ってしまう。


「なんで……」

「なんでって。思わせぶりな行動を多数にするからだろ」

「流石に気づく」


 四人のターゲットが離れていき、なおくんまでおどおどしながら私から距離を取って帰ってしまった。


 簡単に好意が消えてしまうなんて。

 ひどく落ち込んで数ヶ月を過ごした。


 季節が変わっても、なぜか幼馴染のゆうきはずっと私にはなしかけてきた。


 ゆうきのゲージはどうなっているか、私は見ようとした。


「あれ?」

「んー? どうしたの?」

「……ううん。なんでもない」


 ハートがない。他の人間の頭上にもない。


 人の好意の度合いが見えないようで、少しだけほっとした。

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