秘めた想いははなさない
高久高久
これは絶対はなせない
「あ、あの……おはようございます……」
目が覚めると、隣に全裸の女の子がいた。
硬直する俺に気付くと、その子は布団で身体を隠しながら言った。どう考えても『昨夜はお楽しみでしたね』案件である。
恥ずかしそうに顔を赤くする彼女。正直可愛い。思わず口に出すくらいには。
その言葉を聞いて、更に顔を赤くするのだが、対照的に俺の顔は青ざめているに違いない。
この子は良く知っている。よーく知っている。可愛らしいこの子は――友人の彼女なのだ。
はっきりと彼女だと紹介してもらった事は無いのだが、良く一緒に居る所は見るし付き合っているのは間違いないだろう。初めて見た時、一目惚れのような衝撃に震えたのだが、事実を知って崩れ落ちたもんだ。泣いた。超泣いた。でも諦めるしかなかった。友人超イイ奴なんで。付き合いも長いんだが、イイ奴過ぎて憎むとかできんのよ。
略奪とかそんな気は一切なかった。でも諦めきれなかった。だからまぁ、何か機会があったら飯とか行く事もあった。昨夜は偶々、友人が参加できないと言うので二人っきりで飲んだ結果――このザマだ。
調子こいて飲み過ぎた。その辺りは覚えている――肝心なコトは覚えてないんですがね! そっちも覚えてろよ俺! 初めてだったんですよ!?
「どうしました……?」
不思議そうな顔をする彼女。首を傾げる姿が可愛い。
「いや、その、えっと……」
何て言えば良いのかわからず狼狽えていると、彼女は小さく笑って布団で顔を隠す。
「その……嬉しかったです……私の事、好きって言ってもらえて……」
あー死ね。昨夜の俺死ね。後覚えてろ俺。
ひとしきり自分を罵倒した後、彼女に向き直った俺は布団の上で正座する。尚パンツは履いていなかった。
全裸で正座した俺は、地面に額を叩きつける勢いで振り下ろす。布団というクッションはあったが痛かった。
「ほんっとーに申し訳ない! 勢いとはいえ、ほんっとーに! 申し訳! ありませんでしたぁ!」
「え、い、いえ、あの! 頭! 頭上げてください!」
「いやこうでもしないと申し訳が立たないのです! 本当に申し訳ない! 後出来ればアイツにはこの事は話さないで貰えると!」
「……あの、好きって言ってくれたのは、嘘なんですか?」
「それはマジです。大好きです、はい」
この際だから言っちまえと、勢いに任せて言って顔を上げた。瞬間、抱きつかれた。何か良いニオイと柔らかい感触に、こう……下品なんですが……ね……
「はなしません」
「え」
「絶対! はなしません!」
彼女は力強く言った。
そんな中、俺の頭の中は「良いニオイだなー」とか「やわらけぇんだけど」とか「いくらなんでも言わないと不味いよなぁ……殴られるくらいなら受け入れるけど……」と頭の中がぐっちゃぐちゃになっていた。
※※※※※
(好きって! 大好きだって!)
彼から言われた言葉が嬉しいあまり、私はつい抱きついてしまった。
――私には、好きな人がいる。
その人は従兄の友人だった。従兄の家に行った際、面倒を見てもらってそれから忘れられなかった。
成長してからも忘れる事が出来ず、話す機会が欲しかったのだが中々上手くいくことが無かった。
従兄に相談した所、ノリノリで「任せろ!」と言ってくれた。その結果、一緒に食事等行く事は出来たが、関係は進展せず。
ある日、従兄が飲み会をセッティングしてくれたのだが、私にこう言った。
「あ、俺この日彼女とデートだから。ちなみにアイツにはこの事は言っていない。後は言わなくても分かるな? なぁに、あの拗らせた童貞野郎、お前が迫ればイチコロよ?」
そう言って送り出してくれたのは良いが……私も経験無いんですけど……?
不安でいっぱいの飲み会であったが、その日はやけに彼はお酒のペースが早い。
心配になり控える様に言うと、赤くした顔で彼は言った。「私の事が好きだ」と。
――お酒が入っていた事もあり、私の理性がぶっ飛んだ。何て言うか、その、襲いました。はい。この事は墓場まで持っていく秘密だ。
目が覚めた彼は挙動不審で、もしかして昨日襲った事を覚えていたのかと不安になったけど、何か勘違いしているみたいで、良く解らない事を言っていた。
それでも、最後に私の事を「大好き」と言ってくれた。
もう我慢できず、抱きついた。
もう絶対に離さない。どれだけ想い続けたと思ってるんだ。
……あ、でも、襲った事は誰にも話さないで欲しい、かな。流石に恥ずかしいので。
秘めた想いははなさない 高久高久 @takaku13
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